2019.10.25
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ラグビー日本代表から考える日本の部活動改革

旭川市立大学短期大学部 准教授 赤堀 達也

ラグビー日本代表がかつてない活躍をしています。世界2強の一角と言われているアイルランドを崩し、前回大会で苦い思いをさせられたスコットランドを倒し、日本史上初のベスト8に入りました。台風で甚大な被害を受けた中、日本国民に勇気を与えてくれています。

彼らは31人の選手(試合はその中から23人)とコーチ陣全員で一丸となる「ONE TEAM」を合言葉に、自分を犠牲にしながら準備をしています。しかし、日本の部活動において、その選手たちの姿勢を「子どもたちにも見習って欲しい」「あのような選手・チームを目標に歩める人になって欲しい」と思いながら指導をしていくことは、もはや古い考えになってしまったのかと感じる情勢であります。このまま日本の伝統的な部活動精神は衰退していってしまうのでしょうか。

私は監督・コーチとなる教員の行い方や考え方によると考えています。今回ラグビー日本代表を見ていると、かなりミーティングを行えているように感じます。試合後のインタビューや大会前の意気込み、大会のために準備したVTRなどの話を聞いていくと、皆キーワードを元にした話をしていることに気づくと思います。「ONE TEAM」から始まり、「犠牲」「準備」というようなフレーズがたくさん出てきます。そして口だけでなく行動にも起こしています。代表クラスの選手でも、他競技では不満がよく出ますが、このラグビー日本代表にいたってはそのようなことが全く表面化していないことは本当に見事なことです。

これは間違いなくコーチ陣・キャプテンのミーティング力です。しかしミーティングは回数を重ねるだけでは飽きが生じてしまいます。きっとキーワードはブレずに、手を替え品を替え、選手の心を動かすようにいろいろと勉強しながらミーティングを行っているのだと思います。そして選手だけに強いるのではなく、コーチ陣もそれだけの行動を起こしているため、それを見てまた選手たちがついてきているのだと推測されます。それがテンポの良い戦術やスクラムの強さとして現れているように思います。スクラムの強さはただ単に筋トレをがんばったとか海外の強い選手を呼んできただけではできません。理論を駆使して全員の力を一点に集約することで、日本の致命的な弱点と言われていたスクラムでティア1の強豪チームと比べても引けを取らないものになっています。

そもそも日本で昔から大事にされてきた「ONE TEAM」の精神は、部活動というチームの中では「下手な選手が上手な選手の犠牲になれ」や「下手な選手が足を引っ張るな」みたいに受け取られていますが、それは大きな間違いです。本来は「下手な選手でも必ず役割がある」「そんな下手な選手にも良い思いをさせてあげよう」という精神です。それを見つけ出せなかった人たちが部活動改革を押し進めているように思えます。しかし、それでいいのでしょうか。日本人は昔から「桜」に特別な感情を抱いてきました。それは「そろって咲くこと・散ることの美しさ」に魅了されてきたからです。そしてそこに日本の精神を見出し、国民性となっています。陸上100mで見ても個々ではまだ世界のトップに及びませんが、100m×4リレーなら世界のトップと同等に肩を並べることができます。それが日本の戦い方です。その精神「ジャパンスピリット」を、部活動を通して伝えていくことは大きな意味があるのではないでしょうか。

ただ、個の力で世界と戦える選手も増えてきていることも確かです。個を埋もれさせないことも考える必要もあります。ここまでは個を優先し、ここからはチームを優先するとする線引きをしっかりするところに指導者の裁量が出るのだと思います。

子どもたちの人間力が上がり、教員の言葉に踊らされず、指導者の人間性を見抜いてから行動するようになってきています。「自分はその競技を知らないから」「子どもが言うことを聞かないから」と言っていませんか。それは「見透かされている」ということではありませんか。未経験で顧問になり、そこから勉強して全国大会で指揮を執っている教員は確実にいます。そのような教員たちの足を引っ張るような部活動改革になってはいけないと感じています。(でも子ども主体という点は忘れないで欲しいと思います)私だけかもしれませんが、このラグビー日本代表の活躍は、日本の部活動教育に一石を投じるような気がしています。

赤堀 達也(あかほり たつや)

旭川市立大学短期大学部 准教授・北海道教育大学旭川校女子バスケットボールヘッドコーチ
これまで幼児・小学生・中学生・高校生・大学生と全年代の体育・スポーツ・部活動指導してきた経験から、子どもの神経に着目したスポーツパフォーマンス向上を図る研究を行う。

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