2017.06.21
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夢の焼餅を創ろう(vol.1) 【食と地産地消・食文化】[小3・総合的な学習の時間]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第127回目の単元は「夢の焼餅を創ろう」です。

徳島県の県庁所在地である徳島市には、『滝の焼餅』という銘菓があります。さだまさしの小説のタイトルや舞台になった、徳島市を代表する山、眉山。そのふもとにある店で販売されている伝統的な和菓子です。そう聞くと、お店で食べるもの、お土産として買って帰るものというイメージがあります。

ある日、私が勤務する学校を会場として、食育部会の研修会が行われ、調理実習でこの『滝の焼餅』を手作りしたという話を聞きました。それまで、なんだか敷居の高いものと思い込んでいたこの銘菓が、実は手作りできるほど手軽なものなのかと思うと同時に、これを題材に総合的な学習の時間の単元作りができるのではないかと閃きました。

ちょうど、3年生担任の若いN先生から「学級運営の中心に総合的な学習を据えて、今年1年間取り組んでいきたい」と相談を受けていた所でした。これなら、期待に応えられる単元が開発できるかもしれない、そう考え早速単元構想に取り組みました。「夢の焼餅」づくりに取り組んだ実践を3回に分けて紹介します。

単元構想

この単元を実践した学校は、徳島県小松島市にあり、先述の徳島市の南に隣接する所に位置しています。地域には、現在も多くの人が汲みに来る名水と呼ばれる湧き水があり、稲作が盛んな土地柄を反映してか、県内で最初に米粉を製造した施設もあります。さすがに餡の材料である小豆に関する特徴はなかったものの、校区内には100年以上続く歴史ある製餡所がありました。これは、焼餅の原料である水、粉(米)、小豆につながります。

『滝の焼餅』は伝統ある和菓子だけに、水、粉、餡などの原材料にこだわっています。自分達の地域にも関わりが深いこの三つの原材料を考えることで、地域への誇りや愛着を持ち、その良さなどに気づいてくれるだろうと考えました。

そこで、テーマを「地域のものを集めた自分達の『夢の焼餅を創ろう』」とし、ゴールを「お世話になった地域の方に自分達の焼餅でおもてなしをしよう」と設定しました。テーマとは、教師の思い、子どもの課題や学びの履歴に基づいた教育的価値のある内容です。また、ゴールとは、「テーマ」を具現化するための子どもの行動目標であり、活動の流れによっては変遷することもあるものです。このテーマとゴールを設定しておくことが、見通しを持った学びにつながります。

このようなことを考え、単元構想として、以下のような流れを提案しました。

「夢の焼餅を創ろう」単元構想の流れ
1.『滝の焼餅』について知る。
2.自分達の焼餅をつくる計画を立てる。
3.焼餅の原材料について調べる。
4.どんな焼餅にするか考える。
5.焼餅をつくって、おもてなしをする。

活動のスタート

いよいよ活動のスタートです。6月、まず『滝の焼餅』と子ども達を出会わせることにしました。唐突ではなく、教師からの押しつけでもなく、すんなりときっかけ作りをするためにN先生と相談して、最初は私(教頭)が授業をすることにしました。普段から週1時間書写の授業に入っているので、子ども達ともコミュニケーションが取れています。

知人からお土産にいただいたという設定で『滝の焼餅』を紹介しました。徳島に古くから伝わる伝統的なお菓子といっても、案外子ども達は知らないものです。まず、子ども達に実物を見せて、感想を聞きました。模様に着目したり、においをかいだり、実際に食べてみたりすると
「変わった模様」
とか、
「甘くて美味しい」
などの声が聞こえてきました。そして、一段落ついた所で、予め作成しておいたプレゼン資料で簡単な『滝の焼餅』の説明と焼餅に関するクイズを提示しました。

クイズの内容についての質問と回答(すべて3択で手を挙げさせる)
○どんな歴史・由来があるか?――400年前の殿様への献上品だった。
○付いている模様は何か?――菊の花である。
○工夫されていることは何か?――地元の名水を使っていること(その他、餡や皮(粉)へのこだわり、手作りである点も解説)。

『滝の焼餅』に関するクイズを行う

『滝の焼餅』に関するクイズを行う

最後に、
「この焼餅は自分達でもつくることができるよ」
と伝えると、子ども達の目が輝きました。そのためには、どうするか考えてみましょうと言って、この時間を終えました。

自分達の焼餅にするために

焼餅の原材料の一つとして、餡を作るための小豆があります。まず、自分達の焼餅という気持ちを持たせるために、この小豆を苗から育ててみることにしました。栽培の苦労や収穫の喜びなども感じ取らせたかったからです。とは言っても、大がかりなものではなく、学級園での栽培です。そして、栽培時期や手順、収穫時期などを調べた後、夏休み前に学級園を耕して、小豆栽培を始めました。単元全体を通してですが、ちょうど導入されたタブレットPCを教室に持ち込み、グループごとでわからないことがあればいつでも進んで調べられるようにもしておきました。

タブレットPCで小豆の栽培方法を調べ、学級園を耕して栽培する

タブレットPCで小豆の栽培方法を調べ、学級園を耕して栽培する

夏休みを終え、学級園をのぞいてみた子ども達は、すっかり大きくなった小豆の葉や茎に驚いていました。それから、しばらくして鞘も付き、子ども達は、
「この中に小豆が入っているのかな」
と期待に胸を膨らませ、収穫できるのを楽しみにしているようでした。

しかし、そんなある日のこと、畑に虫がいることがわかりました。早速、子ども達はどんな虫なのか調べてみました。小豆に発生する害虫のようでした。そこで、被害が大きくなる前にこの小豆を収穫することにしました。緑色から褐色に変わった鞘を探して、振ってみてカラカラと音が鳴るか確認しながら集めていきました。教室で鞘の中を開けてみたのですが、きれいな形にできた小豆は少なく、多くが虫に食われていたり、成長が十分でなく小さかったりしました。

害虫にやられた小豆

害虫にやられた小豆

子ども達はがっかりしました。小豆栽培は失敗に終わったのです。子ども達に原因を話し合わせました。
「もっと世話をしっかりするべきだった」
「害虫のことも先に調べておけばよかった」
と反省の言葉が出ました。

実を言うと、鞘ができるまでの子ども達の小豆に対する関心は、それほど高くなかったのです。
「これからどうしたい? もうやめる?」
と、担任のN先生が投げ掛けました。子ども達から
「皆で協力して、焼餅づくりに取り組みたい」
という声が挙がりました。子ども達の焼餅づくりが、本当に自分達のものになった瞬間でした。

村井 徹志(むらい てつし)

徳島県小松島市北小松島小学校 教頭
鳴門教育大学大学院修了後、総合的な学習の時間が始まった2000年より毎年実践に取り組んできました。

地域の和菓子屋さんへ企画提案し、実際に商品化した「和菓子プロジェクト」や離島の海水から塩を作り、販売した「伊島塩物語」などの10年間の実践は、地域情報をインターネット上で表現する「マイタウンマップ・コンクール」(2010年に終了)に出品し、9作品が入賞しました。そのうち「伊島塩物語」は、最高賞である内閣総理大臣賞を受賞(作品は、 http://necchu.info/mtm/ から見ることができます)。

管理職となった現在も、県教委指定学校訪問指導員(総合的な学習の時間)や県小教研総合的な学習の時間研究大会等で指導助言者として、総合の授業作りに関わらせていただいています。

今回、紹介した「夢の焼餅を創ろう」は、前任校で総合的な学習の時間を中心にして学級経営をしたいという若手教諭に単元作りから授業実践まで深く関わり、コーディネーターとして作り上げた実践です。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・村井徹志/イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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