2020.11.11
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ICT活用のパラダイムシフト ~withコロナ・ポストコロナを視野に入れて~ 「New Education Expo 2020 ONLINE」リポート vol.1

開催25周年というアニバーサリーイヤーに、初のオンライン開催となった「New Education Expo 2020 ONLINE」。10月23日(金)、24日(土)の2日間で延べ約3,000名の教育関係者が視聴した。今回は10月24日(土)に実施されたセッション「ICT活用のパラダイムシフト ~withコロナ・ポストコロナを視野に入れて~」をリポートする。withコロナ・ポストコロナを見据えたICT活用のニューノーマルについて、多彩なパネリストが、自治体(教育センター)、校長、教務主任、カリキュラム・マネージャーといったそれぞれの立場から今後のICT活用について語った。

登壇者プロフィール

【進行】

放送大学教授 コーディネーター 中川 一史 氏

【パネリスト】

柏市立手賀東小学校 校長 佐和 伸明 氏

熊本市教育センター 副所長 本田 裕紀 氏

学校法人佐藤栄学園 さとえ学園小学校 山中 昭岳 氏

北海道教育大学附属函館中学校 郡司 直孝 氏

第1部・withコロナで学びを止めないために

早期から環境整備 従来の授業改善の延長と捉え、方向性を示す

熊本市教育センター 副所長 本田 裕紀 氏(オンライン登壇)

パネルディスカッションは、放送大学教授の中川一史氏の進行で実施された。セッションは2部構成。第1部では、withコロナで学びを止めないための取り組みについて発表された。自治体の立場から、熊本市教育センター副所長の本田裕紀氏が取り組んだことは、休校を早い段階から予測して段階的にオンライン環境への移行を整備したことだった。

具体的には、2月に子どもたちが1人でも学べるように学習に役立つWebページを紹介する「おすすめ学習サイト」を作成。2月26日からモデル校でオンライン授業の検証を開始し、3月9日から限定的にオンライン授業を実施。どのような授業を行うべきか研究を重ねた。4月に入り、各学校の代表2名に研修を実施。並行して、小学校低学年はオンライン授業参加が難しい子どももいると考え、民放4局とNHKに協力を仰ぎ、学習支援特別番組「くまもっと まなびたいム」を放送。満を持して4月15日にオンライン授業を開始した。

しかし、「オンライン授業開始直前は、不安な現場からの問い合わせ電話が鳴りっぱなしだった」と本田氏。そこで、オンライン授業のスモールステップを作成。最初から完璧なオンライン授業を目指すのではなく、まず子どもたちとつながるところから始め、少しずつ慣れていく筋道をつけた。

また、オンライン授業をどのように活用するのか方向性も示した。もともと、熊本市にとってICT導入は、授業改善が目的。子どもたちがアウトプットして学び合うツールとして活用してきた。それを今回オンラインに置き換えられないか、というところからスタートしている。そのため、授業の中で課題を出すときはオンラインにし、アウトプット作成時は、いったんオフラインへ。発表や評価時には、またオンラインへ、といった運用に。日頃の授業改善の延長線上にオンライン授業を据えたことが、スムーズな導入につながったと言えよう。

双方向型授業の必要性を共有して一丸体制をつくり、役割分担も明確に

柏市立手賀東小学校 校長 佐和伸明氏

柏市立手賀東小学校校長の佐和伸明氏からは、校長の立場から現場の取り組みが紹介された。休校が現実味を帯びてきたとき、絶対に取り組むべきだと考えたのは、同時双方向型の授業だった。休校時の学習支援として、プリント配布や授業動画の配信も考えられたが、やらせっぱなし、見せっぱなしになり、指導と評価の一体化が難しいと感じたためだ。その校長の方針を、まず現場の教員に理念研修で落とし込んだ。ツールの使い方への不安は実技研修で払拭した。

また、オンライン学習の準備では、授業を受け持つ担任とそれ以外の教職員とで役割を分担。担任は、授業の中身を担当。お互いに模擬授業を繰り返し、内容を煮詰めていった。それ以外の教職員はICT環境の整備に回り、ヘルプデスクなどもつくった。理念の共有、コンテンツの充実、万全のバックアップ体制によって、1週間という短期間で、同時双方向型のオンライン学習の実現を可能にした。

オンライン学習の中身としては、朝と帰りの会、そして2時間程度の授業だった。これを補完するものとして、週1回プリント類などを教員が各家庭に配布し、課題の成果物を回収する「テガニ便」を実施。人の交流はデジタル、モノの交流はアナログ、この両者の融合により、学習の幅が広がったという。子どもたちや教員にオンライン学習についてアンケートをとったところ、楽しい、学力がつくというポジティブな意見が大多数。お互いに手応えを感じているようだった。保護者もオンラインで学力がつく思うという意見が6割を超えているが、3割が「わからない」という意見だったため、今後も取り組みに対して説明責任があると佐和氏は言う。

課題量の調整やフォローなど運用面を整備しつつ、学びのレベルアップも

北海道教育大学附属函館中学校 郡司直孝氏

現場に一番近い教務主任として、北海道教育大学附属函館中学校の郡司直孝氏は、教員たちの取り組みを紹介した。もともと同校は、2013年度からタブレット端末を1人1台貸与。2017年度からは各家庭にノートPCを購入してもらう(BYOD)など、学習へのICT活用を進めてきた。そのため、今回の休校措置の前から、すでに各生徒が自分に適した形で紙とデジタルを使い分けており、オンライン学習につながる土壌があったという。

オンライン学習を進めるにあたり、現場では3つのポイントを重視。1つ目は、生徒が学習で取り組む内容や分量を明らかにすること。各教科がバラバラに課題を出してしまっては、生徒に過度な負担がかかると懸念されたからだ。そこで、学年主任が中心となり、各教科で話し合って生徒への提出課題を調整した。生徒には、毎週金曜日17時に各教科のGoogleクラスルームで連絡。これによって、1週ごとに生徒の進度を確かめつつ、課題を設定できた。

2つ目は、1人での学習の難しさをフォローアップすること。こまめにメールでやりとりし、わからないことを気軽に質問できる環境を整えた。また、多くの生徒がつまずいている課題は、オンライン授業(同期型)で取り上げ、アドバイスした。

3つ目は、ICTを駆使した探究的な学びを目指したこと。総合的な学習の時間も止めずに、生徒が課題を設定し、それに対して教員が助言。その後、情報の収集、整理、分析といった各段階でも、メールによるフォローのほかに、共有されている課題ファイルにコメントするといった方法で丁寧に指導できた。「東京の大学とゼミナール形式の授業も行っていましたが、こちらも東京と家庭、学校をつないでいつもどおりの授業ができた」と郡司氏は成果を話す。

対面にこだわらないリモート授業で、履修主義と修得主義の融合を図る

学校法人佐藤栄学園 さとえ学園小学校 山中昭岳氏

学校法人佐藤栄学園 さとえ学園小学校で、研究・研修主任、ICT主任、社会の動向をキャッチアップして管理職への助言等、学校運営にかかわるすべてのことをまかなう役割であるカリキュラム・マネージャーの山中昭岳氏は、1日6時間というリモート授業を実現している。これは、すでに3年前から子どもにタブレット端末(持ち帰り可)を1人1台貸与していたため、子どもたちのICTスキルやモラルが身についていたことが、前提としてあった。

同校の場合、子どものスキルやモラルの習熟度に応じたレベルを設け、端末の制限を段階的に解除していく方法を採っている。レベルが上がれば動画を視聴でき、メッセージも自由に送れるが、間違ったことをすればレベルが落ちて制限がかかるという仕組み。これによって自主的に子どもたちがスキルやモラルを習得し、守れるようになっているという。

また、リモート授業を「学校と同等の学びが家庭でできる授業」と定義。オンラインでの対面のやり取りが必須でなくてよいと考えた。そのため、授業は毎時間出される課題の提出をもって履修したとみなした。授業の課題は、その時間内に提出できる内容となっており、子どもがため込んで負担にならないよう配慮している。「履修主義と修得主義の融合が、子どもを置いていかないために必要ではないかと思った」と山中氏は語る。

このほか、子どもたちの学び疲れなど、心身のケアのためにオンライン保健室、オンラインカウンセリングルームを開設した。学校の授業や設備を、そのままオンラインに乗せたのは画期的と言えよう。

第1部の最後には、進行役の中川氏から各パネリストに質問が投げかけられた。それにより、教育委員会が地道に現場に足を運んで各学校をフォローする大切さや、非常時における現場での意思統一の重要性、同期授業と非同期授業の役割の違いなどに話が及んだ。

第2部・ポストコロナのICT活用はどうあるべきか

ICTの可能性に気づいたことで、教育のさらなる進化に期待

放送大学教授 中川一史氏

第2部では、今回のICT活用の蓄積をどのように生かしていくか、各パネリストが発言した。山中氏は、今回の取り組みを「教育のアップデート」というキーワードで呼んでいるという。山中氏は、学校が管理している端末を利用しているうちは、ICTによる学習はこれまでの代替レベル。児童生徒自身がコントロールするレベルまで行くと、変容レベルになると提言する。その前段階として、来年度からは学校端末からCYOD(Choose Your Own Device:いくつかのデバイスから自由に選択できること)へと移行したいと語る。

また、学習の変容には、課題の変容も大事とのこと。子どもの成績は二極化しているが、一斉授業は一番ニーズの少ない真ん中の層がターゲットになっている。ICTを活用すれば、成績が下位の子には個別に手厚くサポートでき、上位の子は自発的な学習に取り組める。一律ではなく、それぞれに応じた課題を設定することで、学びの可能性が広がっていくと示唆した。

郡司氏は、教務主任として、単元指導計画の改善を目指していると言う。家庭で生徒がそれぞれの時間を過ごすことが多くなったことから、自律的に学べる学習者の育成に重きを置きたいと考えたためである。ICTや情報そのものを活用できるように、「情報活用能力を発揮して探究的な学びを生み出す11の資質・能力」の育成を目標に設定。各教科の単元目標にひも付け、教務が統括して整理していくとのこと。このほか、遠隔システムを活用することで外部人材による授業にも注力する予定。「人と接する機会が少なくなった今、積極的に外部との接触を増やす必要があるのでは」と語った。

佐和氏は、今回の取り組みで学校経営に生かせることも見えてきたという。「非常時はコロナだけではない。子どものリスクを回避して学びを止めないための、さまざまなアイデアが生まれた」と語る。このほか、日常でもオンラインは生かせると言う。例えば、保護者面談や不登校の子どもへの授業中継などが挙げられる。また、入学式や表彰式などもオンラインで行えば、教室からの移動や集合の時間が短縮でき、子どもたちの感想をたっぷり聞くことができる。外出が自粛されるなか、先生がイチゴ農家を訪ねる校外授業をオンラインで実施し、いただいたイチゴを各家庭にテガニ便で届けるといったこともあったそう。「今までできなかったこと一気にできるようになったので、それから生かしていきたい。デジタルとアナログのいいとこ取りが、これからの学校教育に必要」と提言した。

本田氏は、熊本市の教員研修が、今回の取り組みを通じてオンライン化したことを挙げた。これによって、子育て中の教員も参加しやすくなるなど、現場でも非常に好評だという。また、不登校の子どものケアとして学校再開後も別室での授業配信を行う、修学旅行に行けない子どもにバーチャルでライブ配信するなど、さまざまな活用の仕方があると示唆。「ICTを真ん中に据えて、どの学校も授業改善することに、市も取り組んでいきたい。みんながICTを活用して楽しい授業にしていきたい」と語った。

進行役の中川氏は、今回の注目すべき点として、非同期でも双方向学習が成り立つことを結びに挙げた。非同期であるSNSなどを活用した討論や、リアルタイムの双方向学習をうまく組み合わせれば、リモートでも子どもたちはつながりを意識できると述べた。その一方で、コンテンツ配信という非同期の単方向学習についても有用性を指摘した。

今後の課題としては、対面授業をオンライン学習にどう組み合わせていくかだという。さらに、ICTが日常的に活用されるようになったとき、ICTの効果的な活用との相乗効果をどのように高めていくかも重要と示唆。「本セッションがその実現の一助になってほしい」と幕を閉じた。

記者の目

「ICTは授業改善の一環」「ICTは代替ツールではない」「アナログとのハイブリッド」「外部との接点としての活用」など、さまざまな示唆に富んだ事例紹介や提言がなされた本セッション。今回の休校措置によって、教育の現場は大きく制限を受けた印象があったが、逆に実践的にICTの活用方法を発見し、可能性が大きく広がったのだと改めて実感する。「同期/非同期」といった、新たなキーワードも出てきた。今後もICTによる現場の進化は、さらに加速していくのではないかと感じた。

取材・文:学びの場.com編集部/写真提供:New Education Expo実行委員会事務局

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