2006.02.21
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がんばれ三宅島!(第4回) ~三宅村立小学校教育IT化プロジェクトに密着取材~

最終回の今回はプロジェクトリーダーの堀田先生に寄稿いただき、プロジェクトの総括をしていただきました。

プロジェクト立ち上げにあたっての思い

東京都三宅島。火山の噴火で4年半もの間、学校が閉鎖され住民は避難していた。テレビだけで見ていた世界。しかも現在は避難勧告こそ解かれたものの、まだ火山ガスの影響がある。

2005年4月、本来3校あった小学校が村立小学校として合同開校した。齋藤校長ほか3校の副校長。そのうちの1人、大塚副校長は、ぼくが教員時代、新採教員研修で同期だった仲間だ。18年前、一緒に教育についてよく議論しよく飲んだ。ぼくが学校教育に関わっている最初の段階をともに過ごした貴重な友人だ。
大塚副校長からは、開校にあたっての苦労を聞いていた。まだ復興の途上である三宅島で教育活動を行うにあたっては、児童の安全管理や教員の体制整備等に多大な労力がかかる。環境的な制約も大きかったが、教育環境のIT化どころではない、というのが島の現状だった。
しかし、だからこそ、ITを導入し、教職員の業務効率化や効果的な学習活動を後押ししたかった。

このような縁から、ボランティアを募り、三宅島の訪問をすることを決めた。研究室OBを中心に声を掛け、集まったボランティアはぼくも含めて総勢約20名。それぞれの持つスキルや勤務先が違うが、だからこそいいメンバーが集まったと思う。

プロジェクト立ち上げ当時の現状

御蔵島からの応援メッセージ

御蔵島からの応援メッセージ

到着した三宅島は、強い硫黄のにおいが立ちこめていた。草木も枯れ、随所に溶岩流の跡があった。学校は、まだあちこちに火山灰を片付けている最中の様子が見られた。教室と職員室、暫定的に作った保健室などの特別教室がようやく動き出したところで、図書室や図工室はまだ荷物置き場だった。3校から持ち寄った備品類も被害を受けていて、その管理や運用は気の遠くなるような作業に見えた。突然の火山ガス濃度上昇に備え、校内には脱硫装置(火山ガスから硫黄分を取り除く装置)が設置されていた。このような現状であったけれど、そこで働く先生たちは、すこぶる明るく前向きな方ばかりだった。
そんな先生方がITを活用すれば、きっと今以上に素晴らしい教育活動ができると思った。

プロジェクトの目標と成果

第1回記事で既にお伝えしているように、プロジェクトは2005年6月12日、及び7月18日~19日の2回に分けて三宅島を訪問した。
第1回目訪問に当たっては、次の3つの目標を立て、実行した。

①職員室内LANの確保

職員室内LAN整備中・・・いたるところでLANの設定をしています

職員室内LAN整備中・・・いたるところでLANの設定をしています

2005年6月現在、三宅村立小学校では1台のPCだけがADSLでインターネットにつながっていた。しかしLANがなく、校内の他のPCからはインターネットアクセスも、ファイル共有できない状態だった。印刷をする時などは、先生方がプリンタがつながっているPCの前で順番待ちをしていたと言う。第1回訪問にあたっての最優先の作業は、先生方のPCからインターネットにアクセスできるようにし、ファイルサーバ内のファイルを共有することができ、自席から印刷できるようにすることだった。これには現在、学校の情報化やネットワークシステムの開発に関わっているメンバーを中心にセッティングし、稼動に至った。

②教室に授業で活用できるITセットを設置

普通教室IT活用キット組立中・・・1つ2つと作るうちに、最後は1セット1分で組み立てられたとか?

普通教室IT活用キット組立中・・・1つ2つと作るうちに、最後は1セット1分で組み立てられたとか?

2005年6月現在、帰島している全児童数は56名。今後の帰島者を加味しても、学校は単級となるだろう。そこで、ノートPC+実物投影機+デジカメ+プロジェクタ+スクリーンのセットを2セット作り、普通教室で使ってもらえるようにした。簡易マニュアルと、若い先生への利用講習まで終わらせた。ここでは情報教育指導員のメンバーや、IT初心者教員について研究しているメンバーが活躍し、手早く作業を終了させた。

③今後の校内LANとPC教室設置のための技術的な見通しを得ること

校内LAN敷設中・・・時には建物の隙間にも潜り込みました

校内LAN敷設中・・・時には建物の隙間にも潜り込みました

具体的には校舎内のケーブル引き回しの計画や、無線LANの有効範囲の調査だ。これについては、技術教育専門のメンバーが力を発揮した。

第1回目は、帰りのフェリーの時間に追われて正味4時間の作業となった。にも関わらず、ここまで設定でき、目標はクリアできた。

第2回目訪問では校内ネットワークに詳しいメンバーも加え、1泊2日で次の整備を行った。
 
出張授業は大成功!

出張授業は大成功!

①職員室内LANの追加整備

②校舎内無線LAN整備

③普通教室IT化追加整備

先生方へweb更新の講習中。島から帰ると既に第一報がアップされていました

先生方へweb更新の講習中。島から帰ると既に第一報がアップされていました

④出張授業(ITを活用した授業実践)
 日常的にITを活用した授業実践を行っている現職の教師と、情報教育指導員のTTによる出張授業は大成功!

⑤ネットワークストレージ(NAS)の設置と設定

⑥学校webサイトのオープン

幸いにも晴天に恵まれ、順調に設置できました

幸いにも晴天に恵まれ、順調に設置できました

⑦インターネット百葉箱の設置

先生方の反応

先生方は喜んでくれた。早朝のお迎えのほか、民宿での休憩と朝ご飯の手配、お昼のお弁当の手配、おみやげ、見送りと、至れり尽くせりだった。どの先生も、子どもたちの避難生活と帰島生活のたいへんさをよく知っていて、教育に対して後ろ向きの先生は誰一人いなかった。すばらしい教員集団だった。

プロジェクトを終えて

プロジェクトメンバー全員集合!

プロジェクトメンバー全員集合!

作業に当たったメンバーは総勢20名。今回の活動が、静岡大学堀田研究室としての、最後のビッグプロジェクトとなった。有志によるカンパと、企業からの寄付により支えられた今回の仕事は、ミスがなかったわけではなく、100点とはいえないけれども、ほぼ滞りなく目的を達成した。
齋藤校長、大塚・渡邉・宮島副校長、岡教諭はじめ、現地の先生方には、過分なご配慮を頂き、たくさんお世話になった。皆さんの教育者としての眼差しが印象的でした。ありがとうございました。

渡島した私たちの後ろでたくさんの人たちの応援を受けたことをここに感謝したい。カンパと激励文をいただいた総勢85名の方々、各種ハードウェア・ソフトウェアの寄付を頂いた企業の方々、皆様のおかげで、三宅村立小学校では安心してITを学習利用できる環境が整った。ありがとうございました。

メーリングリストで共有したメールおよそ1,000通、撮影された記録写真は数百枚。大きなプロジェクトが幕を閉じた。参加したメンバーの誇らしげな表情が印象的だった。
(以上、前・静岡大学情報学部助教授 現・メディア教育開発センター研究開発部助教授 堀田 龍也先生より)

あれから・・・

授業でのIT利用場面

授業でのIT利用場面

これまでもご紹介してきましたが、その後三宅村立小学校のWebサイト(http://schoolweb.ne.jp/miyake/miyake-e)には毎日記事がアップされています。導入されたIT環境も、授業だけでなく、休み時間にはドリル学習ソフトに取り組んだり、集会、研修、保護者会にも活用されたりと、日常的なツールとして活躍しているようです。

子どもたちが元気に学んでいる様子を見ていると、プロジェクトに関わった身としては感慨もひとしおです。校長先生はじめ、先生方、PTAの方が一丸となって学校と子どもたちを支えていらっしゃるのでしょうね。4年半のブランクを感じさせない、精力的な活動には頭が下がります。

プロジェクトは現在、現地の要望に応じる形でのフォローを行う一方で、表面的な活動は停止しています。今のところ、次回の訪問予定も全くの未定です。
IT環境が日常の教育活動に浸透した一方で、幸いにも、機器やネットワークの大きな不調も報告されていません。
プロジェクトは今後も三宅村立小学校を応援していきますが、プロジェクトに密着した本連載記事は、今回で最終回となります。

三宅村立小学校、マイタウンマップコンクールで「都知事賞」を受賞!

「ぼくの街、わたしの村」をテーマに、身の回りの生活情報を素材とした作品を公募している『マイタウンマップコンクール』において、なんと三宅村立小学校が東京都知事賞を受賞しました!三宅村立小学校の皆さん、おめでとうございます!!

学びの場.comは、今後も引き続き三宅村立小学校を応援していきます。

(文: 山田 智之)

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