2021.11.24
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実際に見てみよう、聞いてみよう、リモート産地めぐり 【食と生産】[小5・社会]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第178回目の単元は「実際に見てみよう、聞いてみよう、リモート産地めぐり」です。

授業情報

テーマ:食と生産
教科:社会
学年:小学校5年生

授業のねらい
社会:食料生産に関わる人々の工夫や努力を理解する。
食育:食生活は生産者の苦労や努力に支えられていることを理解する(感謝の気持ち)。

ICTを活用した食育

GIGAスクール構想により、ICT環境が整備され、学校現場では日常的に児童がタブレットを活用している姿を見る機会が多くなりました。食育においてもICTを活用し、今まで実践できなかった学びができる環境になっていると感じています。
食育のコーディネーターである栄養教諭、学校栄養職員はICTを効果的に活用した食育を提案する必要があると考えています。
今回は新宿区にある小学校でおこなった「Web会議システムを使用したリモート産地めぐり」について、ご紹介します。

実施の背景

新宿区には農地がなく、本校の児童にとっては農業は身近ではなく、約4割の児童が家庭での野菜や果物の栽培経験がありません。そのような背景から保護者に実施した食育アンケートでは、学校でおこなってほしい食育活動は「農業体験」が最多となっています。
本校の5年生は社会科の食料生産の学習をはじめ、学活でバケツ稲の栽培、家庭科で米や炊飯の学習と「米」について学ぶ機会が多くなっています。
児童からも学習を通して、米生産者に話を聞いてみたいとの意見があったため、全国の米産地から直接米を購入している給食の米納入業者(株式会社アグリトラスト・ジャパン)に相談。web会議システムを使用したJA江刺(岩手県奥州市)の圃場(農作物を栽培するための場所)、カントリーエレベーター(穀物の貯蔵施設)、精米センターのリモート産地めぐりの提案をいただきました。
5年社会科担当の教員にそのことを伝え、授業実施となりました。

前時

リモート産地めぐりの前にJA江刺について調べました。
Google Earthを使用して、江刺の位置、周辺の地形も確認し、今までの学習やバケツ稲栽培を通して感じた生産者に聞きたいことをまとめました。
事前の質問では「お米作りで工夫していることは?」「お米作りで大変なことは?」などの米作りに関することや、「JAとはどういう組織なのか?」「今後の米作りはどうなっていくのか?」などがあがりました。

本時

大地活力センター(牛舎)の説明

アグリトラスト・ジャパンの方をゲストティーチャーに迎え、リモート産地めぐりを実施しました。リモート中継するにあたりWeb会議システムベル・フェイスを使用しました。
産地めぐりは圃場、大地活力センター(堆肥化工場)、カントリーエレベーターにJA江刺の職員が待機して、それぞれ中継を繋いで施設の説明をしていただきました。
圃場では稲の様子や圃場にいる生き物について説明してもらいました。辺り一面に広がる田んぼや、岩手県と東京都の当日の天気の違いに子どもたちは反応していました。
大地活力センターでは牛舎と牛のフンを乾燥させている施設を見せていただき、循環型農業について理解を深めました。子どもたちはフンから作った肥料のにおいについて質問していました。

カントリーエレベーターの説明

カントリーエレベーターでは精米の工程について説明していただきました。
精米センターの中にも入って、教科書では見ることができない、施設の内部を実際に見ることができました。子どもたちはカントリーエレベーターの大きさに驚いていました。
最後に圃場に再度中継をし、質問タイムとしました。質問タイムでは事前に気になっていたことをはじめ、生産の苦労やお米へのこだわり、農業の楽しさについてたずねるなど、生産者との活発な会話が行われていたのが印象的でした。

給食の活用

リモート産地めぐり当日の給食

リモート産地めぐりを午前中に実施し、給食では前日に届いたJA江刺の江刺金札米ひとめぼれを使用した献立にしました。
児童はお米を観察し、味わって食べていました。
もちろん、その日の給食は完食でした。

児童の感想

  • 児童の感想①

  • 児童の感想②

リモート産地めぐりとお米を食べた感想を取りまとめました。
リモート産地めぐりの感想では農業、米作り、JAについて理解を深めたという知識面での感想が多く上がりました。大地活力センターの説明を通して学んだ循環型農業についての感想も多く、総合的な学習の時間で学んでいるSDGsにも繋がったようです。
お米を食べた感想については全員が味や食感の感想、もしくは生産者への感謝の気持ちが記載されていました。

ICTを活用した食育について

今回、web会議システムを使用した産地めぐりを実施し、通信トラブルもありましたが、予定通り授業を進めることができました。
本校では毎年5年生の社会科見学の行き先は自動車工場が定番となっており、リモートですが初めて食料生産と関連付けた社会科見学をすることができたことも大きな収穫でした。
実際に目の前で見ることはできませんが、会話や映像を通して多くの学びを子どもたちに提供できると感じました。

今回の実践から3年生で学習する地域の学習や4年生で学習する都道府県、5年生で学習する水産業など、Web会議システムを活用することでより深い学びを提供できると思います。
今後も子どものためになる、効果的なICTの活用について検討をしていきます。

授業の展開例

〇5年社会科漁業の学習で漁業組合に依頼をし、リモートで話を聞く。

岡庭大毅

新宿区小学校所属。食品メーカーで3年間営業職として働き、転職。
学校栄養職員4年目。公認スポーツ栄養士としても活動。
食を楽しむ心の育成を目標に食育を実施。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

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