2019.09.18
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恵幸川大作戦!~川西小5年生だけの恵幸川鍋を作ろう!~(vol.4) 【食と感謝の心・食文化・地産地消】[小5・総合的な学習の時間]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。今回は「恵幸川大作戦!~川西小5年生だけの恵幸川鍋を作ろう!~(vol.4)」です。

学校教育の目的は、よりよい社会を創る担い手を育成することであることは言うまでもありません。「よりよい社会を創る力」とは、「社会のために自分はこうしたい」という、自らの意思をもって社会に関わり参画しようとする実践力であると考えます。
子どもたちにとって最も身近な社会は「地域」ですが、地域に参画し、「よりよい地域社会を創る力」を育成するためには、その原動力として、「よりよい地域にしたい」と思える地域への愛着や地域に対する誇りが不可欠となります。
地域への愛着について、学習指導要領の道徳編には、「郷土での様々な体験など積極的で主体的な関わりを通して,郷土を愛する心が育まれていく」と記されており、地域に対する愛着は、地域社会との主体的な関わりの中でしか育まれません。
つまり、学校教育では、子どもたちと地域社会との主体的な関わりを生み出す機会を創造していかなければならず、その実現の先に、社会に積極的に参画しようとし、よりよい社会を創り出そうとする子どもたちを育てることができるのです。


Vol.3では、生産者の食材への願いや思いを聞きながら、恵幸川鍋への思いを深め、さらに、その思いを活かしながら学びを深めていく様子をお伝えしました。
今回のVol.4では、生産者のみなさんに食材のお願いをし、集まった加古川産の食材を使って、はじめての恵幸川鍋づくりに挑戦するだけでなく、加古川の食を広めようと奮闘する子どもたちの様子をお伝えしたいと思います。

1.恵幸川鍋への思いを煮込む

何度も話し合いを重ね、食材をお願いする生産者さんを決定することができた子どもたちですが、そんな子どもたちの次なる課題は、生産者のみなさんに自分たちの恵幸川鍋への思いを共感してもらえるように、その思いをまとめることとなりました。
「どうして恵幸川鍋を作りたいのか」
「どうしてキムチ鍋じゃだめなのか」
「どうして地産地消にこだわるのか」
「どうして恵幸川鍋で加古川が盛り上がるのか」
など、担任からの問いに対して、
「恵幸川鍋にたくさんの人のこだわりや思いが込められている」
「生産者の顔が分かれば、思いや苦労を知れてもっと美味しくなる」
「恵幸川鍋を食べてもらえれば、加古川市民がチームのようにつながることができる」
「恵幸川鍋が広まれば、加古川の食についてもっと知ってもらえて、生産者のみなさんの食材をもっと買ってもらえる」
などの多様な意見が出され、1時間の短い時間の中でしたが、恵幸川鍋・地域・地産地消について真剣に考え抜くことができました。

  • 思いをまとめる様子①

  • 思いをまとめる様子②

その結果、子どもたちは、次のような恵幸川鍋の思いをまとめあげることができました。

〇たくさんの人の“思い”で、食べた人の心を温め、思わず笑顔になる鍋にしたい!
〇全国に自慢できる鍋にしたい!
〇加古川の食材や生産者のことをもっと知ってもらいたい!
〇加古川を盛り上げ、加古川市民をチームのようにしたい!

これまで何度も話し合いを重ね、それでも解決しない課題について恵幸川鍋を開発した藤本さんをはじめ、農家さんや生産者の方々から直接お話を聞いてきたからこそ、ここまで深い思いをもつことができたのだと思います。その一つ一つの思いからも、恵幸川鍋や加古川への愛着の深まりを大いに感じることができました。

思いをまとめる授業の板書

2.食材をお願いする方法を考える

寄せ書きを書く様子

生産者に伝える思いをまとめたら、次はその思いを伝える方法を決定していきます。本来ならば、一人一人直接会ってお願いをするのがもちろん一番良いのですが、時間と場所の関係上、直接会ってお願いをすることが難しいというのが現状でした。
そこで、思いを伝える方法についてみんなで話し合いを行いましたが、その結果、顔と声が分かるビデオレターと、後から見返すことができる手紙と寄せ書きに思いを込めて、食材のお願いをすることになりました。
ビデオづくりでは、より思いが伝わるように、自分たちで話のストーリーや文章を何度も練り直した上で撮影を行いました。また、まだ直接お会いしたことのない生産者さんには、食材への思いや苦労も教えてほしいとお願いをしました。

お願いをした結果、9人すべての生産者さんに共感をしていただき、地元の食材の恵みとして、下の写真にあるようなたくさんの数の食材を集めることができました。(大根・白菜は自分たちで栽培しました)

川西小5年生の恵幸川鍋のために集まった加古川の食材の恵み

生産者さんからの手紙

自分たちの思いに共感をしてもらえたこと、そして、想像以上にたくさんの加古川の食材の恵みが集まったことに、子どもたちも大きな喜びを感じているようでした。
また、お願いをしていたように、手紙を通して丁寧に食材への思いを教えていただきました。

3.恵幸川鍋の試作品づくり

その食材使って12月にいよいよ待ちに待った試作品づくりを行いました。いただいた地元の食材をおいしく調理するために、鍋作りのコツなどをみんなで調べてから調理を行いました。根菜類などの固いものから煮込んでいくこと、見た目を美しくするためにも食材を置く場所を工夫すること、食材を無駄にしないためにもにんじんなどは皮をむかずに切るなど、それぞれのグループで工夫をし、みんなで協力をしながら川西小5年生だけの恵幸川鍋を完成させることができました。

  • 協力して調理する様子

  • 切り分けられた食材

完成した恵幸鍋

  • 一つ一つの食材の味をメモしながら食べます

  • しめの雑炊までおいしく食べました

子どもたちも初めての試作品に、
「おいしかった」
「体と心があたたまった」
と、笑顔で満足そうにしていました。しかし、試作品づくりの振り返りでは、よかったところも出されましたが、それと同時に、9月に開発者の藤本さんに作ってもらった、恵幸川鍋の味とは違ったようで、たくさんの反省点も出されました。

  • 汁が少なかった    
  • まだ固い野菜があった
  • 大根の葉は苦かった  
  • 具材が多すぎた
  • ごはんが焦げてしまった
  • だしを取った後のこんぶを捨てたことがもったいなかった

恵幸川鍋の試作品づくりの振り返りの板書

  • 試作品の振り返り①

  • 試作品の振り返り②

  • 試作品の振り返り③

もちろんこのままで満足しない子どもたちの課題は、「どうすればもっとおいしい鍋を作れるか」となり、今回の反省点を踏まえて、藤本さんにどうすればよいか相談をすることにしました。すると、藤本さんが一緒に恵幸川鍋の開発に携わったプロの料理人の方を紹介していただくことになりました(教えていただいている様子はVol.5で紹介します)

4.パンフレットづくり

加古川への愛着が深まった子どもたちは、思いをまとめる際にも出された「加古川の食材や生産者のことをもっと知ってもらいたい!」という思いを実現するため、パンフレットづくりに取り組みました。
作成した当初は、リーフレット(A3サイズの1枚)で紹介するつもりでしたが、これまでの学習の積み上げにより、リーフレットの枚数では絶対におさめることができないとわかり、パンフレットにすることが決定しました。
パンフレットの構成や流れについては全体で相談し、残りの内容についてはそれぞれのグループに分かれ、下書きを書き上げていきました。恵幸川鍋でつかった食材や生産者の紹介、また、食材を食べた感想も書きました。
これまで地域の方と共に作り上げてきた学習であったので、パンフレットも地元のプロの方にお願いをしたかったのですが、その実現はなかなか難しかったために、担任がパソコンでパンフレットの形に仕上げ、完成させることができました。

  • パンフレットを作る様子①

  • パンフレットを作る様子②

子どもたちのアイデアを担任が形に

  • パンフレットの1部①

  • パンフレットの1部②

  • パンフレットの1部③

  • パンフレットの1部④

パンフレットは学校のHPに掲載しただけでなく、2019年1月に開催され、加古川市役所の恵幸川鍋グループも出場した「にっぽん全国鍋グランプリ」でも配っていただきました。パンフレット効果もあり、恵幸川鍋は全国第4位に輝きました。

第4位に輝いた恵幸川鍋チーム

第4位に輝いたことを知った子どもたちも、自分の事のように喜び、その振り返りのなかで
「パンフレットを見た人が『あ、食べたい』と思えるパンフレットを作り上げたと信じています。私たちの活動で一人でも笑顔が見れたならよかったと思っています。」
と、自分たちが作成したパンフレットが少しでも地域の役に立てたと、大きな手ごたえを感じていたことがわかりました。

パンフレットの振り返り

Vol.4では、自分たちの恵幸川鍋への思いをまとめ、その思いをもって生産者のみなさんに食材のお願いをし、集まった加古川産の食材を使って、はじめての恵幸川鍋づくり、そして、加古川の食を広めるためのパンフレットづくりに挑戦する子どもたちの様子をお伝えしました。
最終号のVol.5では、プロの料理人に恵幸川鍋づくりのコツについて教えていただき、さらに、学びの集大成としてこれまでお世話になった生産者のみなさんを招待し、一緒に鍋をつつきながら、笑顔で学習を終えていく子どもたちの様子をお伝えしたいと思います。

藤池 陽太郎(ふじいけ ようたろう)

兵庫県加古川市立川西小学校 教諭
教員5年目で現在は6年生担任(実践時は5年生を担任)。幼児教育の「遊び」をヒントに、1年生の子ども達が「遊ぶように学ぶ」授業づくりを目指して、日々研鑽を積んでいる。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・写真:藤池陽太郎/イラスト:学びの場.com編集部

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