恵幸川大作戦!~川西小5年生だけの恵幸川鍋を作ろう!~(vol.2) 【食と感謝の心・食文化・地産地消】[小5・総合的な学習の時間]
食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。今回は「恵幸川大作戦!~川西小5年生だけの恵幸川鍋を作ろう!~(vol.2)」です。
それぞれの地域には、その地域ならではのよさがあり、特色があります。総合的な学習の時間の課題で「地域」を取り扱う場合、地域の特色に応じた課題については、正解や答えが一つに定まっているものではありません。答えのない課題であるからこそ、子どもたちはよりよく課題を解決したいと、主体的に学習に取り組むことができるのです。自ら情報を集め、人から話を聞き、仲間と話し合いながら学習を行うことで、子どもたちにとって自己の生き方を考える深い学びになり得ると考えます。
地産地消を謳った加古川のご当地鍋である恵幸川鍋。Vol.1では、恵幸川鍋を開発された加古川市役所の藤本さんにお話を聞くことで、恵幸川鍋にはたくさんの思いや願いが込められていることを知り、「ぼくたちも藤本さんに負けない恵幸川鍋を作る!」という熱い思いを持ち始めた子どもたちの様子を紹介しました。Vol.2では、新たな課題にぶつかりながらも、何度も話し合いを繰り返し、自分たちの恵幸川鍋への思いを深めていく子どもたちの様子をお伝えしたいと思います。
1.具材についての討論会
藤本さんのお話の後、加古川の食材の調べ学習では、地元の加古川で生産される食材がたくさんあることにも気付くことができました。
しかし、加古川産の食材を自分たちの恵幸川鍋に使わせていただくにあたり、
「食材を買わせてもらうのか、ただでもらうのか」
ということが子どもたちの中の大きな争点となりました。
2つの立場で大きく意見が分かれたため、「恵幸川鍋の食材はただでもらってもよいのか」ということが子どもたちの次なる課題となりました。そこで、自分たちで立てた課題を解決するために、国語科の討論の学習と合わせて、討論会を開催することになりました。(3日間、賛成チームと反対チームで何度も話し合いながら準備をしました)
司会や審判などの役割も決めて、いよいよ討論会がスタート。「○○の意見に質問があります」「さきほど、○○と言いましたが・・・」「○○というデータもあります」など、両者ゆずらぬ白熱した討論会を繰り広げることができました。
●賛成チーム(ただでもらってもよい)の意見
「型崩れをした、捨てるつもりの野菜をもらえばエコにもなる」
「農家の人の野菜への思いも大切にすることができる」
「恵幸川鍋の本来の目的である人々の心をあたため、幸せにすることも実現できる」
「もらう代わりに宣伝すれば農家のみなさんも喜ぶ」
●反対チーム(お金を払うべき)の意見
「ただでもらうと農家の人は幸せになれない」
「気持ちを込めて育てた野菜にお金を払わないのは失礼」
「お金がないと、来年の野菜を育てられない」
「どちらも笑顔になる鍋にしたい」
2.食材の話し合いは続く
討論会から2日後、討論会では決着がつかなかった「恵幸川鍋の食材はただでもらってもよいのか」という課題についてもう一度話し合いを行いました。
改めて意見を整理しながら考えていきましたが、子どもたちから、
「買うか、もらうかを決める前に、まずは川西小5-1としてどんな鍋にしたいかを話し合う必要がある」
という意見が出たので、まずはみんなで「自分たちのこだわりにしたいこと」を考えました。
「自分たちにしか作れない鍋」
「いろんな方々の思いや感謝の気持ちがつまった鍋」
「思わず笑顔になる鍋」
など、いろんなこだわりが出てきたため、その上でもう一度課題について話し合ったところ、賛成と反対を合わせた、
「捨てるものをもらって、ない場合は買う。その代わり、試食会に招待したり、野菜の宣伝をしたりする。(宣伝すれば買ってくれる人が増える!)
お金をかけず思いを大切にするのが、小学生にしかできない鍋!」
という案が、授業の中では決定しました。しかし、ノートの振り返りを見てみると、「子どもの願いだから、捨てるものがなくても無理してくれるかも」
「それで農家さんもほんとに笑顔になれるのかな」
という声もまだ見られました。
(「全員を笑顔にさせたい」という子ども達の真剣さが伝わってきました)
その後もしばらく子どもたちと悩み続けましたが、
「ここまで考えて答えが出ないなら、自分たちだけで考えていてもだめだ!それならば実際に農家の方にお話を聞いてみよう!」
となりました。そこで、恵幸川鍋の開発者さんの藤本さんに紹介をしていただき、農園をされている「松井農園」の松井さんに学校に来てお話をしていただけることになりました。
3.松井農園の松井さんのお話
松井農園の松井さんには、まず農業ついてお話いただきました。お話では、
「天気に左右される農業はやっぱり大変」
「『こうやって食べてほしいな』と一つ一つの野菜にたくさんに思いを込めている」
「見て笑顔、食べて笑顔、話して笑顔の野菜を目指している」
と、農業の苦労や野菜づくりへの思いを教えていただきました。
また、子どもたちの関心が一番高かった「型崩れした野菜についてどうするか」という疑問についてもお話をしていただきました。お話では、
「規格外野菜は、豊作の年はたくさん出てしまうが、不作の年はあまり出ない」
「豊作のときは出荷数が多いので形の悪いものはもちろん、形の良いものでも売れにくい」
「不作のときは出荷数が少なくみんなが欲しいので、形が悪かったり訳ありであったりしても売れる」
「規格外野菜については、こども食堂などに無料で提供することもあるが、豊作の時は提供し、不作の時は提供しないとなると、お互いにいい関係にはなれない」
「お互いに負担のない関係がいい」
「ただし、生産者が何に対して価値を感じるかを考えてほしい。もし、生産者が”思い”に共感すれば、半値でも、無料でもあげると思う」
「あとは自分たちで一度考えていってほしい」
と、子ども達の疑問に対する答えを与えるのではなく、考えるきっかけをたくさんいただきました。
また、松井さんには、プランター野菜栽培のアドバイスまでいただきました。
4.討論会再び
後日、松井さんの話をあらためて整理しながら、話し合いを行いました。松井さんに来ていただく前は、「型くずれしたものをもらう」という意見が大半を占めていました。しかし、子どもたちの中で、松井さんの言葉が非常に印象に残ったようで、それをもとに考えたことを友だちと交流し合い、それぞれの考えをノートに書きました。
子どもたちの意見では「買う」という意見が最も多く(下の写真)、
「やっぱりお互いにいい関係になるためには、こっちも少しは負担したい」
「規格外の野菜をただでもらうのではなく、安い値段で買わせてもらう」
「その代わりに自分たちの思いをしっかりと伝えて共感してもらえるようにする」「その野菜の宣伝は必ずしたい」
という意見がたくさん見られました。
しかし、みんなが納得する形ですすめたいという子どもたちの思いがあったので、この日も結論は出さずに、もう一度、恵幸川鍋の開発者の藤本さんに相談してみることになりました。
5.藤本さんからの宿題
藤本さんに相談をする前に、ひとまず自分たちの結論を出そうということで、
「捨てるものがあるならタダでいただく!その分お金ではなく気持ちをわたす!ないのならば、お金を払う!宣伝は必ずさせてもらう!」
という結論を出して、その結論をもって担任から藤本さんに電話で相談をしました。(日程的に子どもたちが直接相談をするのは難しかったので)
相談をした結果、藤本さんから子ども達に大きな宿題が出されました。それは、
「農家さんの気持ちもっと考えてみてほしい」
ということでした。
「毎日毎日愛情をこめて作った野菜を農家さんはどう食べてほしいのか」
「子ども達に自慢のおいしい野菜を食べてほしいと思うはずじゃないのか」
との助言もいただきました。
これまで、学校の教育活動ということでお金に限りがある中で、「捨てる野菜」「形が悪い野菜」など、「農家さんの思い」とは違う方向に焦点が当たってしまっていたことに、子どもたちもハッとした様子で気付いているようでした。
藤本さんの話を受けて、「農家さんの思い」を大切にして、あらためて話し合ったところ、
「苦労をして育てた野菜は、自分の子どものようにかわいいと思うはず!
そんな大切に育てた自慢の野菜を、“買わせてほしい”“恵幸川鍋に使わせてほしい”とお願いをしよう!」
という結論に至りました。
話し合うたびに、いろんな方に話を伺うたびに、考えが揺さぶられ、深まっていった今回の課題。時間はかかりましたが、みんなで考えた大切な結論を出すことができました。
(藤本さんによれば、恵幸川鍋を開発した当時、実は藤本さんも同じような壁にぶつかったそうです)
Vol.2では、は恵幸川鍋の食材について、型崩れしたものをただでもらうのか、お金を払うのか、何度も議論を重ねながら、学びを深めていく様子をお伝えしました。さまざまな考えに触れながら考えを深めていくことで、農家さんの思いに少しでも迫ることができたことは大きな成果であったと思います。
Vol.3では、恵幸川鍋の調味料や具材に関わる方々にゲストティーチャーとしてお越しいただき、それぞれの食への思いを知りながら、自分たちの恵幸川鍋への思いをさらに深めていく様子を紹介していきたいと思います。
藤池 陽太郎(ふじいけ ようたろう)
兵庫県加古川市立川西小学校 教諭
教員5年目で現在は6年生担任(実践時は5年生を担任)。幼児教育の「遊び」をヒントに、1年生の子ども達が「遊ぶように学ぶ」授業づくりを目指して、日々研鑽を積んでいる。
藤本勇二(ふじもと ゆうじ)
武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。
監修:藤本勇二/文・写真:藤池陽太郎/イラスト:学びの場.com編集部
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