2019.10.09
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教師の思い込みと親のホンネ

PTAをガッツリやるようなから、担任の先生に転身した立場から眺めていると、そもそも、親と教師は、コミュニケーションの前提となる感覚というか意識というか、そういったものに、すでにズレがあるような気がします。
海外の資料の力を借りて、今回はこのズレについて解説します。

東京都内公立学校教諭 林 真未

教師の思い込みと親のホンネ

その1 ✕親は気にとめてない 〇ほとんどの親は良い親になりたがっている

たとえば仕事が忙しくて子どもを放任しているような親に出会うと、教師は、親は子どものことなど気にとめてないのだなあ、もう少しちゃんと見てあげればいいのに、とつい思ってしまいます。なにしろ教師は、日々子どものことばかりを考えて仕事をしているのですから。

でも、たとえ毎日の暮らしに忙殺されていたり、あるいは親本人の成育歴の影響などで、子どもに適切な世話をできていないように見えても、ほとんどの親は良い親になりたがっています。気にとめてないわけではないのです。

その2 ✕親は子どもがいるのだから、当然子どもの発達を理解している 〇親は子どもの発達を理解していない

教師は、教職課程や研修等で各学年の発達段階について学びます。経験からも、何年生はこんな感じ、と子どもの発達について熟知しています。そして、親だって子どもがいるのだから、当然、教師と同じように子どもの発達を理解していると思いがちです。

たしかに親は、子どもが乳幼児の頃こそ、発達段階について育児書などで学んだかもしれません。けれど、言葉でのコミュニケーションが取れるようになってからは、いちいちその年齢の発達段階を理解して育てているわけではありません

だから、余計な心配をしてしまったり、過分なことを求めてしまったりもするのです。まずは、子どもの発達段階を解説するだけで、親御さんの不安を取り除けることもあります。

その3 ✕私たちは教育を受けた権威だから、親は私たちの言うことを信じる 〇親は自分自身の経験に照らし合わせて、私たちの言うことすべてをテストするだろう

教師の方が、子どもの発達や教育方法について指南したら、親は素直に聞いてくれる……わけではないんですね。教師の側には、こちらは間違ったことを言っていないのだから、子どもと同じように、指示に従ってもらえるという無意識の前提があります。

けれど、子どもとちがって、大人は、何かを学ぶ時には、自分の経験と照らし合わせてそれを吟味します。だから、親になにかを伝えても、すべてが受け入れられるとは限らないのです。

その4 ✕親はなによりも答えがほしい 〇親は情報より以前にサポートがほしい

親御さんから相談を持ちかけられたとき、親はなによりも答えがほしいのだろうと一所懸命になっていませんか。

実は、親は情報より以前にサポートがほしいのです。親の相談に正確な答えを提示する前に、自分の気持ちをわかってもらって、一緒になって心配してもらいたいのです。そしてその上で、共に悩んで導き出した答えこそが、きっといちばん素敵です。

その5 ✕親は率直に批判を受け入れるくらい、十分に成熟しているべきである 〇親は批判には苦痛を見出し、消極的に反応しがちである

親は大人なんだから、自分の子どもの問題行動を指摘されたら、しっかり謝罪して躾けし直すべきだろう。という感想を持った経験、教師なら一度や二度はありませんか。

自分が、教師として人としてしっかりやろうと頑張っているから、つい親にも、率直に批判を受け入れるくらい、十分に成熟しているべきである、と求めていませんか。
しかし実際には、親は批判には苦痛を見出し、消極的に反応しがちです。事実を把握している教師の側からすれば、必要以上に自分の子をかばう姿に違和感さえ覚えることもあるかもしれません。けれどそれは、親が共通して持つ弱さだったんですね。難しいところです。

おわりに

いかがでしたか。実は、この本にはもっともっと詳しい解説が長々とあるのですが、ここではものすご~くはしょってご紹介しました。

ですから、私の短い説明でニュアンスが伝わったか、とても心配ではありますが、少しでも、日々の転ばぬ先の杖になれば、とお届けします。
親と教師のよい関係は、まず、お互いを知るところから。よりよいコミュニケーションのヒントは、また次の機会に。あるいは元モンスターペアレントが伝授する"保護者対応"の極意も参考にしてください。
参考資料
  • AGS刊Dolores Curran著「Working With Parents」

林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

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