2023.06.05
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北海道から全国へ!教育現場のICT導入と子どもたちの未来(前編) 小規模校化の最先端を行く「へき地」で個の力を育てる

2020年12月に「包括連携協定」を締結した北海道教育大学と株式会社内田洋行。北海道をキーワードに、昨年から定期的に学校・教育関係者を対象としたセミナーを共同開催している。2023年5月12日(金)、北海道教育大学釧路校にて開催され、YouTubeでも配信されたセミナーを取材した。
小中学校には11台の端末が支給されるようになったが、端末の活⽤方法等に悩みを抱える先⽣方が多数いることも現状。小規模校・地域ごとの教育委員会に裁量権がある北海道には、次世代の教育を見据えた新たなチャレンジができる土壌があるはず!という視点から、最先端教育の可能性を探る場として今回のセミナーが開催された。

北海道発 GIGA活用セミナー「春」~地域ごとの特色ある先端教育の可能性を探る
  1.  個別最適で協働的な学びをICT活用で実現するために。〜全国や北海道各地の事例から〜
    北海道教育大学 未来の学び協創研究センター 主任センター員 佐藤 正範 氏
  2. 遠隔合同授業の可能性
    北海道教育大学 へき地・小規模校教育研究センター 副センター長 川前 あゆみ 氏
  3. 1人1台の次のステージへ!「教育データ活用」と「これからのパソコン教室」
    株式会社内田洋行 須藤 綾子 氏
  4. リレー登壇
    ①情報活用能力の育成に向けて
     釧路市立芦野小学校 教諭 尾形 加奈子 氏
    ②ICTの効果的な活用の日常化を
     釧路町立富原小学校 主幹教諭 黒滝 誠 氏
    ③自己調整力の向上×ICT活用
     浜中町立霧多布小学校 教諭 中村 亮太 氏
    ④小規模校間をつなぐ遠隔合同授業
     鶴居村立鶴居中学校 教諭 小野 智希 氏
    ⑤義務教育学校としての活用と教科連携した学習
     北海道教育大学附属釧路義務教育学校 後期課程 主幹教諭 更科 結希 氏
  5. 基調講演 国と村の視点から見る教育DXの可能性
    東京都利島村教育委員会教育長(前文部科学省教育DX推進室係長) 弟子丸 知樹 氏(オンライン登壇)
  6.  パネルディスカッション
    ファシリテーター:佐藤 正範 氏 パネリスト:全登壇者

1.個別最適で協働的な学びをICT活用で実現するために

あふれる情報をコントロールし、自らの力で進んでいける人材を育てる

北海道教育大学 未来の学び協創研究センター 主任センター員 佐藤正範氏

北海道教育大学未来の学び協創研究センターについて、まず紹介させてください。「未来の学び」を「Society5.0時代の学びや教育のあり方を研究し、次世代の教育を担う教師を育むこと」、「協創」を「産学官連携で、未来の学びを創発できる、新しい発想・価値を生み出すこと」と定義し、教職志望学生の授業への研究成果の反映、現職員教員向けセミナーの企画運営のほか、中学生向けにCADや3Dプリンタを使ってロケットを作る教室を開いたり、書籍の発刊も行っています。

現在はインターネットをはじめとした通信技術の発達によって、膨大なデータがあふれる社会となりました。そのうえで新たな価値観や仕事も出てきました。巷では、これから人間はコンピュータに使われる時代、仕事は全部IT達が肩代わりなんて話を耳にすることもあります。Society5.0の目指す社会は、あくまで人間中心の社会です。このあふれるような情報をコントロールし、自らの力で進んでいける人材を育てるという重要な役割を担う教員の育成がテーマとなっています。

GIGAスクール構想として、レベル1:端末の整備ができたから、レベル2:必要なときに先生が端末を使わせていると段階を踏み、レベル5:教師も子どももデータを有効活用できる、最終的にはレベル6:異校種間でデータの連携をしているという状態を目指しています。現在は、この段階の進捗度合いも自治体によってさまざまです。さらなる段階アップを推し進めていくうえで、教育現場だけではなくICTに特化した企業と協力・連携すれば、さらなる躍進を望めます。

北海道での取組を、日本の未来を担う人材育成のモデルケースとして全国へ広く伝えていきましょう。

2. 遠隔合同授業の可能性

へき地教育のパラダイム転換

北海道教育大学へき地・小規模校教育研究センター 副センター長 川前あゆみ氏

全国的に小規模校化が進む中で、少人数学級を複数校つなげた遠隔合同授業の教育効果および可能性に着目しています。

2019年に「学校教育の情報化の推進に関する法律」が施行されました。これによって、学習活動におけるICT・GIGA構想が本格的にスタートしました。

2021年中央教育審議会答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」の「中山間地域や離島などに立地する学校における教育資源の活用・共有」の項では「義務教育段階においては、山間・へき地や、小規模校などの学校で児童生徒間の多様な交流や専門家による対面での指導が困難な場合に、遠隔授業を積極的に活用する」ことを推奨しており、ICTの活用のよって、山間・へき地校でも多様な意見に触れ合えるようになる可能性を提起しています。

鹿児島県徳之島町で実際に、遠隔合同授業を行いながら同学年の交流を図ったところ、子ども同士は他校の子ども達とも日常的な意見交換をしながら学び合い、学習活動への意欲を高めていく様子が伺えました。

少人数の学級では、元々個々の子どもに個別最適な学びを施していますが、さらに協働的な学びが付加されたことによる子どもの成長を間近に捉えることで、教師も遠隔合同授業の教育効果と必要性を感じることができたのです。

また、教師も、子どもの普段の成果やエピソードの情報交換をするなかで子ども理解が深まったそうです。子どもと教師の成長、さらにはチームとして学校全体の相乗的な効果が見受けられ、“学校力”の向上へとつながったと考えることができます。

遠隔合同授業の組織的・継続的な発展条件
  1. トップダウンによる教育事業の意義の理解の浸透と、現場におけるリーダーの先導的なファシリテーションやコーディネート
  2. 遠隔合同授業の指導方法と、へき地・小規模校教育の全般的な指導方法が相乗的に高まること
  3. 誰でも・どこでも使いやすいICT・遠隔教育システム
  4. 基本的な授業展開・指導方法の共有化
  5. チーム学校として、相手校・教師間での協働性が高まること

3. 「教育データ活用」と「これからのパソコン教室」

株式会社内田洋行 ICTプロダクト企画部 須藤綾子氏

1人1台端末活用から、教育データ活用という次のステージへ進むためには、何が必要なのでしょうか。

まず「学習eポータル」があります。端末と各教材・ツールなどのシステム同士をデータ連携でつなぐ役割を持ったもので、令和5年度全国学力・学習状況調査中学校英語「話すこと」調査で、端末と文部科学省のCBT(Computer Based Testing)システムをつなぐ仕組みとして利用されました。

次に、教育データの準備です。教育データは成績だけではなく「名簿情報」や「学習教材の利用状況」、それ以外にも「心と体の毎日の記録」や「授業の記録」なども含まれます。これらのデータの足並みを揃え、受け皿を用意して蓄積・分析して初めて、不登校予防や個別最適な学びへ活かしていくことができるのです。

ユビキタス協創広場U-cala(株式会社内田洋行北海道支店内)

話題は変わりますが、1人1台端末の導入後、コンピュータ教室は使っていますか。

文部科学省は、2022年12月に発出した事務連絡「GIGAスクール構想に基づく1人1台端末環境下でのコンピュータ教室の在り方について」で、これからのコンピュータ教室は、普通教育×GIGA端末ではできない(やりにくい)ことを実現させる場所として活用するようにと示しました。

普通教室とは「違うこと」や「関連させること」を明確にしたうえで、学習アプローチや機器の更新に柔軟対応できる空間として活用していく場としてご提案します。北海道教育大学 未来の学び協創研究センターが研究している3Dプリンタや VRゴーグル、360°動画などを扱う教室にもできそうですね。

4.リレー登壇 釧路管内5団体のGIGA活用の取り組み

①情報活用能力の育成に向けて

釧路市立芦野小学校 尾形加奈子教諭

まず、私が所属する釧路教育研修センター 学習指導・開発研究グループの活動を紹介します。昨年度、文部科学省の情報活用能力の体系表例を読み解き、福島県の先行研究を参考に、釧路市の実態に合わせてタブレットやアプリケーションの基本操作に置きかえ、わかりやすく整理・簡潔化した「情報活用能力体系表【釧路市版 第1版】」を作り、配布しました。

今年度は、この体系表と授業との結びつきを踏まえて授業実践、研修を重ねていきたいと考えています。

実際に、体系表の小学校中学年の「知能及び技能」に挙げられている「調査や資料などから情報を収集することができる」を育成する授業を行った様子を紹介します。4年生社会科「水はどこから」の授業をGoogle Jamboardを活用して実施しました。子ども達が画像の貼り付け・活用を行いながら他の人の意見を共有し、認識を広げていく様子が見受けられました。

Google Jamboardの活用に当たっては、誤って子どもが必要な情報を消去したり移動したりしないように背景設定にしたり、遊んでしまわないように、毎時の終わりに5分だけ開くというように使う時間を限定したりといった工夫をしています。

②ICTの効果的な活用の日常化を

釧路町立富原小学校 黒滝誠教諭

本校で進めている効果的で日常的な活用の方法について4点紹介します。

1つめは授業改善についてです。タブレット端末を利用することで共有が容易になり、どの子も自分の考えを発表して学び合えるようになりました。本校では、すべての学級で積極的にタブレット端末を利用しています。1年生2学期の「たのしいな、ことばあそび」の学習では、子どもたちがつくったクイズをたくさん取り上げるなど、低学年においても発達段階に応じた活用が進められています。

2つめは家庭での活用です。日常的に持ち帰りを進めているので、宿題プリント等の配布・回収が容易になりました。国語の音読学習などを家庭学習として取り組み、提出するような使い方も行っています。

3つめは、不登校支援における活用です。すべての子に学びを保証するべく、登校できない子にはzoom等を利用した学習支援を提供しています。1年間登校できなかったお子さんが、4月からのオンライン学習をきっかけに徐々に登校しはじめ、2学期には毎日登校できるようになったケースも出てきました。

最後は、校務支援としての活用です。ロイロノートの資料箱を整理し、教師間の情報共有ツールとして活用しています。前年度の教材や著作権フリーの適用問題などを容易に取り出せるようになり、学びの質を上げるとともに、職員の働き方改革にもつなげています。

③自己調整力の向上×ICT活用

浜中町立霧多布小学校 中村亮太教諭

自己調整学習研究の第一人者である伊藤崇達氏は、自己調整学習を「学習者本人が主体的に自らの学びを方向づけ、学習の進め方やペースを自分で調整する」と定義しています。

自己調整力の向上は、これからの社会を切り開いていくために必要な力であり、これからの教育に必須であると考えています。令和の日本型学校教育においては、子ども一人ひとりに応じた学習活動や課題に取り組む機会を提供することが、教師に求められています。

自己調整学習には①予見(目標・計画設定)、②遂行コントロール(自己モニタリング)、③自己考察(振り返り)の三段階があります。

段階①では児童一人一人が立てた学習計画をICTを用いて共有することで、解決のためによりよいと考える学習方略・方法を選択できるようにしています。段階②では取り組み状況をリアルタイムで共有しながら改善・修正できるようにしています。段階③では下記の項目で振り返り、デジタルポートフォリオ化します。

  • 自分(たち)はどのような方法を選択し、どのような学習をしたのか(学びのダイジェスト)
  • 達成度・理解度はどうだったか(結果)
  • なぜそのような結果となったのか(結果・学習プロセスの自己分析)
  • それをよりよくしていくためにはどうしたらよいか(改善策)

「即時性」「可視化」「共有化」というICT活用のよさは、自己調整学習にも大きなメリットであり、メタ認知の効果が大きいと考えています。即時的な教師のフィードバックは、個に応じた指導の充実につながります。

ICTは自分にとって必要なタイミングや方法で自己調整するために欠かせません。これらを実現していくために端末操作スキルの系統表も作成しており、今年度妥当性を検討していきます。

(後編へ続きます。)

取材・文・画像:学びの場.com編集部

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