恵幸川大作戦!~川西小5年生だけの恵幸川鍋を作ろう!~(vol.5) 【食と感謝の心・食文化・地産地消】[小5・総合的な学習の時間]
食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。今回は「恵幸川大作戦!~川西小5年生だけの恵幸川鍋を作ろう!~(vol.5)」、最終回です。
子どもたちを取り巻く環境の変化により学校が抱える課題が複雑化・困難化する中で、これまでどおり学校の工夫だけにその実現を委ねることは困難になっているとして、新学習指導要領では、「よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創る」という目標を学校と社会が共有し、連携・協働しながら、子どもたちに育む「社会に開かれた教育課程」の実現が目指されています。「社会に開かれた教育課程」の実現のためには、何より学校が自分たちにできることの限界を知り、そして、地域・家庭の「参画」を促し、一方的ではなく双方向の関係の中で、共に子どもたちの学びを創り上げようとする意志を明確にもって教育活動に取り組まなければなりません。
子どもたちにとって最も身近な社会とは、自分たちが暮らす「地域」です。その地域と学校が連携をし、子どもたちの学びを創造しようとすることで、子どもたちの学びはより生きた学びに、そして、深い学びになっていくと考えます。
Vol.4では、生産者のみなさんに自分たちの恵幸川鍋への思いを伝え、集まった加古川産の食材を使ってはじめての恵幸川鍋づくり、そして、加古川の食を広めるためのパンフレットづくりに挑戦する子どもたちの様子をお伝えしました。
最終号のVol.5では、プロの料理人に恵幸川鍋づくりのコツについて教えていただき、さらに、学びの集大成としてこれまでお世話になった生産者のみなさんを招待し、一緒に鍋をつつきながら、笑顔で学習を終えていく子どもたちの様子をお伝えしたいと思います。
1 プロの料理人から料理を学ぶ
12月にはじめての恵幸川鍋の試作品を作った子ども達。Vol.4でもお伝えしましたが、味はおいしかったものの、振り返りでは、汁が少なかったり、まだ固い野菜があったり、反省点もたくさん出たので、次の試作品づくりに活かしていこうとなりました。そこで子どもたちの次なる課題は、
「どうすればもっとおいしい鍋を作れるか」
「どうすればもっと素材の味が生かせるのか」
となりました。
ここまで、壁にぶつかる度に地域の人にお願いをし、教えてもらうという経験を積み重ねてきた子どもたちは、ぜひ料理のプロに教えてほしいということで、恵幸川鍋の開発者の藤本さんに相談をし、料理店を営むプロの料理人であるヒナタさんをご紹介いただき、ゲストティーチャーとしてお越しいただくことになりました。
ヒナタさんにお越しいただいた当日、課題意識が高まっている子どもたちは、前回うまくいかなかったところについて
「大根の葉や白菜の芯は入れたほうがいいですか」
「具材が型崩れしない方法はありますか」
「野菜を切る大きさはどのくらいがいいですか」
「手際よく料理をするコツはありますか」
「料理で大切にしていることは何ですか」
など、たくさん質問をしながら料理のコツを教えてもらいました。
また、教えていただく中で、
「料理は『おいしい』と言ってもらえるように、食べてもらう人のことを考えながら気持ちを込めて作ることが大事」
という、野菜を育てる時だけでなく、調理の時にも「思い」が大切であることも教えていただきました。
「鍋はシンプルな分、少しの手間でとってもおいしくなる」
というヒナタさんの言葉どおり、入れる順、切り方などを少し変えるだけで、
「前よりも100倍おいしくなった!」
という感想がでるほど、見違えるほどおいしい鍋を完成させることができました。
2 参観日でお家の人に振る舞う
2月の参観日に、自分たちの恵幸川鍋をお家の人にも食べてもらおうということで、学習発表会を兼ねて保護者の方々に食べていただきました。
自分たちだけの恵幸川鍋づくりにむけて、たくさん悩み、話し合い、そして、たくさんの人に関わっていただいたこと、そして、その中で、加古川の食材を知り、その食材にはたくさんの“思い”が込められていることなど、たくさんの学んできたことを発表で伝えました。
さらに、発表を聞いてもらった後に、前日から心を込めて仕込んでおいた恵幸川鍋を振る舞い、身も心もあたたまる時間を過ごすことができました。保護者のアンケート用紙にも、
「思いのこもった鍋は、すごくおいしくて、心も体も温かくなりました」
など、うれしいお声をたくさんいただき、子ども達も大きな達成感を感じているようでした。
3 感謝の会
いよいよ待ちに待った、お世話になったみなさんと一緒に鍋を囲んで食べる最後の恵幸川鍋づくりです。
事前に招待状を送り、当日はこれまでお世話になった10名の方々に来ていただきました。参観日と同様にこれまでの学びの集大成として学習発表をした後、朝から仕込んでおいた鍋をみんなで食べました。これまでお世話になった方々と一緒に鍋をつつき、鍋づくりの苦労などを話しながら温かい時間を過ごすことができました。お世話になったみなさんから、
「とっても美味しい鍋だったよ」
「みんなの学習に驚いたよ」
「思いがとっても伝わってきたよ」
という嬉しいお言葉をたくさんいただくことができ、子どもたちは大きな達成感をもって学習を終えることができました。
これまでの学習を振り返るノートには、
「最初に提案した日は6月18日、そこからあらためて、自分たちはすごい!と思いました。ぼくはこの加古川市が大好きです。なので、加古川市の人々だけは、ぜったい恵幸川鍋を知ってほしい!という思いを持っています」
「藤本さんをはじめ、様々なゲストティーチャーにきていただいたおかげで、とっても深い学習になったし、もしそれがなかったら全く違う鍋になっていたと思いました。私はこの人から学ぶことが一番大切なことだと思いました」
「私は全然地元の食材を知りませんでした。ですが、みんなで見つけ出すところからはじめ、その生産者さんに私たちの作った恵幸川鍋を食べてもらう所まで来ているのは本当にすごいと思います。食べてもらった時、生産者さん1人1人がとても笑顔で「おいしかった」と言ってくれました。こんなに加古川市が一丸となり、楽しめるのは他にないんじゃないかと思います」
などの記述が見られ、子どもたちにとって、今回の学習が、成就感や達成感を感じる大きな学びとなったことがよく伝わってきました。
4 これまでの実践のまとめ
子どもたちは恵幸川鍋づくりを通して、地域の食に関する様々な課題に出会い、地域社会と主体的に関わり合うことで地域の食材を知り、食材に込められた願いや思いを知ることができました。
また、その中で、地域への愛着を深めさせ、「加古川の食のために自分にできることをしたい」という、「よりよい社会を創る力」を身に付けることができたと考えます。その要因について、次の3つの視点で振り返ります。
① 地域人材と連携・協働の必然性を生み出す地域教材の開発
② 地域社会の課題解決に参画できる教育課程
③ 地域社会と共に創り上げる教育課程の創造
本実践は、地域社会とともに教育課程の編成・実施・評価・改善を一貫して実施できる関係を構築し、単元計画から恵幸川鍋の開発者の方々と共に創り上げました。総合の学習のように、教科書も答えもない問いに対して、子どもたちがよりよい解決に向けて学習を進める中で、教師自身もその問いに対して子どもと共に悩み続けます。その時に学校内だけで解決しようとすると、学校がもつ知識や情報の中で終始してしまい、子どもたちによりよい支援ができない場合があります。
そこで、「社会に開かれた教育課程」として、学校の「知」だけではなく、地域社会の「知」と連携させていくことで、本質に向かう深い学びとなる教育過程に創りあげることができると考えます。
そのためには、学校と地域社会をつなぐ基軸となる地域教材を開発し、地域社会の人々にゲストティーチャーとして単発で参加していただくのではなく、地域社会と育てたい子どもの姿を共有し、その目標に向かって、連携・協働をして教育課程を創り上げていくことが重要となります。
本単元では、計画段階から地域社会と共に創り上げ、課題を解決していく子どもの姿や活動を、一つの課題を解決していくたびに、また、課題にぶつかるたびに、地域社会と共にその子どもの姿を評価し、次なる活動の方策について共に検討をしながら創り上げることができました。
このように、常に教育課程を検討し合える関係を構築できたからこそ、PDCAサイクルを何度も回し、子どもたちの主体性を高めさせ、地域への愛着を深めさせながら、本質に向かう深い学びとなる教育課程を創り上げることができたと思います。
5 最後に
最後になりましたが、本実践は、加古川市のご当地鍋である「恵幸川鍋」を取り上げ、「地元の食材の恵みで、食べた人の心をあたため、笑顔にする川西小5年生だけの恵幸川鍋をつくる」という目標に向かって学習を進めてきました。学習を進めていく中で何度も壁にぶつかりましたが、その度に話し合いを繰り返し、そして、時には恵幸川鍋に関わる地域の方々に協力をしていただくことで、自分たちだけの恵幸川鍋を完成させることができました。その道筋は決して平らなものではありませんでしたが、それまでの苦悩一つ一つが恵幸川鍋への熱い「思い」となり、そして、子どもたちにとって本当に大きな学びになっていったと思います。
この度は5回連載という長期間にわたっての実践報告となりましたが、最後までご覧いただき、ありがとうございました。
今後も、地域社会と連携・協働をし続けながら、子どもたちが夢中になり「遊ぶように学ぶ」姿を目指して、実践を続けていきたいと思います。
藤池 陽太郎(ふじいけ ようたろう)
兵庫県加古川市立川西小学校 教諭
教員5年目で現在は6年生担任(実践時は5年生を担任)。幼児教育の「遊び」をヒントに、子ども達が「遊ぶように学ぶ」授業づくりを目指して、日々研鑽を積んでいる。
藤本勇二(ふじもと ゆうじ)
武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。
監修:藤本勇二/文・写真:藤池陽太郎/イラスト:学びの場.com編集部
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