2022.12.05
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児童たちが話したくなる算数の授業とは(前編) 東京学芸大学附属大泉小学校「算数」授業リポート

学びの場.com「教育つれづれ日誌」で連載を持つ、東京学芸大学附属大泉小学校の神保勇児教諭。ファシリテーションの技術を生かし、児童たちが話したくなるような算数の授業づくりを実践している。今回は、202211月に行われた東京学芸大学附属大泉小学校5学年の研究発表会を取材した。

研究授業

「ならす」の意味を考える

【授業概要】

学年・教科:小学校5年生 算数
単元:5年D領域「測定値の平均」
目標:量がばらばらなものをならすことで一人分が同じになることを理解する
指導者:神保勇児 教諭
使用教材:TVモニター、Apple TV、Google Jamboard、ビーカー、メスシリンダー

今回取材した授業は、海外の現地校に通っていた帰国子女を対象にしている。帰国子女は日本語の語彙や漢字の習得のみならず、算数に関しても課題があるという。日本と海外では算数のカリキュラムに違いがあるからだ。そのため、九九を覚えていない児童がいる一方で、日本では6年生で習う「比」を4年生で学習している児童がいるなど、習熟度にもばらつきがあるそうだ。

(1)導入

授業のテーマは「測定値の平均」。現行の学習指導要領には「第5学年では、ならす操作としての平均の求め方を考え、測定値の平均の意味につなげる」とある。平均について理解する上で、「ならす」という言葉はひとつの重要なキーワードだといえる。

神保教諭は「ならす」の例として、体育の授業で走り幅跳びをした際に土のでこぼこを平らにした場面を取り上げた。

「皆さん、体育の授業で走り幅跳びをやりましたね。『土がでこぼこしていて使えないけど、どうする?』って先生が聞いたあとに、君たちが言った一言を覚えていますか?」

「なめらかにする」

「なめらかね。あのときは『平らにする』『なだらかにする』といった言葉が出てきていました。ということで、今日はでこぼこしていたり、数が多い人と少ない人がいたりして揃っていない場合、どうすればいいのかを勉強します」

(2)課題の提示、自力解決

神保教諭は、ブロック、コップ、カードを使った3つの課題を用意。それぞれ量がばらばらで、一つあたりの数が異なっている。

「Jamboardを開けてみてください。1枚目にブロック、次のページに水、その次のページにカードの問題があります。数や量が揃っていないものを揃えるにはどうすればいいのでしょうか。水の問題に関しては理科の道具も用意しているので、自由に使ってください。どの問題からやってもかまいません」

4人のうち、3人の児童が水の問題を1人の児童がブロックの問題を選択。自力解決中には、水の問題に取り組む児童たちがビーカーやメスシリンダーを使いながら、1個1個のコップに入っている水の量をはかっていた。

(3)発表、まとめ

自力解決に取り組んだ後は、まずコップの問題に取り組んだ3人が、Jamboardの書き込みを見せながら各々の考えを発表した。

  • 児童A

  • 児童B

  • 児童C

児童A「まず、それぞれのかさの量を測ったら、1つが70mℓ、2つ目が140mℓ、3つ目が100mℓ、4つ目が140mℓでした。で、これを全部足したら450mℓになりました。で、これをコップの個数4で割ったら答えは112.5になるんですけど、0.5がややこしくなってくるから、四捨五入して113mℓにしました」

児童B「(前の児童と)同じ考えなんですけど、(コップにふった)①が70mℓで、②は139mℓだったのを、皆で四捨五入しました。それで 式で全部足したら150になったから、150÷4をしました。4 はコップの数です。112.5mℓが出てきたんですが、簡単にするためには113mℓのほうがいいよねと(他の児童と)相談して、113mℓになりました」

児童C「結果からいうと、水の量を全部はかってからコップの数で割りました。たとえば、私たちがやったのは、4つのコップを全部はかって、はかって、はかって、はかって、全部足して、それを4で割りました。なんでかというと、コップが4つあるから÷4にして、112.5になったんですけど、112.5は微妙な数だから、四捨五入をして113にしました」

神保教諭は、児童たちが「個数で割る」という言い方をしている点に着目し、次の質問を投げかけた。

「なんで個数で割るの?」

「全部同じ量になるように」
「1つ1つのコップを足したら、全部のかさが出る」

ここで神保教諭はビーカーを取り出し、すべてのコップの水を移し替えてみようと提案。

「じゃあこうやったらどうなる?」

このとき、1人の児童が「え、混ぜるの?」と疑問を投げかけた。おそらく、計算で足すことと実際の操作が結びついていなかったのだろう。その後「あー、それで全部の和を出すんだ」と納得している様子だった。

また、個数で割ることについても以下のように説明する場面があった。

「たとえば何かを何かで割ると、同じ数で割れるでしょ。たとえば100を2で割ると50と50に分かれて、同じ数に分かれます。(今回は)全員で同じ量にするという目的があるので、それをするために割り算を使えばいいんですよね」

神保教諭が「同じにするから割り算? そこは皆もいい?」と問いかけると、他の児童もうなずいていた。

次にブロックの問題に取り組んだ児童が発表した。「(1列ごとに)27とか17とかを全部足して220にしてから、220を下の10を割って答えが22。合ってるかどうかを確かめるため、10×22で計算して答えが220になった」

児童の発表に対し、「皆さんどうですか?」と神保教諭が問いかけると、1人の児童が「同じ考え方」と答えた。

神保教諭「同じ考え方って言ったけど、どこが同じ考え方なの?」

児童「全部を足して割る」

神保教諭「(水の問題でもブロックの問題でも)個数で割るって言葉が出てきたけど、何の個数で割ってるの?」

児童「物の個数」

神保教諭「たとえばどれのことなのか、指で指してみて」

児童「(指で指しながら)ここ(列)が10個あるから10で割る」

さらに神保教諭は問いを深めていく。

神保教諭「10個であって10で割ったら、出てきたものはなんなの?」

児童「ひと行列の束。これで全部平等になる」

また、ブロックの課題に取り組んだ児童が赤いラインを引いていたことに対し、神保教諭は問いかける。

神保教諭「赤い線を引いてたのはどういう意味?」

児童「22だから」

そこで、別の児童が「(22から)突き出ているやつを(足りないところに)持ってくれば、全部がここ(22のライン)に埋まって長方形になる」とアイデアを出したところで、授業が終了した。

授業者の振り返り

――授業の素材は身近なところから集めてきたそうですね。

神保 今回用意した3つの課題は、児童たちが体験したことの中から素材を集めたものです。たとえば水の問題は、ジュースの量がでこぼこの状態を見せたとき児童が「気まずい」と発している場面があったことから、課題として設定しました。カードの問題にしても、一人あたりの枚数がバラバラになってしまい、一回集めて配り直すといった様子が休み時間に見られたので素材に入れました。

事前の想定では、児童たちが水の問題では量の多いコップから少ないコップに移すことで、ブロックの問題ではJamboard上で操作することで平らにするのではないかと踏んでいました。ところが授業をしてみると、児童たちは「ならす」を超えて、一人あたりの量を計算して求めるという方法で問題を解決しようとしました。おそらく目盛り付きのビーカーやメスシリンダーを先に見せてしまったので、数値で処理したくなったのでしょう。これは私のミスです。

――水の問題で、児童たちは四捨五入して値を求めていましたが、これも想定していたことでしょうか。

神保 これには私も驚きました。四捨五入しなくてすむ量の水(70mℓ、100mℓ、130mℓ、140mℓ)を用意していたのですが、途中でこぼしたりして測り方を間違えたのでしょう。ですが、今日の授業の目的は正確な値を出すことではなかったので、そこを突っ込んだりはしませんでした。

――次回の授業ではどんな内容を想定していますか。

神保 まずは、やり残した「ならす」の意味をしっかりおさえたいです。その際、ブロックの課題を例題にしたいと考えています。今日の授業でブロックの課題に取り組んだ児童が、ブロック上に赤いラインを引いていましたよね。あのラインに沿って(Jamboard上で)ブロックを動かせば、それは結果的にならす操作になります。次の授業では、今日の授業で求めた「全体÷個数」と、ならす操作で出した平均値が同じであることを実感してもらうのがねらいです。

その上で、今日残ったカードの課題を練習問題として取り扱う予定です。「全体÷個数」とならす操作で出した平均値が同じであることを児童たちが理解できていれば、カードを動かさず、計算だけで一人あたりの枚数を割り出そうとするでしょう。そういった発想が出てくることを期待しています。

神保 勇児(じんぼ ゆうじ)

1981年宮崎県生まれ。大阪府公立小学校を経て、東京学芸大学附属大泉小学校に勤務。啓林館の教科書『わくわく算数』編集委員。著書に『学び合いコーディネートスキル60 子どもが進んで動き出す』(明治図書出版)、『算数ファシリテーション入門 子供がなぜか話したくなる』(東洋館出版社)など。現在、ファシリテーションに関心をもち、児童の合意形成を大切にした授業を目指し、実践を重ねている。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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