2019.08.21
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恵幸川大作戦!~川西小5年生だけの恵幸川鍋を作ろう!~(vol.3) 【食と感謝の心・食文化・地産地消】[小5・総合的な学習の時間]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。今回は「恵幸川大作戦!~川西小5年生だけの恵幸川鍋を作ろう!~(vol.3)」です。

新学習指導要領では、学校の中だけで教育を行うのではなく、社会と連携・協働して子どもたちの学びを作る「社会に開かれた教育課程」の必要性が言われています。総合的な学習の時間の課題として「地域」を取り扱う場合、子どもたちにとって身近な社会とは、子どもたちが暮らす「地域」です。地域社会と連携・協力をすることで、子どもたちは地域の発展のために尽力される方々に出会い、直接話を聞き、そして、その方々の願いや思いを知ることができ、より学びを深めていくことができると考えます。

前回のVol.2では、恵幸川鍋の食材について、型崩れしたものをただでもらうのか、お金を払うのか、何度も議論を重ねながら、学びを深めていく子どもたちの様子をお伝えしました。Vol.3では、恵幸川鍋の調味料や具材を生産する方々にゲストティーチャーとしてお越しいただき、食への願いや思いを聞きながら、自分たちの恵幸川鍋への思いをさらに深めていく様子を紹介していきたいと思います。

1 岡田本家・岡田さんの話

恵幸川鍋の食材について何度も議論を重ねる中で、子どもたちの中に
「もっと加古川の食材について詳しく知りたい」
「他の方の食材への思いも知りたい」
という思いが生まれ始めました。そこで、恵幸川鍋の開発者の藤本さんに相談をしたところ、恵幸川鍋の調味料である酒かすと味噌を製造している「岡田本家」の岡田さんと「高松清大夫老舗」の高松さんにお越しいただき、直接お話を伺えることになりました。

  • 岡田本家の「盛典」

  • 仕込みをする岡田さん

  • 岡田さんのお話

  • 熱心にメモをとります

岡田本家は「盛典」という日本酒を製造している明治7年創業の加古川唯一の酒蔵です。子どもたちにとってはあまりなじみのない日本酒ですが、日本酒がどのように作られていくのか、そして、日本酒を搾り取った後に残る酒かすがどのようにできるのかを、写真とともに分かりやすく教えていただきました。また、
「日本酒は微生物が生きているから仕込む時のお世話が大変」
「だけど、『加古川にはこんなお酒があるんだよ』とみんなが自慢できるお酒を造りたい」
という、日本酒造りにかける思いもたくさんお話をしていただきました。さらに、ぜひ麹(こうじ)の味を知ってほしいということで、アルコールゼロの甘酒も試飲させていただきました。
「すごく甘い!」「お米の甘い味がする!」
と子ども達はとても喜んで味わうことができました。
お話の後の質問タイムも時間が足りないくらい、子どもたちからの質問は止まりませんでした。また、子どもたちの振り返りノートの記述からも、岡田さんの酒造りに対する熱い思いや願いがしっかりと子ども達に届いたことがよく伝わってきました。そして、その熱い思いをしっかりと受け継ぎながら鍋づくりに取り組みたいという気持ちも持つことができたようでした。

  • 子どもの振り返り① 

  • 子どもの振り返り②

2 大豆の収穫と大豆の仕込み

「高松清大夫老舗」の高松さんには、お話をしていただくだけでなく、味噌づくりへの協力も快諾していただきました。ということで、まずは味噌づくりのために大豆の収穫を行いました。7月から栽培し始めた大豆ですが、本当に育つか心配していたものの、9月の末から順調に枯れ始め、たくさんの大豆を収穫することができました。想像以上に地道な作業でしたが、たくさん大豆の収穫に子どもたちもとても喜んでいました。
  • 大豆の収穫

  • 大豆を出していきます

さらに、高松さんとの味噌づくりのために、前日に大豆の仕込みも行いました。事前に高松さんにアドバイスをいただき、大豆に吸水をさせた後、1組と2組が交代で3~4時間弱火でコトコトと煮込んでいきました。さらに、煮込んだ豆はみんなでたたいてつぶし、ペースト状にしていきました。
  • 大豆を煮込みます 

  • 力を込めてつぶしていきます

  • ペースト状になった大豆

3 高松さんと味噌づくり

大豆の仕込みも完了し、「高松清大夫老舗」の高松さんにお越しいただき、味噌ついてのお話と味噌づくりを一緒に行っていただきました。
400年の歴史のある「高松清大夫老舗」の「高松味噌」は加古川市の給食でも使われている子どもたちも大好きなお味噌です。そんなお味噌を造る高松さんのお話は深みがあり、
「仕込みの時期は朝3時から作業をしている」
「添加物が入ってない分、作るのは大変だけど、体にいい自慢のお味噌」
「自分の味噌を喜んでくれる人がいるから、これからも喜ばせたい」
など、味噌づくりのへの思いやその苦労を丁寧に教えていただきました。

  • 高松清大夫老舗の「高松味噌」 

  • 高松さんのお話

そして、待ちに待った味噌づくりの時間。まずは、高松さんに用意していただいた米こうじと塩を混ぜ合せ、そこに前の日に仕込んでいた大豆を練り合わせていきました。実際に自分たちで作業を行うことで、においや感触も感じながら楽しんで体験させていただくことができました。
本来、味噌の発酵期間は1年ですが、今回は恵幸川鍋に使用するため、2月までの5か月の発酵です。どこまでおいしく仕上がるかわかりませんでしたが、子どもたちと高松さんの思いのこもった特別な味噌なので、子どもたちも出来上がりを心待ちにしているようでした。

  • 大豆と麹を混ぜ合わせます

  • 高松さんの仕上げ

4 買わせていただく生産者を決める

岡田さん、高松さんからお話を聞くことで、恵幸川鍋への思いをさらに深めていくことができた子どもたち。学習も進んでいき、そろそろ試作品を作りたくなってきた子どもたちの次なる課題は「だれに食材をお願いするのか」となりました。

食材を決める話し合いの板書

加古川産の食材の種類はそこまで多くない中で、食材をお願いさせていただく方の候補は大体しぼれていました。なので、すぐに決定をするだろうと予想していた話し合いですが……またもやクラスの意見が2つに分かれました。
それはだれに油揚げ・豆腐をお願いするかです。「加古川産の大豆で作られた豆腐屋さん」か「川西小の校区にある豆腐屋さん」(大豆は加古川産ではありませんが、こだわりの絶品豆腐です)のどちらにお願いをするかです。
地産地消にこだわりたい派か、川西小オリジナルにこだわり、川西の校区を盛り上げたい派か。単純な話し合いではなく、どちらの意見にもたくさんの思いが込められており、具材の話し合いの時のようになかなか結論の出ない話し合いが行われました。

  • 子どもの振り返り③

  • 子どもの振り返り④

話し合いの末、悩んでいる子もたくさんいましたが、地産地消にこだわった八幡豆腐営農組合さんの豆腐にお願いをすることが決まりました。他の食材も全て決定をし、子どもたちも日々恵幸川鍋づくりに近づいていくことにワクワクしているようでした。

豆腐屋の話し合いの板書

Vol.3では、生産者の食材への願いや思いを聞きながら、恵幸川鍋への思いを深め、さらに、その思いを活かしながら学びを深めていく様子をお伝えしました。
Vol.4では、生産者のみなさんに食材のお願いをし、集まった加古川産の食材を使って、はじめての恵幸川鍋づくりに挑戦する子どもたちの様子をお伝えしたいと思います。

藤池 陽太郎(ふじいけ ようたろう)

兵庫県加古川市立川西小学校 教諭
教員5年目で現在は6年生担任(実践時は5年生を担任)。幼児教育の「遊び」をヒントに、1年生の子ども達が「遊ぶように学ぶ」授業づくりを目指して、日々研鑽を積んでいる。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・写真:藤池陽太郎/イラスト:学びの場.com編集部

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