2017.07.19
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夢の焼餅を創ろう(vol.2) 【食と地産地消・食文化】[小3・総合的な学習の時間]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第128回目の単元は「夢の焼餅を創ろう(vol.2)」です。

自分達の焼餅を作ろうと、まず小豆栽培に取り組みましたが、残念ながら失敗してしまいました。失敗というとネガティブなイメージがありますが、失敗から学ぶことは、ことのほか多いものです。以前取り組んだ「伊島塩物語」を始めとする私の実践にも、失敗を糧にして新たな学びや子ども達の大きな成長につながった例が数多くあります。あえて、失敗をさせているわけではありませんが、結果としてうまくいかなかったことが、子ども達を本気にさせるというか、取り組みが自分事になるというか、そういう姿をこれまでも幾度となく見てきました。もちろん、これは子ども達が自分の目指すべきゴールをきちんと意識しているからなのです。

この単元は、総合的な学習の時間を学級運営の中心に据えて進めていきたいという若手教師に関わって作り上げたものです。今回紹介するvol.2は、小豆栽培に失敗したことが、子ども達をより主体的に取り組ませるきっかけとなり、原材料別チームに分かれて本格的に活動を開始した所からの実践になります。

目標を立てる

実際の焼餅創りのスタートは、子ども達に「どんな焼餅を創りたいか」を考えさせることからです。それは、単なる「焼餅作り」ではなく、子ども達にその意味や思いをしっかりと持たせて活動に取り組ませることが必要だったからです。

今回、話し合う方法として、思考ツールのピラミッドチャートを使うことをN先生に提案しました。子ども達の話し合いが活性化し、その思考の流れを可視化することもでき、子ども達も比較的扱いやすいだろうと考えたからです。

まずは、自分が創りたいのは「どんな焼餅」か、イメージを膨らませ、思いついたことをとにかく数多く下段に書かせるようにしました。その中から意見を出し合いながら、自分達の思いに近いものに絞り、選んだものを中段に5~6個書かせました。その際、選んだ理由を明確にできるよう、それについても書き込ませました。そして、同様の手順で、最後は上段に1~2個の考えに絞りました。「地域のものを集めた特別な焼餅を創りたい」「食べた人が幸せになるような焼餅にしたい」「自分達だけの世界一おいしい焼餅を創りたい」など、互いの考えを聞き合い、話し合いを重ねる中で、自分達の焼餅への思いがまとまってきたように感じました。

ピラミッドチャートを思考ツールとして活用し、グループで話し合う

ピラミッドチャートを思考ツールとして活用し、グループで話し合う

焼餅の原材料グループ別調べ学習

「滝の焼餅」は原材料にこだわりがあり、水、粉、小豆(餡)がおいしさの秘密であることを、子ども達はこれまでの授業で理解していました。例えば、「滝の焼餅」に使われている水は眉山の名水「錦竜水」です。一方、子ども達にとっての身近な名水は、近くの地蔵寺の「宝寿水」です。そこで、
「おいしい小豆(餡)や粉も近くにないかな?」
とN先生が投げかけ、それぞれの原料について、もっと詳しく調べていくために、「水」「粉」「小豆(餡)」の3チームに分かれ、活動を進めることにしました。

私からN先生には、原材料別でチーム分けをすることと、それを子ども達の興味・関心ごとでグループ編成することをアドバイスしました。N先生は、小松島市出身の教員ではなかったため、こういった地域素材に関わるゲストティーチャーや事業所等の下交渉は予め私が行いました。

N先生は、学級経営の方針として、児童それぞれが責任を持って取り組み、一人一人が活躍できるようにしたいと考えていました。そこで、各チームでリーダーを決める指標として、「自分達の意見をよく聞いてくれる友達を選ぶこと」という条件を出し、仲間作りへの手立ても図っていました。

こうして、それぞれのチームの知りたい、調べたい課題を考え、調べ活動に入りました。

地蔵寺「宝寿水」の秘密を探る

名水・宝寿水について、地蔵寺の住職さんに教えていただく

名水・宝寿水について、地蔵寺の住職さんに教えていただく

地域にある名水・宝寿水は、学校から徒歩3分ほどの地蔵寺(実をいうと地蔵寺の住職さんは、本校の学校評議員さんも務めて下さっています)にあります。子ども達が見学に行き、住職さんから宝寿水の説明や質問について答えていただいている間にも、大きな容器を持った方がひっきりなしに水を汲みに来られていました。

子ども達が
「この宝寿水を使って、焼餅を創りたい」
と住職さんに相談すると、住職さんは
「料理にも使えるおいしい水だからとてもいいと思うよ」
と計画に賛同して下さいました。さらに、
「皆の焼餅創りに使ってみるといいよ」
と、地蔵寺にいるミツバチで住職さんが手作りした蜂蜜を提供して下さいました。子ども達は大感激し、住職さんの優しさに触れ、
「絶対においしい焼餅を創りたい!」
という気持ちを強くしました。

本別町小豆栽培農家の方とふれあう

本別町生産者の方から、小豆栽培について色々と教わる

本別町生産者の方から、小豆栽培について色々と教わる

調べ学習を通し、「小豆チーム」の子ども達は、小豆は北海道が有名であり、全国の生産量のほとんどを占めていること、地域にあんこを作っている「あんこや」(有限会社 轡(くつわ)商店)という店があることなどを調べていました。そこで、市産業振興課(小松島市は、北海道の本別町と友好都市の締結をしており、職員の相互派遣研修によって本別町の職員の方が小松島市に来ています)の担当の方にお願いし、小豆について電話で子ども達に教えていただきました。

11月に小松島市のイベント「うまいもん祭り」に本別町の特産品を出品するため、生産者の方が訪れました。イベント前日、学校に寄っていただき、交流の時間をとることができました。小豆でも色々な種類があること、作り方、害虫のこと……等々、多くの初めて知る事柄に子ども達の質問は止まりませんでした。特に子ども達が気になったのは、害虫のことでした。実際に自分達が育てた小豆を見ていただき、虫に食われて失敗したことを話しました。生産者の方から、子ども達が調べた小豆を狙う害虫は北海道にも存在し、様々な苦労をしながら小豆栽培に励んでいるという話を聞きました。また、子ども達が育てた小豆といただいた小豆を比べて見ると、北海道産はしわがなくきれいな丸みを帯び、つやのかかった美しい色をしていました。子ども達からは思わず、
「うわあ、きれい!」
「やっぱりプロは違うなあ!」
と歓声が上がりました。小豆栽培のプロからの話は、子ども達にとって新鮮で説得力があり、その交流は心に残るものとなりました。

「あんこや」轡商店へレッツゴー!

「あんこや」の工場を見学

「あんこや」の工場を見学

そして、「あんこや」の工場を見学させていただくことになりました。「あんこや」は学校から徒歩10分ほどの場所にあり、明治39年創業の老舗あんこ屋です。これまでは、見学や職場体験などは衛生的な問題で受け入れたことがなかったそうですが、地域の小学生ということで今回特別にお願いできました。見学当日、子ども達が見たものは、その日に製造した大量のあんこや実際の小豆からあんこを炊く様子、きれいに洗われた大きな釜や容器の数々でした。あんこの材料や作り方の説明を聞きながら、子ども達は熱心にメモをとりました。

「あんこや」の有限会社轡商店の専務さんのお話の中で、
「大人一人がすっぽり入れるほどの釜や数々の機械を毎日何度も洗う労力は計り知れない。だが、餡の種類によって味が違うため、清掃を怠ると、できあがった餡の香りや味に影響してしまう」
というものがありました。これを聞いた子ども達は、おいしいあんこを作り続けているプロの職人としての信念を感じ取ると同時に、そのような大切な場所に自分達を通してくれたことに感謝の気持ちを持ったようでした。その後も、轡商店の専務さんは、子ども達にあんこを届けて下さったり、N先生のあんこ作りにアドバイスを下さったりと、度々お世話になりました。

米粉について調べる

米粉について学ぶ

米粉について学ぶ

「粉チーム」の子ども達は、地域にJA東とくしま「こめっ娘工房」という米粉工場があることを調べました。そこで、まず、米粉とは何なのか、どのように使うのかを給食調理員さんに尋ねに行き、給食の献立にも入っていることを教えてもらいました。また、JA東とくしまでは、米粉を使った料理教室が開催されており、その担当の方がゲストティーチャーとして来て下さることになりました。米粉は米を砕いた粉で地産地消になることや小麦アレルギーの人も米粉を用いた多様な料理が食べられるようになるということなどを教えていただきました。ただ、その担当の方も実際に米粉で餅を作ったことはないので、うまくできるかどうかはわからないと話をされました。

餅作りへ向けての「粉チーム」はインターネット上のレシピを参考にして、結局、本来の米粉とパンやお菓子作りに使いやすい「米粉ミックス」という2種類を使ってみることにしました。実をいうとこの生地(皮)作りが一番の難関でした。N先生は、子ども達と試行錯誤しながらいよいよオリジナル焼餅創りへと進んでいったのでした。

村井 徹志(むらい てつし)

徳島県小松島市北小松島小学校 教頭
鳴門教育大学大学院修了後、総合的な学習の時間が始まった2000年より毎年実践に取り組んできました。

地域の和菓子屋さんへ企画提案し、実際に商品化した「和菓子プロジェクト」や離島の海水から塩を作り、販売した「伊島塩物語」などの10年間の実践は、地域情報をインターネット上で表現する「マイタウンマップ・コンクール」(2010年に終了)に出品し、9作品が入賞しました。そのうち「伊島塩物語」は、最高賞である内閣総理大臣賞を受賞(作品は、http://necchu.info/mtm/から見ることができます)。

管理職となった現在も、県教委指定学校訪問指導員(総合的な学習の時間)や県小教研総合的な学習の時間研究大会等で指導助言者として、総合の授業作りに関わらせていただいています。

今回、紹介した「夢の焼餅を創ろう」は、前任校で総合的な学習の時間を中心にして学級経営をしたいという若手教諭に単元作りから授業実践まで深く関わり、コーディネーターとして作り上げた実践です。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・村井徹志/イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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