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教育インタビュー

2015.01.20
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藤本 勇二 食育を語る。

「食育と授業」連載100回記念インタビュー。身近な“食”を教材に、子ども達が自分で考え判断する能力を養いたい

藤本勇二氏は武庫川女子大学にて教員養成に携わる傍ら、文部科学省の食育に関する有識者委員としても活躍する食育授業のエキスパート。藤本氏主宰の「食育実践研究会」が手がける学びの場.comの人気連載「食育と授業」では、幅広い教科で食育が実践できる授業作りのヒントを紹介しています。その連載100回を記念し、連載中の思い出エピソードからアイデア満載の授業作りの秘訣、日本の食育の現状や課題に至るまで、たっぷりとお話を伺いました。

「食」を教材とした授業の手応えを伝えたい

学びの場.com2006年にスタートした連載「食育と授業」も100回を迎えました。まずは、この連載を始められたきっかけをお聞かせください。

藤本 勇二当時、私は徳島県の公立小学校で教師をしていたのですが、授業に食を教材として取り入れることで、子ども達に学力が付いてきたという手応えを感じていました。それを誰かに伝えたいと思い、以前から授業作りの参考にさせていただいていた学びの場.comに原稿をお送りしたのがきっかけです。しかし、振り返ってみると100回ってすごいですよね。これまで続けられたことがありがたい限りです。

学びの場.comそもそも、藤本先生が食を授業に取り入れてみようと思われたのは?

藤本 勇二社会科や理科の教材として地域特有の食材や自然等を授業に取り入れたとき、高齢者の方々にお話を伺う活動も行いました。その際、食にまつわる面白い話が多く出てきたのです。それらを授業に取り入れた結果、食を通して子ども達に高齢者への尊敬の念や地域への愛着が育まれ、実感を伴った学びができることに気づきました。それで、他の教科にも食を教材として取り入れるようになったのです。

学びの場.com食育のための実践ではなかったというのが、ちょっと意外です。

藤本 勇二私は経歴から食育の専門家と見られることも多いのですが、食育を意識してやってきたわけではありません。私にとって食は、栄養や健康だけでなく、歴史、地域、食文化、言語、流通、経済といった幅広い内容に子どもの学びが届く教材なのです。

それに、私は栄養や自然科学に関する基本的な知識はあっても、専門家レベルの知識を持ち合わせているわけではありません。現に「食育と授業」の連載でも、「漬物のひみつ【食と科学】」や「どこを食べているのかな【食と命】」という理科の授業事例で、読者の方から誤りをご指摘いただいたことがありましたし。

学びの場.comただ、誤りは真摯に受け止めつつも、それは読者の方々が熱心に読んで下さっていることの表れでもありますから、ありがたいですよね。

藤本 勇二そういったご指摘やご質問をいただけるのは、非常に嬉しいことです。また、「授業でやってみたいので使用許可を下さい」といった問合せをいただくことも多いのですが、これも嬉しいですね。

学びの場.com連載には実際にやってみてよかった授業事例だけをご提供いただいていますが、これだけの数を手がけていると、苦労されることも多いのではないですか?

藤本 勇二苦労は全くありませんが、経験の少ない若い教師でも授業の様子がリアルに想像できるよう、授業者と子ども達のやり取りを具体的に表現するように気を配っています。タイトルやイラストを含めた見せ方の工夫もあって、わかりやすい記事になっていると思います。

また、連載で提案している協同的な授業には基本的な骨組みがあります。子ども達から問いを引き出し、それを基にして考えさせるワーク、授業者のまとめといった流れで、基本的にはどれも同じです。事例が多いので授業作りの着眼点も得やすいと思いますし、学年相当の学力に合わせてワークの題材を考えていただけば、いくらでも応用が利きますよ。

子ども達が自分で考え、判断する能力を育む授業とは

学びの場.com授業の骨組みは同じだといっても、そのアイデアの豊富さには驚くばかりです。どのようにして思いつかれるのですか?

藤本 勇二常にアンテナを立て、他の分野の先生から聞いた話や書物などから「これは授業に使えるな」というヒントを得ています。私の専門である環境教育の授業で行っているアクティビティを食育に当てはめて授業を作ることも多いですね。

今は武庫川女子大学の学生と一緒に「たこ焼きがなくなる日」という小学5年生を対象とした授業を考えています。まず「たこ焼きにどんなものを入れる?」と問いかけて、食材の自給率を調べさせます。その自給率の割合でたこ焼きを作ろうとすると、薄い小麦粉液にネギだけが浮いているという、とてもたこ焼きとは呼べないような代物しか作れません。この仕掛けによって子ども達を日本の食糧自給率に出会わせ、理解を促すことができると考えています。

学びの場.com身近な食べ物ですから、学びの糸口としてはぴったりですね。

藤本 勇二食というのは身近で具体的なものだけに、子ども達が世界や地域への理解を深めたり、判断力やコミュニケーション能力を身に付けたりするための絶好の足がかりとなります。とはいえ、「食べ物に感謝しなさい」と言うだけでは子ども達には変化が生まれず、「食べておしまい」の授業では学びは深まりません。

しかし、ワークショップのような形で自分ごととして考えさせながら授業を進めていけば、食べ物を作っている人への感謝の念や、残した食べ物の行く末にまで思い至る気づきを促すことができます。私は、そこから子ども達の食への向き合い方が変化し、「何を食べるか」を自分で考え、判断する能力やセンスをも養うことができると考えています。「食べること」は「生きること」ですから、最終的には、どういう生き方をするか、どのような国にしたいかを考え、選択することにもつながっていくのではないでしょうか。

「食育をどう継続させていくか」が今後の課題

人気パティシエ・柿沢安耶さんと一緒に野菜スイーツを作る授業

学びの場.com食を教材として授業に取り入れることで、子ども達に学力が付いてきたとのことですが、具体的にはどのようなことでしょうか?

藤本 勇二一番良かったのは、意欲・関心が高まり、発表する回数が増えたこと。それによってテストの点数も良くなりましたし、書いたり話したりする文章の量が増え、表現も豊かになりました。地域への関心や食べ物への感謝の念といった食育の目的も達成できたと思います。

小学4年生の総合的な学習の時間にパティシエの柿沢安耶さんを招き、野菜でスイーツを作る授業を1年かけて行った際には、野菜嫌いの子ども達が野菜を食べられるようになり、給食の野菜の残食もなくなりました。「食材である野菜の味を知らなければ、おいしいスイーツが作れない」と気づいた子ども達は、苦手な野菜も生でペロリと食べてしまったのです。

学びの場.com成果の一方で課題もあると思いますが、どのようなことを実感されていますか?

藤本 勇二今後の課題は高校生です。食育は小学校ではかなり実践されていますし、中学校でも取り組みが始まっていますが、高校生はこれからですから。また、食育の主な担い手である栄養教諭の配置を増やすことも必要です。財政の問題などもあり、現状では地域によって配置に偏りがあるのです。

もう一つの重要な課題は、その場限りのイベントで終わってしまわないように、食育を継続することです。栄養教諭が授業に力を入れるのは良いことなのですが、専門性が高すぎると、栄養教諭なしでは食育の授業ができなくなってしまいます。ですから、私は栄養教諭の方々に「養護の先生を目指しましょう」と言っています。養護教諭は学校の中で立場が確立されており、保健学習は文化として位置づけられている。同じように、食育をカリキュラムの中に取り込み、学校に文化として残すことができれば、食育は継続されていくでしょう。

まず教師が前向きに食育に取り組む姿勢を示そう

学びの場.com藤本先生が文部科学省の有識者委員として活躍されるようになったきっかけは?

藤本 勇二もともと文部科学省の環境教育に関する委員をしていたのですが、食を教材とした授業事例を学びの場.comの連載で紹介したり、様々な企業との食育プロジェクトに参加したりしていたことからお声が掛かり、「食に関する指導の手引き」の改訂版の作成に携わりました。現在は2016年4月から配布される「食育の教科書」の作成を行っています。専門家の方々の知識を実践的な授業作りに生かすというのが、私の立ち位置です。

学びの場.comこれまでの教材に代わる「食育の教科書」とは、どのようなものなのでしょう?

藤本 勇二学習指導要領の改定に併せて、従来のような知識の教え込みではなく、子ども達の自発性を引き出すことを重視した内容になっています。また、扱う教科や領域を広げ、アクティブラーニングのような学習手法も盛り込まれます。具体的には、各教科の目標達成を前提に食育の視点を取り入れていくというスタイルです。こう聞くと「新しいことをしなくてはいけない」と構える先生もいらっしゃるかもしれませんが、これまで行ってきた教科・領域の授業に環境教育の視点を取り入れる手法と何ら変わりはありません。

例えば、「食育と授業」で紹介している「釣り針のひみつ【食と道具】」という社会科・水産業の学習では、子ども達に釣り針という道具を見せて、カツオ漁の本物体験に迫る授業を実践しています。結果、食育は実現されています。同じような工夫をして、知らず知らずのうちに食育を行っている先生はたくさんいらっしゃいます。「食育の教科書」では、そういった先生方の授業を整理し、教科としてだけでなく食育としても成立しているのだということを示そうとしています。

学びの場.com最後に、今まさに学校で食育に取り組んでおられる先生や学校関係者の方々へメッセージを。

藤本 勇二教師が明るく楽しく食育に取り組み、諦めずに続けることが大事です。教師の仕事は増える一方ですが、問題は「多忙」ではなく「多忙感」にあります。ですから、「やらなければいけない」という負担が増すような考えは禁物。工夫すれば時間は生み出せますし、多忙感もなくなりますから、前向きに食育に取り組みましょう。いくらでも応援しますよ。

藤本 勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学文学部教育学科 専任講師
小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より現職。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップを基にした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。2006年8月より本サイトにて「食育と授業」連載開始、'12年4月より研究会のメンバーが順次執筆。

インタビュー・文:吉田教子/写真:赤石 仁

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