2021.02.12
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なぜ部活への外部指導員導入が教員の仕事を減らさないのか ~外部指導員導入時に考えるべきポイントは?~

今回は話題を変えてクラブの外部指導員について書きたいと思います。教員の働き方改革が議論されています。しかし、その議論に学校の実情が伝わっていないように思えてなりません。今回はクラブの外部指導員に焦点を当てて、働き方改革を考える際の重要なポイントを考えたいと思います。

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

外部指導員の大切さ

自分の専門ではない競技の顧問になった時に技術指導という問題があることは事実です。自分自身前任校では、経験あるソフトテニス部の顧問でしたが、転勤してまったく経験のないバドミントン部の顧問になり、この問題に直面しました。

教員の中には「経験したことないスポーツでも生徒とともに学んでいけばいい」という方がおられます。実際ソフトテニス部の顧問時代も、ソフトテニス未経験で素晴らしいチームを作っている先生方に出会いました。確かに生徒と学んでいくことが大切なのでしょう。しかし部活動が勤務時間外や週末に行われることを考えると、家庭やほかの校務の事情でクラブに力を注げないときがあるのも事実です。全教員に「顧問も仕事だから、(週末なども関係なく)その教義を学び指導しなさい」というのはよくないと思います。そこで外部指導員の導入が効果的であるように思えます。

たしかに経験したことのない競技の顧問になったときに、技術指導をしてくださる外部指導員の存在はありがたいです。生徒も喜び、上達します。ここだけを見ると、外部指導員の導入によって教員の負担が減ったように見えます。しかし実はここに落とし穴があります。実はこの結果教員の仕事は増えるのです。このことは教員ならだれでも実感しているのですが、意外と学校外の方には知られていないように思います。なぜかわかりますか。

チームが強くなる=仕事が増えるという事実

いい外部指導員の方に出会えると、生徒の技術力や精神力が向上し、指導者不在の時より試合に勝てるようになることが多いです。このことは、試合数の増加やそれに伴う事務作業、そして活動時間や練習試合の増加を伴うのです。

自分自身、ソフトテニス部の顧問だった時は自分のチームが勝ち、より上位の大会に進出することはすごくうれしく、それによって生徒が成長する場面も数多く見てきました。そしてチームが強くなると強豪校から練習試合の声がかかり、新たな出会いもあり、それが自分の刺激にもなっていました。しかし今振り返ると、チームが強くなると同時に仕事は間違いなく増えていたことも事実です。

部活動の公式戦や練習試合は週末に行われることがほとんどです。試合に勝てば、そしてより上位の大会に進めば、週末の活動が増えます。強いチームは練習時間もある程度必要ですし、練習試合のお誘いも増えます。こうして週末の活動が増えます。強くなると生徒たちがより活動時間を増やすことを求めてくることが多く、教員として生徒の声には応えたいと思う人が多いのも事実です。結果的にクラブ活動の時間はより増加します。

教員の負担減を考えるポイントは明確だが、、、

外部指導員の導入でクラブが強くなると、活動時間が増えるということを書いてきました。ここまで読まれた学校外の方は「でも外部指導員がいるからいいのでは?」と思われるかもしれません。実はここに大きな落とし穴があるのです。

中体連や高体連の試合は基本的に教員の引率を必須としています。校内での練習や他校との練習試合も顧問が学校にいることが必須です。つまり外部指導員がいても、現状では生徒が活動する以上、そこには教員が必ずいないといけないのです。また試合や大会は教員が運営していますが、その役員も必要です。強いチームに役員が割り当てられる場合も多く、そこでも教員が動かないといけません。このように現状では外部指導員がいても教員も一緒にいないと活動ができないのです。こうして仕事は増えていき、休みはなくなります。

おそらく外部指導員によって教員の働き方改革を実現する一番のポイントは「日々の練習や試合引率、大会申し込みなどの事務手続きを外部指導員がOK」とできるかどうかなのです。実際にサッカーのユースチームや野球のボーイズリーグなど、学校が全く関わることなく高いレベルの活動ができている団体もあります。ただサッカーや野球の例をどこまで広げることができるでしょうか。教員が関わらないクラブ活動を認めることができるかどうか、これは世論もありますが、生徒の監督という大きな責任を負わされてまで、ほぼボランティアの外部指導員を引き受けてくださる方が本当にいるのかという現実的な問題もあります。逆説的ですが、部活動については教員がほぼボランティアで質の高いことをやってしまっているからこそ、外部委託ができなくなってしまっているのです。こうしたことは他の教育活動にもあるのでしょうが、部活動にそのことが顕著に出ている気がしてなりません。

外部指導員を増加させる、クラブを地域スポーツに移行させるという文科省の方針について個人的に異論はないのですが、誰がそれを引き受けるのかという問題が無視されているように思えてなりません。クラブ活動をすると怪我がつきものですし、生徒同士のトラブル、保護者からの苦情、生徒が成長する裏で、指導者には大きな苦労もついてくるのです。

部活動は各教員の思いが様々で学校現場でも議論しにくい問題です。さらに同じ教員でも、そのときの家庭事情や、どの競技の顧問をしているのかによってクラブへの思いは変わります。だからこそ安易に外部指導員導入で解決する問題ではなく、根っこに活動の際の責任とその引き受け手という問題があること。このことはもう少し学校外の方にも広く知られてもいいように思います。おそらくポイントは「教員が関わらないクラブ活動」というものをどこまで認めることができるかどうかなのでしょう。そして練習試合や校内での活動の際に教員ではなく外部指導員のみを認めることができるかどうかなのでしょう。しかしこの記事を書いているときに、奈良県で学校外の団体が運営しているチームが全国大会出場を決めたのですが、不祥事を起こすということがありました。そのときの意見では「外部丸投げはどうなんだ」というものも多く、クラブ活動を外部委託するのはまだまだ難しいのだろうなあと感じていました。みなさんはどう思われますか?


お読みいただき、ありがとうございました。次回は話題を戻し、総合的な探究のカリキュラム開発から見えてきた仮説について書きたいと思います。引き続きよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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