2023.03.02
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福島から東日本大震災を学ぶ(1) 今年の震災学習(さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池 健一さん)

東日本大震災を取り上げた授業を、さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池健一さんが6回にわたって紹介します。
第1回では、福島県の被災地を実際に訪れ、復興の様子を視察。児童と震災について学ぶための計画を考えました。

居住できるようになった双葉町

震災当時のままの県立双葉高校校舎

毎年、授業づくりの一環で東日本大震災の被災地を訪ねています。今年も冬休みに、復興が進んでいるといわれる福島県の浜通りを訪ねました。ここ最近、原発被害で帰宅困難地域になっていた双葉町や大熊町で居住が可能になったというニュースが聞かれました。また、原発の廃炉作業に関する記事や原発の再稼働に関する記事などもよく見かけます。実際に現地を見学することで現在の被災地の状況を少しでも知りたいと思い出かけました。

最初に訪ねたのは、双葉町です。双葉町は福島第一原発から数キロの近さで、震災当時は全町避難を余儀なくされました。数年前に立ち入りができるようになり、駅も新しくなりました。また、町内に原発事故を伝える「東日本大震災・原子力災害伝承館」もオープンし、多くの人が訪れるようになりました。また、昨年は復興住宅も建設されはじめ少しずつ人々が戻ってきているようです。駅の西口に住民の憩いの場が設けられるようで、視察をした日にも急ピッチで工事が行われていました。双葉町を取り上げた新聞記事や書籍には、「復興を印象付けるために行われているのではないか」「一定の区間だけ居住できるようにするだけで復興と言えるのか」と痛烈に批判をしているものもありました。今回は自分の目で現地を見て、私なりに判断をしてみたいと感じました。

確かに、復興の拠点となっているところ以外を歩くと、まだまだ復興には程遠い状態と言えます。ところどころに倒壊した家屋が見られ、特に駅から少し離れた地域は、震災直後のまま。時間が止まってしまっています。双葉町を取り上げた新聞記事や本で、「一部を作り直すだけで復興なのか?」と批判されていたのはこのことだとわかりました。確かに、町の大部分は更地か倒壊した状態の建物、そして汚染土の中間貯蔵施設です。町の人が本当に「ふるさとに戻ってきた」と思えるような町づくりがこれからの課題。そう感じます。これからも双葉町の復興の様子を見守りたいと思います。

復興が進む大熊町

大熊町に建設中の学校

続いて視察したのが、双葉町に隣接する大熊町です。福島第一原発は大熊町にありますので、当然この町の方たちは全町避難を余儀なくされました。しかし、ここ数年で除染が進み、町への立ち入りができるようになってきました。今回はその復興拠点となっている大川原地区へと行ってきました。大川原地区には大熊駅から生活バスが出ており、誰でも利用できました。大川原地区に入ると、大きな町役場、そして居住が始まっている住宅が目に入りました。高齢者の方の施設や診療所、そして商業施設などもつくられており、町としての機能が整いつつあるように感じました。また、すぐ近くに、認定こども園と小中学校を統合した新しい学校「学び舎 ゆめの森」がもうすぐ開設予定で、視察した際には急ピッチで建設が行われていました。やはり学校は町の核となる施設ですので、ここに子どもたちの元気な声が早く戻ってほしいと感じました。

今回、町の人に話を聞く機会を得られなかったのですが、町の人が自分たちで作っている広報誌を役場でいただき、読むことができました。広報誌によると、だいぶ町での生活に慣れていることや、もっと人々の交流を増やしていく取り組みを行っていることなどが書かれていました。これから学校もできて、この大熊町がどのように復興していくのか、さらに見つめ続けていきたいと感じました。

震災学習で子どもたちと学ぶ

請戸漁港から福島第一原発をのぞむ

今回、双葉町や大熊町を訪ね、復興が進んでいる面や逆にまだまだ復興の兆しが見えない点が分かりました。まずは、復興する拠点を作り、人々が戻ってこられる環境を作ること。それが行政の施策であると分かりました。私自身、まずは故郷に戻れる状況を作ることは大変重要であると考えますが、必ずしもそれが避難を続けている方々のニーズに合っているか分かりません。これからどのように復興を目指せばよいのか…それを探っていかなければならないと強く感じています。

そのために、今年も担当する児童と震災について学ぶ学習を計画しました。児童は、あの東日本大震災後の生まれです。私の話や保護者の方の話から、どんなことがあったのかを聞いて知ってはいますが、当時の状況などを肌で感じてはいません。そこで、今回の学習でも、新聞記事を活用して震災について学ぶ機会を作ろうと思います。そして、被災地を取材した記者さんにゲストとして来ていただき、児童に話をしてもらいたいと思いました。

今回はテーマを「自分のふるさとを大切にする気持ちの育成」としました。東日本大震災の原発事故で避難を余儀なくされ、いまだに故郷に戻れない人たちがたくさんいます。少しずつ、住民が戻れる状況が作られていますが、これからどうなるかまだまだ見通せない状況です。そこで、原発の被害を受けた地域の小学生にスポットを当てて、学習を進めたいと考えています。今年も、子どもたちとともに震災について学びたいと思っています。

文・写真:菊池健一

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