2019.07.26
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サークル対話からはじまる ことばの学び(3)

前回、1年生のサークル対話「つたえる」でのやりとりの様子と、そこで起きていることばの学びについて、紹介しました。その「つたえる」の子どもたちの話題をもとに、どのように学びをつくっていくかについて、言い換えれば、話しことばと書きことばをつなぐ学びについて紹介したいと思います。
今回は、1年生の1学期、「つたえる」の話題から、ひらがなの学習へ進んでいく様子です。

お茶の水女子大学附属小学校 教諭 本田 祐吾

5月の中頃、C1児が大切そうに虫かごを抱えて登校してきました。中には、クワガタが二匹。サークル対話で、発表するときに見せたいと持ってきたのです。
「先生、発表の時にクワガタを見せていい?」と尋ねてきたので、「いいよ」と伝えると、机の横の手提げに大事そうに虫かごをしまっていました。そして、「つたえる」の時間になり、C1児に発表の順番が回ってくると、彼はゆっくり、ことばを何度も言い直しながら、話し始めました。

C1 :去年に、去年の、クワガタ、コクワガタが、まだ生きていました。
C2 :去年、かったやつが?
C3 :なになに?
C1 :もらったやつ。
Cたち:えーーーーー
C1 :冬の間冬眠してやっと出てきたから。
C4 :生きてる? ほんとに生きてる?
C1 :うん。今日持ってきたよ。
C4 :じゃあ、見せてよ、みんなに。
C1 :いいよ。(虫かごを自席に取りに行く)
C5 :ほんとに持ってきたの?
C6 :すごい虫なんだよ。
Cたち:えー、さわりたーい。
C2 :だめだよ。
C7 :さわれるよ。
(C1:コクワガタを手に持ち、サークルを一周する)
C5 :それは・・・
C1 :コクワガタ。
C5 :買ったんでしょ?
C1 :買ったんじゃない、もらったの。
C5 :どこでもらったんですか?
C1 :去年だから、覚えてない。
C8 :それは、去年の何の季節でもらいましたか?
C1 :去年の夏。
C3 :それは、ただ(無料)ですか?
C1 :たぶん、ただ。
Cたち:いいなー。
C9 :それは、1人で飼っていたんですか?
C1 :パパとか。
C3 :それは、お友だちとかにもらったんですか?
C1 :うーん・・・たぶん違うと思う。
C10:虫かごにいるクワガタは、そのままずっと生きていたクワガタですか?それとも、卵からですか?
C11:さっき、もらったって言ってたじゃん。
T  :冬を越したんだよね?
C1 :(うなづく)
T  :すごいでしょ。
C11:うん。
(後略)

上の発表のやりとりを見ても分かるように、C1児が「生きていました」まで言い終えると、子どもたちは口々に「えーー」と言い、大騒ぎになりました。その後も、クワガタを買ったのか?という質問から始まって、本当に生きているのか、いつもらったのかなど
の質問をすることで、C1児の短い発表では分からなかったことが明らかになっていきます。
それと同時に、話題の主であるクワガタが目の前にいることで、より子どもたちの知りたいという思いにつながっていくことと、イメージの共有につながっていくのです。

「つたえる」で、このクワガタの発表も含めてすべての発表が終わった後、どんな発表があったかを振り返り、一番良かった話題を一つ選び、
その話題をもとにひらがなの学習を行います。この日は、このクワガタの話題が選ばれたので、まだ学習していなかった「く」を学習することになりました。
サークルベンチに虫かごが置かれ、子どもたちは何度も虫かごを覗いては自分の席に戻り、ノートにクワガタの絵を描きます。だいたいの子どもたちが絵を描き終えると、みんなでひらがなの書き方(この場合は、くわがたの「く」)を学習します。子どもたちが思い思いにノートに描いたクワガタの絵の横に、丁寧に「くわがた」と書いて、ノートが完成します。
このように、「つたえる」の話題をもとに、ひらがなやカタカナなど、文字の学習を行っていますが、これは子どもたちにとって、「今、自分たちが表したい」という、今書くために必要な文字を学習するという、必然性のある学びになるのではないかと思います。
これは、幼児期でもよくあることで、今ことばを書きたいという動機からたどたどしく、必死に文字を書こうとすることがあります。これも、今、書きたいという動機から、教えてもらいながら、また目で見た文字の形を思い起こしながら書きます。今、わたしにとって必要なことなのです。こうした子どもたちの自発的な学びの動機を教室の中でも作っていきたいと思っています。
こうした学びの積み重ねが、ことばの学習を超えて、「自分たちで学びをつくる」意識を育てていくことにもつながっていくのではないかと思います。

教室に話を戻すと…
ノートにひらがなと絵をかいた後は、プリントで個々にひらがなの練習をします。
学習の進め方は、まず十字リーダー付きのマス黒板に教師が学習する文字を書き、それを子どもたちが見るところから始まります。教師が文字を書き終えると、もう一つのマス黒板に字を書きたい子どもを募り、一人の子に書いてもらい、それも子どもたちがよく見ます。子どもがマスに文字を書き終えると、学級全体で「よかったところ」と「ここを直すともっと良い字になるところ」を出し合います。
「書き順が合っていた」「書き始める所がちょうど良かった」など、子どもたちの意見が出されていくうちに、習う字を上手に書くポイントがつかめてきます。
それが終わると、
「く」を学習するプリントを配布し、子どもたちがそれぞれ、「く」の練習を始めます。このプリントはオリジナルで作成していて、文字とことば集めの学習が中心になっています。ことば集めは、ひらがな学習の最初の頃は、思いつかなかったり分からなかったりする場合は、少ない数でもよいことにしています。ことば集めは、難しい場合はみんなで見つけたことばを出し合う時間をとるなど、学び方を固定化しすぎず柔軟に行うようにしています。

本田 祐吾(ほんだ ゆうご)

お茶の水女子大学附属小学校 教諭
ここ数年は、主として低学年を担当し、就学前教育からのボトムアップを大切にした幼小接続期の研究に取り組んでいます。フレネ教育やイエナプラン教育を参考に、その知見を生かして、個別と協働・プロジェクト型の学習を作っています。子どもたち自身の手で学びや生活を創る中で、教師がどのようにあるべきかを模索しています。

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