2019.07.09
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サークル対話からはじまる ことばの学び(2)

前回、学習や生活の中でどのようにサークル対話を行っているかについて、簡単に紹介しました。今回は、次回予告をしたサークル対話の中でも中心的な活動である「つたえる」について、紹介したいと思います。1年生の1学期の「つたえる」の様子です。

お茶の水女子大学附属小学校 教諭 本田 祐吾

私のクラスのサークル対話の中でも、もっとも大切にしているのが「つたえる」の時間です(前回の日誌もご覧ください!)。
この「つたえる」では、生活の中で発見・経験したことなど、みんなに伝えたいことがある子が一人ずつ話します。一人の話が終わると、分からないことやもっと知りたいことを質問し、自分の思ったことや感じたことを率直に語り合い、聴き合います。
何人発表し、何人質問するかは、その時々に子どもたちと相談しながら決めていますが、現在(2年生)は1人5分の持ち時間の中で発表と質問などを行い、6人までの発表を行っています。

6人全員の発表が終わると、ふりかえりを行います。ふりかえりは発表した子一人ずつ、聴き手側の子が、発表者が伝えたかったこと、そこから分かったことなどを発表します。各発表者にとっては、自分の発表がどこまで伝わったのかがわかり、聴き手にとってはどんな発表だったかを思い出す時間にもなります。

そして、発表後にどの発表が良かったかを投票します。この投票は、良いと思った発表全部に手を挙げて良いので、全部に手を挙げる子もいれば、一つに絞る子もいます。そこで一番支持が多かった発表をもとに、共同推敲という学びを行っています。これについては、さらに別の機会に書きたいと思います。
そして、この発表からふりかえりまでの進行も子どもたちの手で行っています。

今回は、1年生の6月頃の「つたえる」を紹介したいと思います。
1年生の「つたえる」では、子どもたちは自身の生活や経験を語るだけでなく、モノを教室に持ち込んで話をします。例えば、春はミミズや摘んできた花、夏に近づくとクワガタやカブトムシの幼虫、他にも自分でつくった工作や絵、拾ったきれいな石など、様々なモノが教室に持ち込まれます。まだ、子どもの話は断片的で足りないことが多いですが、持ち込まれたモノや質問を通して、話し手の伝えたいことが徐々にイメージになってきます。その中で、ことばのイメージも共有されてきます。その様子が見える一コマを紹介します。C1くんが、千葉県に行って子鹿を見た話から、次のようなやりとりがされました。

 ※C1、C2‥は子ども、Tは教師です。
C1:前、千葉県に行って、子鹿が出ました。
C2:こじかって?
C1:鹿。子どもの鹿。
C3:私、それ質問しようと思ってたのに。
C4:子鹿はかわいかったですか。
C1:よく見えなかったの。車で走っていたから。
(中略)
C5:あの…、あの…、子鹿は……お母さんと一緒でしたか。
C1:お母さんとお父さんと一緒でした。ちょうど旅行中だったから。
T :子鹿が、お母さんと一緒だったのかを聞いたんだと思うよ。
C1:ちがう。
(中略)
C1:もう一つだけ言いたいことがある。
T :なに?
C1:野生の鹿。野生の子鹿。
C6:野生って何?
T :(C1児を見ながら)野生って何?
C1:野生ってね、あのね、動物園では飼われているけど、飼われていないと言うこと。
Cたち:え??
C7:動物園で飼われている動物いるじゃん、じゃなくって、森に自分で食べ物を食べて住んでいるってこと。
C8:僕それ見たことある。
(後略)

この発表では、まず「こじかって」の質問に、C1児が「子どもの鹿」だと説明をしています。また、後半では、C1児の「野生の子鹿」に対して、「野生って何?」との質問が出されます。C1児は、自分なりに理解していることを、みんなに分かるように必死に説明をしているのですが、上手く伝わらず「え??」と言う声が出されてしまいます。そこで、C1児の伝えたいことやそのことばを自分なりに理解しているC7児が、自分のことばで説明をし、皆が納得しました。
このように、自分の知らないことを質問できる雰囲気があり、それに対して子どもたちが語義を説明しようとし、補い合う関係性が「つたえる」では生まれます。このように語義を共有することは、対話を深めるための不可欠のプロセスであり、公共性の要にもなることです。

また、別の日の「つたえる」では、こんな発表とやりとりがありました。

C6:いつか忘れたけど、いつかから靴下を洗うようにしました。
Cたち:え?? 靴下洗うの?
C9:どういう意味かわからなかったので。
C6:もう一回言えってこと?
C9:うん。
C10:意味がわかんないの。
C6:毎日、学校の靴下を洗うようにしています。
C1:だれが? 洗濯機が洗うの?
C6:ちがう。ぼくが。
C1:そうなの!洗濯機が洗うんじゃないんだ。
C11:自分で洗っているってこと?
C6:そう。
C7:それは、手で洗うんですか。それとも洗濯機に入れて洗うんですか。
C6:えっと、水色の石けんをつけて、それでたわしでこする。お風呂に入る時に。
C12:C6くんの家には洗濯機がないんですか。
C6:あります。
Cたち:(笑い)
C6:ないわけないじゃん。
Cたち:(笑い)
T :何で靴下を洗うようになったんですか?
C6:靴下が汚いから。
T :お母さんに言われたから?
C6:うん。
(後略)

この発表では、子どもたちは「靴下を洗う」ということが理解できません。おそらく、家では大人が洗うのでしょうし、洗濯機に放り込むだけなのでしょう。そうした発表者と聴き手のズレが、質問をしていくうちに、少しずつ明らかになり、最後にはC6児が「自分で靴下を洗っている」ということがわかります。
このように、発表者に寄り添いながら、伝えたいことをわかろうとする中で、聴き手は聴くということ、話し手は伝えるということができるようになってくるのではないでしょうか。

子どもたちは、自分たちで互いの伝えたいことをわかり合おうとし、様々な質問をしながら乗り越えていきます。こうした経験を通して、話し手としてどう伝えればよいのかを少しずつ掴んでいき、聴き手としてどのような質問をすると話し手の伝えたいことが分かるのかも掴んでいきます。また、子どもたちが自分のもっている知識を総動員しながら、知らないことばの意味も共有していきます。

私は、毎年、子どもたちの持っていることばの知識量に驚かされます。大人が思っている以上に子どもたちはことばを知っているな、と感じています。
そして、このサークル対話「つたえる」で大切にしたいことは、話す力・聴く力を育てるために行うのではなく、子どもたち同士がわかり合おうとする過程の中で、話す力・聴く力が育っていくのだ、ということを意識して実践することです。

本田 祐吾(ほんだ ゆうご)

お茶の水女子大学附属小学校 教諭
ここ数年は、主として低学年を担当し、就学前教育からのボトムアップを大切にした幼小接続期の研究に取り組んでいます。フレネ教育やイエナプラン教育を参考に、その知見を生かして、個別と協働・プロジェクト型の学習を作っています。子どもたち自身の手で学びや生活を創る中で、教師がどのようにあるべきかを模索しています。

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