2020.11.18
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世界最高齢のプログラマーが語る!人生100年時代の学び方 「New Education Expo 2020 ONLINE」リポート vol.2

81歳でスマートフォン用ゲームアプリ『hinadan』を開発し、「世界最高齢プログラマー」として知られるようになった若宮正子氏。年齢を重ねても創造的に生きる若宮氏が、進化する人工知能(AI)との付き合い方や子どもたちに伝えたい創造する力、新型コロナウイルス感染症がもたらした新常識(ニューノーマル)などについて語った。

登壇者プロフィール

世界最高齢のプログラマー:若宮正子 氏

世界最高齢のプログラマーとなる

近年、緊急避難情報や家族の安否確認など行政のサービスもオンライン化しているなか、高齢者もスマートフォンを使えないと社会から取り残される。「シニアが楽しめるアプリがあれば」との思いつきが『hinadan』を制作したきっかけとなった。初めは誰かに頼んで作ってもらうつもりだったが、友人に話したところ「シニアの興味は若宮さんにしか分からない」とのアドバイスを受け自分で作ることになったという。インターネット上の老人会「メロウ倶楽部」を運営するなどITには明るい若宮氏だが、アプリの制作は初めて。プログラミングを教わりながら『hinadan』を制作して公開したところ、世界最高齢のプログラマーとして注目され、Apple社のCEOにも面談するなど一躍有名になった。

『hinadan』を制作する過程で、プログラミングさえ学べば面白いアプリが作れるわけではないということに気が付いたという若宮氏。ストーリーの全体像を捉え、キャラクターの動きやBGM、ストーリー、ナレーションなど創造する力があって初めて面白いアプリができる。新しいものを生み出すためには創造力が必要なのだ。若宮氏はこの創造力や創造する喜びこそが人間とAIとの決定的な違いだと考える。

人工知能が発達していく時代、人間こそが持つ力とは

人工知能(AI)の進化により、将来的には人間の仕事の多くはAIに奪われると言われている。プログラミングだってAIがする時代になるかもしれない。では、人間とAIの違いはどこにあるのだろうか?

コロナ禍で巣ごもり中、多くの人たちが家にある材料でマスクや料理などを工夫して作った。限られた条件の中で多くの人が自発的に物を作り、楽しんでいたのだ。何かをひらめいたり、新しいことを創造したりすることは人間だけが持つ力と考える若宮氏は「創造こそが、AIにも動物にも真似できない最も人間的な活動。だからこそ私は創造的でありたい」と話す。

シンギュラリティ問題が叫ばれる中、人間はAIに抗うのではなく、共存する時代に備えたほうがよい。AIと二人三脚で生きていくことを考えたときに、人間に求められるのはAIにはできないひらめきや創造の役割だ。AIは指示されたものを作ったり、考えたりすることはできる。しかし、自分で新しいものを創り出し、その活動に喜びを感じることはできない。これこそ、人間らしい行動といえる。お手本通りや誰かの真似ではない「創造する力」こそがこれからを生きる力となる。

創造する喜びを子どもたちにも伝えたい

「何かを作るって楽しい」という気持ちを子どもたちにも伝えようと、自宅に放送局を設置し、YouTubeでのライブ配信も始めた。2020年から小学校でのプログラミング教育も必修化し、デジタルネイティブの子どもたちはプログラミングの技術をどんどん吸収するだろう。しかし、何かをつくるという根本的な楽しさは学校の外でも学べるのではないかと思ったのだ。『小学生の君たちへ』と名付けた動画では、ほしいものは買えば手に入るのに、なぜ私たちは物を作るのかということを問いかけている。私たちが物を作るのは、新しいものを生み出すこと自体が楽しいから。創造力があれば自分が思うものを創り出すことができる。そして、素晴らしいものをつくるためには、絵画や音楽、自然、文学にたくさんふれることが大切だ。ベートーベンが伝えたかったことを知るには、実際にベートーベンの曲を聴いて考える。ピカソが訴えたかったことを知りたければ、「ゲルニカ」の絵を見る。自分自身の心を豊かにするような生き方をしてほしいと子どもたちに呼びかけている。この動画は小学校の先生による視聴も多い。

新型コロナウィルスは我々に何をもたらしたか

日本はずっと「皆さまご一緒に」の国だったが、「三密」を避けたリモートワークやソーシャルディスタンスによって人間関係が変わってきた。人が集まらなければコソコソと悪口も言えないし、会社での人間関係に煩わされることもない。会社で働いて、自宅は寝るために帰るだけという生活でもなくなる。仕事イコール人生ではなく、仕事は人生の一部になるだろう。

社会の変化に合わせて、私たちの意識も変えていかなければいけない。そこで提案するのが、「フォルダー型」人間から、「ハッシュタグ型」人間への転換だ。フォルダー型とは、「大会社」の中のサブフォルダー「○○支店」「○○課」「営業代理」という細分化されたフォルダーに帰属する人間のこと。肩書に依存し、フォルダーの中に縮こまっていては環境の変化に対応できない。

その点、「ハッシュタグ型」人間は趣味や特技をハッシュタグのように広げていく。「#ひょっとこ踊り」「#釣り」「#書道」「#カラオケ」など、経済や産業の知識だけにこだわらない。ハッシュタグを取っ掛かりに、会社の中でも新しい業種が生まれるかもしれない。会社が吸収合併されたとしても、ハッシュタグのどれかが引っかかって役に立つかもしれない。自分だけのハッシュタグがあれば、会社という組織を離れても、新しいビジネスを立ち上げたり、老人ホームを慰問したり、学童で子どもたちに教えたり、社会に必要とされる存在となることができる。

高度成長の時代は終わった。これから迎える少子高齢化の未来は、持続可能な社会であり、経済が右肩上がりになるとは言えない。私たちも組織にぶら下がるのではなく、自立した個人として生きていくことが求められているのだ。さまざまなハッシュタグを増やしていくことで、多様化していく社会の中で、新しい生き方のきっかけをつかむことができるかもしれない。

一人の自立した人間としての「人間力」が必要とされている。「私たちの世代はすぐに『主人が言っているから』『息子に聞いてみる』っていうんですけど、あなたはどう思っているんですか?って言いたい」。誰かが言っているからではなく、自分自身がどう思うのか。一人の人間としての意見を持たなければいけない。

知識と智慧で正解のない時代を生きる

常に新しいことに挑戦し、テレビに出演したりするなど、エネルギッシュに毎日を送る若宮氏。すでに次は「春の七草」をテーマにしたアプリを構想しているという。

経済活動は未だに新型コロナ感染症の影響を受け、自然災害の規模も年々大きくなってきている。「コロナがどうなるかなんて誰にも分からない。私たちは正解のない時代を生きているんです。刻々と変化する時代の中で、一番ベターな選択肢を選び続けていくためにはもっともっと柔軟な発想が必要になります。年齢に関係なく知識を吸収して、それをエネルギーに変換して智慧を付けて厳しい時代を生き抜いていきましょう」と力強く締めくくった。

取材・⽂︓学びの場.com編集部/写真提供︓New Education Expo実⾏委員会事務局

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