2020.12.14
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初等中等教育における今後の遠隔・オンライン教育のために ~withコロナ・ポストコロナに向けて~ 「New Education Expo 2020 ONLINE」リポート vol.4

今回は、2020年11月20日(金)に実施されたセミナーの一つ「初等中等教育における今後の遠隔・オンライン教育のために ~withコロナ・ポストコロナに向けて~」(共同開催:文部科学省「遠隔教育システムの効果的な活用に関する実証」)をリポートする。セミナーでは、文部科学省から「withコロナ」「ポストコロナ」における遠隔・オンライン授業の在り方についての説明ほか、3地域から具体的な実践事例について発表された。また、パネルディスカッションを通じて、遠隔・オンライン教育を行うにはどんな準備をすればよいのか、今後どのような取組が求められるのか、議論が交わされた。

登壇者プロフィール

【進行/コーディネーター】

信州大学特任教授 東原 義訓 氏

【ゲストスピーカー】

文部科学省 初等中等教育局情報教育・外国語教育課 情報教育振興室長 水間 玲 氏

【パネリスト】

高森町教育委員会 審議員兼教育CIO補佐官 古庄 泰則 氏

京都府教育庁 学校教育課 総括指導主事兼係長 瀧本 徹 氏

箕面市教育委員会 子ども未来創造局教育センター 指導主事 岩永 泰典 氏

(実証事務局)内田洋行 教育総合研究所 井上 信介

目指すのは、効果的な事例の創出と、対面授業との融合

文部科学省 初等中等教育局情報教育・外国語教育課 情報教育振興室長 水間 玲 氏(オンライン登壇)

セッション冒頭、まずは文部科学省の水間 玲氏によって、遠隔・オンライン教育のために同省が進める実証事業について紹介された。2015年より、文部科学省では遠隔教育の実証研究を行っている。その内容は、「多様な人々とのつながりを実現する遠隔教育」から「教科等の学びを深める遠隔教育」、「個々の児童生徒の状況に応じた遠隔教育」とその幅を拡げつつ現在に至っている。

今回のコロナ禍においては、オンライン学習環境を整備するため、Wi-Fi環境の整っていない家庭にLTE通信環境(モバイルルーター)の貸与等を支援(予算147億円)。また、学校側のカメラやマイクなどの通信装置等の整備も支援している(予算6億円)。

また、文部科学省HP「新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する対応について」で、各地域のICTの活用事例を紹介した。それらに共通しているのは、「前例に囚われず、また、抑制的な思考に陥ることなく、前向きに検討すること」「意欲的に取り組む教職員による創意工夫の試みを最大限活かすこと」「まずは、取り組みを開始し、その後の地域の実情等に応じて改善する弾力的な発想で対処すること」だったという。今後も緊急時にICT端末を最大限活用し、子どもたちの学びの保障を円滑に進めるため、これら3つをポイントとして提示したとのこと。文部科学省では、これからも効果的事例の創出に努め、ポストコロナを見据え、臨時休校への備えや対面授業との融合、オンライン教員研修などについて実証研究を進めていくという。

コロナ禍を停滞ではなく、教育の情報化の加速に

高森町教育委員会 審議員兼教育CIO補佐官 古庄 泰則 氏(オンライン登壇)

緊急時のICT活用の成功事例として、3つの自治体のパネリストが取り組みを紹介した。熊本県の高森町は、2012年から段階的に教育の情報化を推し進めており、すでに校内ネットワークや一人一台の情報端末の整備も完了している。同町の教育委員会審議員兼教育CIO補佐官である古庄泰則氏によると、今回の緊急時の対応をその延長線上で捉え、掲げてきた「高森町新教育プラン」をよりどころとし、「高森に誇りを持ち、夢を抱き、元気の出る教育」を目標に据えてアクションを起こした。

ただ、2015年から町内の2校をつないだ遠隔合同授業にも取り組んでいたものの、大きな違いがあったのは、教室に児童生徒がいないこと。この誰も経験したことがない事態に対し、学校間でも情報共有しながら、一つひとつオンライン授業の課題を解決していったという。そのなかで、実物投影機の活用や、児童のタブレット端末の遠隔操作による個別指導なども確立していった。

学校再開後も、個別最適化された教育を目指し、タブレット端末の持ち帰りを実施。動画・静止画を撮影して成果物を作成させるなど、オフラインも活用した学習を推し進めている。コロナ禍を停滞ではなく、「高森町新教育プラン」の実現に向け、大きく前進させる契機とした。

クラウドも活用し、オンラインとオフラインの教育をハイブリッド

京都府教育庁 学校教育課 総括指導主事兼係長 瀧本 徹 氏(オンライン登壇)

コロナ禍による臨時休校は、京都府でもICTを強制的に推進する契機となり、それを再開後につなげている。京都府教育庁学校教育課で総括指導主事兼係長として活躍する瀧本徹氏は、「学びの保障が重要なのは当たり前だが、新学習指導要領の目指す豊かな学びも必要だと考えた」と、教育のICT化によるシフトチェンジも見据えて動き出したという。

具体的な取り組みとして、臨時休業中、教育委員会のWebサイトに「京都府教育委員会からの挑戦状」という課題コンテンツを掲載。こちらは正解が1つではない問いとなっており、子どもの学習進度に合わせて4つの段階を設けた。「疑問と葛藤し、考えるおもしろさを体験できた」という声もあり、臨時休業中でも新学習指導要領の目指す学びを諦めなかったことが、成果として表れていた。

また、すべての学校の教職員、児童・生徒分にマイクロソフトアカウントを20万件発行。遠隔授業だけでなく、Office365を活用した「動画配信」「小テスト・アンケート」「音声通話・チャットによるコミュニケーション」「課題配信・提出」「オンライン家庭訪問・面談」なども実施した。このほか、府立鳥羽高等学校の事例として、臨時休校中にも数学国際コンテスト「Purple Comet! Math Meet」に生徒が自宅から遠隔参加するなど、海外の学校との交流を実現したことも紹介。教育のICT化による可能性を追求できたという。同教育委員会では、今後もオフラインとオンラインによる学びのハイブリッド化を押し進めていく考えだ。

あえてICTモデル校以外で実証し、課題をあぶり出した

箕面市教育委員会 子ども未来創造局教育センター 指導主事 岩永 泰典 氏(オンライン登壇)

現状、ICT化の差は学校によってばらつきがある。そのようななか、コロナ禍を契機に、全体のボトムアップを目指して果敢に挑戦したのが大阪府の箕面市教育委員会だった。

同教育委員会の子ども未来創造局教育センター指導主事である岩永泰典氏によると、臨時休校中は、まず学習の補填としてYouTubeにて授業動画を配信。それにあたり、教育委員会から各学校に授業の担当を決めて割り振り、内容のチェックも行うことで、短期間で質の高い動画を約600本アップ。各学校に確立した授業配信システムがないなかで、均一的な学びの提供を目指したという。

さらに、ホームルームのオンライン化にあたって、あえてICTモデル校ではない小学校から、テスト運用を開始。そこで生じた課題を洗い出すことで、全学校への本格導入へと生かした。その後、受験を控える中学3年生を対象に、オンライン授業も開始。そこで得た知見をもとに、全学校へと展開していった。

とにかく動き出すことによって、課題を発見し、解決していくスタイルが、かえってスピーディーに全体のICT化を推進した好例となった。

図らずも、教育のすべてを担うことになったオンライン

信州大学特任教授 東原 義訓 氏(オンライン登壇)

セッションでは、今回のコーディネーターである信州大学特任教授の東原義訓氏の進行で、パネルディスカッションも実施された。東原教授は、遠隔教育の目的とオンラインによる教育の目的が異なっているのではないかと問題を提議。教育なので目的をはっきりさせるところから、ディスカッションがスタートした。

そのなかで、遠隔教育は、「大規模校と小規模校をつなげ、多様性を学ぶ場の提供」「専門家による授業での学びの深化」「習熟度に応じた個別指導」が目的だったが、コロナ禍のオンラインによる教育は、「学校に通えない不安の解消」「教育の保障」という意味合いが強かったことがわかった。保護者の不安に対しても、オンライン面談などで解消できたことは大きかったという。つまり、教育の一部を担うものではなく、教育に関するあらゆる役割を期待されている点で、大きく異なっていたと言えよう。

オンデマンドと、リアルタイムのオンライン授業を効果的に使い分ける

(実証事務局)内田洋行 教育総合研究所 井上 信介

目的の違いがわかったところで、それではオンラインによる教育で必要な設備、システムについて、意見が交わされた。3つの自治体の取り組みから、オンラインによる教育は、決してテレビ会議システムなどを利用したリアルタイム授業だけでなく、オンデマンドの動画配信やクラウドを利用したシステムなども有効に活用されていることが議題に挙がった。

そのなかで、京都府教育庁の瀧本氏は、大学生はオンデマンドのほうが高評価だったことを紹介。理解度の高い学生は、動画を2倍速で見ているケースもあり、「学習は習ったことを染み込ませる時間が、人によって違う」と瀧本氏。考える学習は、人によってペースが異なるため、クラウドやオンデマンド動画などが効果的。一方、協働学習はオンラインが効果的だったとのこと。学校の授業を、ただオンラインに乗せるのではなく、学習の目的に応じて使い分けることが求められるという意見で一致した。

このほか、箕面市教育委員会の岩永氏から、備品やシステムな面での必要だったものが挙げられた。ひとつは、マイク付きのヘッドセット。これは、再開後の分散登校時、ホームルームで教室の児童とオンラインのPC越しの児童が混在する状態にあったため。今後も多様な学習スタイルを継続していくためには、人数分のヘッドセットはあったほうがよいとのこと。

また、授業支援ソフトを利用する際、校内ではシングルサインオンを使えたが、自宅に端末を持ち帰って利用するときは、アプリケーションごとにIDやパスワードの入力が必要になり、運用が難しかったという。学校、家庭の両方で使えるシステムを導入する必要があると提言した。

子どもをネットから守るルールづくりと、保護者の理解を

このほか、遠隔教育やオンラインによる教育を進めるにあたって、家庭環境や子どもたちに目を向けたとき、問題となることも話し合われた。熊本県の高森町教育委員会の古庄氏は、地域の保護者の理解を求める環境づくりが大切だと発言。コロナ禍以前は、タブレット端末は持ち帰ってもオンラインにつなげない設定だったという。しかし、今回からオンラインが必須になったため、子どもたちが自由にさまざまなWebサイトを閲覧できる面では不安があった。そこで、オンラインによる教育を開始する前に、持ち帰る際のルールや学校のセキュリティーポリシーを固め、保護者の理解を求めたという。

大阪府の箕面市教育委員会では、YouTubeで授業動画を配信した際、視聴後に他の動画がリコメンドされるため、子どもたちに良くない影響が出るのではないかと懸念した部分もあったという。しかし、同教育委員会の岩永氏の調査によると、すでに子どもたちや家庭に多彩なデバイスがある状態で、わざわざ学校から貸し出された端末で、学習コンテンツ以外の動画やサイトを見ることはない、という実態も見えてきたという。子どもたちの取り巻くICT環境の実態や、情報リテラシーの程度、保護者の方の理解などに応じて、もっと柔軟に対応できる課題と言えそうだ。

最後に、今後の遠隔教育、オンラインによる教育を進めるにあたり大切なことを、3自治体からメッセージとしていただいた。熊本県の高森町教育委員会の古庄氏、箕面市教育委員会の岩永氏からは「実際に取り組んでみる、使ってみること」、京都府教育庁の瀧本氏は「無限の可能性を秘めたICTで、子どもたちの無限のクリエイティビティを培うという使命を忘れないこと」と結んだ。

記者の目

突然訪れたコロナ禍によって、余儀なくされた遠隔教育やオンラインによる教育だったが、3自治体はその危機さえもパラダイムシフトとして活用し、将来を見据えた新たな教育を模索している姿が印象的だった。その際に必要になるのは、やはり教育によって何を目指すのか、というゴールの設定だった。決して対面授業の代替ではなく、新たな可能性として捉え、ゴールの実現を目指すべきだろう。目の前に子どもたちがいない、というこれまで誰も経験がない教育に、現場の戸惑いは大きかった。子どもたちも保護者も不安があっただろう。しかし、漠然とした不安のままでは、何から解決してよいかわからない。まずはできることに取り組み、そこから課題を見つけ、解決していく必要がある。そう、子どもたちに求める問題解決能力を、私たちも養わなければならないと言えよう。

取材・文:学びの場.com編集部/写真提供:New Education Expo実行委員会事務局

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