2020.12.09
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学びを止めないICT活用 ~1人1台の端末を活用したオンライン授業の現状と課題~ 「New Education Expo 2020 ONLINE」リポート vol.3

新型コロナによる突然の長期休校に、学校は「学びを止めない」対応を迫られた。しかし文部科学省の調査によると、すべての公立小中学校が「教科書や紙の教材」を活用して家庭での学習を指導した一方で、「同時双方向型オンライン指導」を行えた学校はわずか8%に過ぎなかった(6月23日時点)。今また新型コロナの感染者数が各地で急増し、「再び休校になるのでは?」とも危惧され始めている。本セミナーでは、今年春の臨時休校においてオンライン授業を実施した私立学校が登壇。実施に至る経緯や使用したICT環境、教員・児童生徒の反応や今後の課題について、語ってくれた。

登壇者プロフィール

大妻中野中学校・高等学校 平野 恵 氏

三浦学苑高等学校 安宅 隆 氏

八王子学園八王子中学校・高等学校 田上 大地 氏

Zoomやロイロノートなどを使い分け
双方向な指導だけでなく主体的な学びも促す

大妻中野中学校・高等学校 平野 恵 先生

大妻中野中学校・高等学校では、2018年から全生徒・教職員が1人1台を活用していた。この環境を活かし、昨年度3学期の休校直後から、オンライン授業の検討を開始。YouTubeの配信テストやZoomを用いた双方向授業の試行を進めつつ、自宅にいる生徒にロイロノートやmanabaを用いて毎朝の出席確認を行った。本格的にオンライン授業をスタートさせたのは、新年度になってから。同校の平野恵先生は、オンライン授業の変遷を3つの期間に分けて振り返ってくれた。

まず第1期(4/8~4/19)は、生徒も教員もZoomなどのツールに慣れる期間。5教科を中心に、家庭学習で何をするべきかアドバイスを行った。第2期(4/20~5/10)では、1日3時間のオンライン授業を開始。朝のHRで今日の時間割と使用する機器やアプリ、準備するモノなどを伝達し、ロイロノートやスタディサプリなどを使って授業を実施した。授業時間内に、Zoomを使った教員への質問タイムも設けたという。そして連休明けの第3期(5/11~)は、全授業のオンライン化を本格的に実施。図のような時間割を決め、全教科でオンライン授業を行った。

「オンライン授業=双方向の指導ととらえがちだが、生徒の主体的な学びも組み合わせた」と、平野先生は言う。Zoom等で教員・生徒間の双方向なやりとりを行うだけでなく、与えた課題に対して生徒が主体的に取り組む時間も確保するよう工夫した。

 2学期になって通常登校が再開されてからも、通常授業の中にオンライン授業の要素を組み込むようになった。たとえば教員が作成した動画教材を1人1台で閲覧して問題を解いたり、上の学年向けの動画教材を見て予習しているという。

 オンライン授業について、生徒にアンケート調査を行ったところ、「後から見返すことができる」「自分のペースで学習できる」などの良さを挙げる意見が多数寄せられた。一方で「質問したい時にすぐできない」「モチベーションが上がらない」などの課題も指摘された。最後に平野先生は、「通常授業をそのままオンラインで流すだけではだめで、双方向・一方向・主体的な学びのバランスが大事だと実感した」と総括し、「今後は授業形態をもっと工夫していく必要がある」と締めくくった。

「知識・技能」の習得をめざし
「チーム学校」でオンライン授業を実施

三浦学苑高等学校 安宅 隆 先生

「学びを止めない大切さと難しさを痛感した」と語り始めたのは、三浦学苑高等学校の安宅隆先生だ。同校では、昨年度にG Suiteを、今年度からiPadを1人1台導入していた。2月29日から休校が始まったが、G SuiteのClassroomや学校ホームページ、一斉メール等を使って家庭との連絡を確保。生徒には課題を提示しつつ、教員には校内研修を行って、オンライン授業の準備を進めた。

 そして新年度から、オンライン授業を本格的にスタートさせた。この際に重視したのは、「知識・技能をしっかり習得させること」だった。たとえばまずは前時の復習として小テスト(Googleフォームを使用)を行った後、ウェブで教材動画を閲覧。最後に小テストも行って一人ひとりの学習状況を確認し、全体の正解率が低い場合は解説動画を作成して配信するなど、「授業をしっぱなしにしないように気をつけた」という。また生徒には、Zoomの使い方マニュアルやオンライン授業のルールとマナー集を作成して配布。同時に、ICTが苦手な教員へのサポートも行った。

連休明けの5月7日からは、通常の授業に近い形のオンライン授業を1日3時間(1コマ40分)行うようになった。授業の導入ではZoomなどを用いて生徒に声をかけて学習態勢を整わせ、今日の学習目標を伝達して全員で共有。その後、教材スライドを提示したり、教材動画を視聴するなどの学習活動を行った後、Zoomなどで生徒と双方向の指導を行った。教員間の情報共有も密にし、今週の実施内容や困ったことなどを連絡し合い、「チーム学校」としてオンライン授業に臨む体制を作っていったという。

 オンライン授業は生徒はもちろん保護者からも好評で、「他校より早く始めてくれてよかった」「オンライン授業のおかげで規則正しい生活ができ、自宅で勉強する機会が増えた」などの声が寄せられたそうだ。

 学校が再開後も、通常授業にオンライン授業の要素を取り入れている。たとえば3密を避けるためにZoomで対話をしつつ、Googleスライド上で共同編集を進めていく。またZoomやG SuiteなどのICTを用いれば校外の方々ともつながりやすいメリットがあるため、課外活動で校外の専門家から指導を受けながら点字絵本の制作に取り組んだりしているという。「オンライン授業に役立つICTをどう活用すれば、目指す資質・能力の育成につながるか。今後は授業デザインがとても大事になってくる」と、安宅先生は結んだ。

収録した動画を配信しつつ
文字による双方向コミュニケーションも実施

八王子学園八王子中学校・高等学校 田上 大地 先生

最後に、八王子学園八王子中学校・高等学校の田上大地先生が、休校期間中の様々な取り組みについて紹介した。同校では、2016年から中学校で1人1台を開始し、G Suiteやロイロノート、スタディサプリなど主に用いて来た。

 新年度開始とともに、オンライン授業もスタート。まずは先生方に、動画作成の方法やクラスルームの使い方を説明し、動画作成方法を説明した動画も配信するなど、校内研修に努めた。「スタディサプリの動画教材で十分では?」との声も出たそうだが、「こういう時だからこそ、教員の頑張る姿勢を生徒に伝えることが大切。自分たちで動画作成を行ってみよう」と、学校全体で取り組んだという。

 そして4月中旬から収録した動画配信を中心としたオンライン授業を開始したが、授業だけでなく「オンライン健康チェック」や「オンライン朝礼」も行ったのが、大きな特徴だ。生徒は朝起床したら、G SuiteのGoogleフォームで健康状態のアンケートを提出。「オンライン朝礼」では、Googleスプレッドシートに先生と生徒が同時に書き込むことで、文字による双方向のコミュニケーションを実現した。

オンライン授業は、1日4コマ。Googleクラスルームでその日の時間割を確認し、基本的には事前収録した動画を配信する形で授業を進めた。リアルタイムの動画配信だと回線の不具合等で授業が止まることを懸念したという。しかし一方で、文字によるリアルタイム双方向コミュニケーションを行う機会も確保した。ロイロノートで事前収録した教材動画を配信しつつ、先生からの指示や質問をカードで送信。生徒は答えや意見をカードに書いてロイロノートで提出し、その考えをみんなで共有したり、先生が正誤を添削して生徒に送り返したりした。またGoogleフォームを使った小テストや、Googleミートを使ってオンライン面談も実施した。

 今後再び休校になった場合に備え、全教員向けに「休校中マニュアル」も制作。「動画は10~15分。見やすさ聞き取りやすさに配慮し、印刷物は最小限」など、動画作成のポイントを解説した。「培ったオンライン授業のノウハウを、通常授業でも活かしていきたい」と田上先生は抱負を述べた。たとえば先に教材動画を配信して家で予習してくる反転授業を行ったり、動画をアーカイブス化して閲覧できるようにすることも検討しているそうだ。

記者の目

新型コロナが感染再拡大の様相を呈してきた今、「学びを止めない」ためにもオンライン授業をいつでもできる体制を整えておく必要がある。今回登壇した3校はみな、新型コロナ以前から1人1台やクラウドに生徒も教員も慣れていたのが、大きなアドバンテージになっていた。それでも、オンライン授業を行うことは容易ではなかった。校内研修やマニュアルを作って生徒・教員に周知する大切さはもちろん、「双方向で指導・伝達すること」「生徒一人で取り組むこと」「生徒間で情報共有し協働させること」を、どう区分けするかなど、授業づくりが重要になってくることがよくわかった。

取材・⽂︓学びの場.com編集部/写真提供︓New Education Expo実⾏委員会事務局

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