2016.07.13
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21st New Education Expo in 東京 現地ルポ(vol.3) 次期学習指導要領における情報教育と英語教育

「New Education Expo 2016 in 東京」が6月2日~4日の3日間、東京・有明の東京ファッションタウンビルで開催された。3回目の現地ルポでは、学校教育におけるICT活用の第一人者で ある東北大学大学院教授の堀田龍也氏による特別講演と、外国語活動教材の展示ゾーンについてお伝えする。講演では、2020年度から実施される次期学習指 導要領が示す情報教育のあり方やICT活用の可能性、それに向けた課題や取り組みについて語られた。展示ゾーンでは、小学校の「英語科」開始を見据えたデ ジタル教材が登場した。

次期学習指導要領が示す「教育の情報化」の未来

新しい学習指導要領で期待される学力と教育の情報化への期待

東北大学大学院 情報科学研究科 人間社会情報科学専攻 教授……堀田 龍也 氏

新しい学習指導要領が目指す情報教育とは

現在、中央教育審議会(以下、中教審)で内容検討が進められている次期学習指導要領の改訂では、グローバル化・多極化が進む新しい時代の担い手となるために必要な生きた知識や能力を育むことを念頭に、小学校における外国語教育の教科化、高校の新科目「公共(仮称)」の新設といった教育課程の充実が図られる。また、「何を学ぶか」だけでなく「どのように学ぶか」にも重点が置かれ、アクティブ・ラーニングという主体的・対話的で深い学びの視点に立った学習過程の改善が行われる。
東北大学大学院 情報科学研究科 人間社会情報科学専攻 教授 堀田 龍也 氏

東北大学大学院 情報科学研究科 人間社会情報科学専攻 教授 堀田 龍也 氏

情報教育に関しても内容の充実が図られ、アクティブ・ラーニングへのICT活用についての記述も盛り込まれるとのことだが、具体的にどのような指針が示されているのか。東北大学大学院の情報科学研究科教授で、教育の情報化に関する政策編成の委員を歴任してきた堀田龍也氏が、本講演で明らかにしてくれた。

「新しい学習指導要領では、小学校の外国語におけるICT活用の他、小・中・高の各学校段階を通じた情報活用能力の体系的な育成、プログラミングや情報モラルなどに関する学習活動の充実が図られます。プログラミング教育は小学校での必修化が決定していますが、ここでの目的は自分の意図を実現するための手順をコンピュータでのプログラミング体験をしながら論理的に考える“プログラミング的思考”の育成で、コンピュータのプログラム作成技術を覚えさせることではありません。総合的な学習の時間を基本に、理科や算数といった今ある教科の中に盛り込まれます。また、中学校では技術・家庭科でプログラミングについて教えていますが、今後はウェブサイト制作など新しい内容が追加されます。さらに、高校では現在は情報科の選択科目の中に含まれているプログラミング教育が、必修科目の学習項目に入れられるようになります」
と堀田氏。

こうしたICTの実践的活用や情報活用能力の育成を推進するには、教員のICT活用指導力の向上が欠かせない。現在、児童生徒の情報活用能力については学校間における格差が広がっており、それを育成する指導体制のあり方についても、次期学習指導要領の改訂で是正が図られる見通しだ。

文部科学省が平成25年10月から平成26年1月にかけて全国の小・中学生を対象に実施した情報活用能力調査によると、中学2年生のキーボード入力の平均は1分間に17.4文字、小学生では1分間に5.9文字と、総じてはかばかしくないものだった。しかし、平均を大きく上回る成績を残している学校もあり、学校間の格差が如実に現れている。これについて堀田氏は次のように分析する。
「要因は、学びの質と量を確保するための指導体制が充実しているかどうかに尽きます。良い成績を出している学校では、教員が情報と情報手段をきちんと区別して教えている。ツールとしてICTを使うことと、それによって得た情報を扱うことは別だからです」

まず、ツールについてはキーボード入力などの機種を問わない基本的な操作に重点を置き、いつでも使える環境を確保することが大切になる。情報については、ツールを使って集めた情報を分類、比較、系列化、構造化するプロセスを繰り返し学ぶことが必要だ。こうして児童生徒に情報と情報手段を扱う基本が身につけば、授業も効率よく進むようになる。
「実は、コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付けることは、現行の学習指導要領の総則にも記されているのですが、実践されていないということで、次期学習指導要領では総則の見直しも行われています。教員の育成については、今、教職に就いている人にどのような研修をするかがさしあたっての重点事項です。そのためには、まず教員の多忙化を改善しなくてはなりませんから、校務支援システムや、多様な専門スタッフと教員が一つのチームとして力を発揮するチーム学校の導入によって教員の負担を軽減する“校務の情報化”を推進する方向で話が進められています」。

学校現場におけるICT活用の現状と、これからの環境整備

次期学習指導要領における情報教育の方向性がわかったところで、気になるのは学校現場におけるICT活用の現状と、今後求められる環境整備だ。

ICTには「A:教員の教える道具」と「B:児童生徒の学ぶ道具」があり、本来ならば双方を同時に整備することが望ましい。しかし、現時点ではBのタブレット端末を含む教育用コンピュータの配備は児童生徒6.4人に1台(文部科学省調べ、平成27年3月1日時点)で、国が目標とする3.6人に1台には及んでおらず、その活用は限定されている。一方、Aの電子黒板は1校あたり3台弱(文部科学省調べ、平成27年3月1日時点)にとどまっているものの、実物投影機は小学校を中心にかなりの普及が見られ、教科書やノートなどの拡大表示に頻繁に用いられている。こうした動向を受け、堀田氏は次のような見解を示している。
「次期学習指導要領でアクティブ・ラーニングが提起されていることを考えると、これからはBがクローズアップされるでしょう。しかし、ICTを使っての指導が必要であることに変わりはなく、特に一斉学習における教材の提示はいかなる学習にも用いられますから、まずAから取り組み、次にBの準備をするというのが、整備の順番としては妥当です」

また、次期学習指導要領では、ICTの新たな整備指針が示される可能性が高いという。
「最近ではタブレット端末に書き込みをしてテレビなどに映すことが可能になり、表示する側の機器にさほど高度な機能は必要ではないのではないか、との声も上がっています。とはいえ、紙のコンテンツを表示するには実物投影機の方が便利ですし、実物投影機を使って発表するなどの学習活動は、とりわけ小学校では重視されます。こうした流れを受け、文部科学省内では学校種や子どもの発達段階、学習の場面などに合わせてICT機器の整備を行うことも必要だとする議論が起こっており、次の学習指導要領に反映されると思われます」

こうした状況を踏まえ「各自治体は2020年頃までにある程度、ICT環境を整備しておく必要がある」と堀田氏は指摘する。
「予算の問題で導入校やタブレット端末の数に限りがあったとしても、今から実験的に導入を進めておかないと、すぐには国の指針に対応できません。ネットワーク環境の整備や教員の研修などは、自治体によって必要な要素が異なるケースが多々あるため、準備は不可欠です。そうでないと、子ども達の教育を受ける権利を侵害することにもなりかねないでしょう」

すでに、ICTの整備状況には自治体によって大きな差が見られる。それは財政的な問題だけでなく、整備の必要性の理解に差が生じていることにも起因しているという。
「こうした状況に国はかなりの危機感を抱いており、自治体ごとのICT分布を評価する仕組みづくりを検討しています。また、教育の情報化に取り組み、一定の成果をあげている学校を“学校情報化優良校”として認定する診断システムを日本教育工学協会(JAET)が実施しています。これは教育の情報化を後押しするものですが、すでに導入している学校が情報化の状況を客観的に評価するための指標としても役立っています」。

2020年度の導入に向けたデジタル教科書の動向

堀田氏は、いよいよ導入に向けて本格的に動き出したデジタル教科書についても言及した。デジタル教科書は教科書の内容に画像や動画、シミュレーション機 能、学習履歴の保存機能などを付加したもので、教員が電子黒板などに提示して指導するための「指導者用」と、子ども達が個々の情報端末で学習するための 「学習者用」に大別される。文部科学省は次期学習指導要領が実施される2020年度からの導入を目指し、17年度にも必要な法改正を行って正式な教科書と 位置づける方針で、現在は堀田氏が座長を務める有識者会議で内容の検討が進められている。

「導入後、当面は紙とデジタル版の併用が予定されています。小・中・高校では検定に合格した教科書を使用する義務があると学校教育法で規定されていますから、デジタル版でも当然、検定は行われます。ただし、検定に合格した紙の教科書と内容が同一であれば改めて検定を受ける必要はなく、紙の教科書にはない動画や音声などのコンテンツも検定の対象外となります」
 視力など健康への影響を懸念する声もあるが、それについては学習効果と併せて検証が行われる。学習効果が認められれば、将来的にはデジタル教科書を主な教材として使うことが認められる可能性もあるという。
「小・中学校の紙の教科書は無償で給与されていますが、紙とデジタル版の両方を無償とするのは予算的に困難なため、併用段階ではデジタル版は無償化しない方針です。ただし、教材費として保護者負担となる可能性があるため、できるだけ価格は低く抑え、低所得家庭などには何らかの予算措置が検討されます」

こうした動きに伴い、デジタル教科書や関連システムの開発も活発化している。
「現在、教科書会社から発行されているのは指導者用デジタル教科書で、法令上は教科書ではなく教材にあたります。正式な教科書として導入されるにあたってはインターフェイスの標準化が必要で、すでに複数の教科書会社のデジタル教科書を一貫した操作性で使用できる共通プラットフォームやビューワーが開発されています。こうした動きは今後、さらに加速されていくでしょう。このNEE2016に展示されているタブレット端末、電子黒板、授業支援システム、デジタル教材などのすべてが、今まさに一つの大きな渦としてつながろうとしている。そんな時代を私たちは迎えているのです」。

展示ゾーン

[外国語活動教材]小学校の「英語科」開始を見据えたデジタル教材が登場!

次の学習指導要領では、いよいよ小学校高学年で「英語科」がスタートする。この新たな教科に期待する声は多いが、何をどう教えればいいのかと不安視する向きも少なくない。そんな「英語科」の悩みを解決する、新たなデジタル教材が登場した。『小学校英語 SWITCH ON!』である。
写真上:『小学校英語 SWITCH ON!』。教材に収録された動画を何度も繰り返し見て、習得・定着させていく。「授業のねらいに応じて、同じ素材でも異なる活動を行い、子どもの英語力が向上するよう設計されています」と須藤氏 写真下:ワークシートなどのプリント類も、PDF形式で収録。印刷すればすぐに授業で使える

写真上:『小学校英語 SWITCH ON!』。教材に収録された動画を何度も繰り返し見て、習得・定着させていく。「授業のねらいに応じて、同じ素材でも異なる活動を行い、子どもの英語力が向上するよう設計されています」と須藤氏
写真下:ワークシートなどのプリント類も、PDF形式で収録。印刷すればすぐに授業で使える

「私に英語を教えられるのだろうか……と心配している先生方は多いですよね。そこでこの『小学校英語 SWITCH ON!』は、“誰でも教えられる”デジタル教材を、心がけました。英語を教えたことがなくても、英語が苦手でも、心配無用です!」
と説明してくれたのは、学びの場.comでもおなじみの、内田洋行プロダクト企画部の須藤綾子氏。須藤氏が寄稿した「意外と知らない“英語教育の動向”」などの記事も合わせて読むと、「英語科」がどんな学びになるのか、どんな教材が必要になるかがよくわかるので、ぜひご一読いただきたいが、“誰でも教えられる”とは、どういうことなのだろうか。
「この『小学校英語 SWITCH ON!』には、授業指導案がついており、先生はその指導案に沿って、収録されている動画を選んで流すだけで、授業が進行するように設計されています。先生は、英語を教えるのではなく、授業を進行し、子どもの学習をサポートして気づきを促すファシリテーターとして授業に参加しますから、英語力に不安があっても大丈夫です」
 と須藤氏。

この『小学校英語 SWITCH ON!』には、大きな特色がある。モジュール学習(短時間学習)で使えるように、設計されているのだ。

小学校で英語科が始まれば、1回10~15分の短時間で学ぶモジュール学習の活用が望まれる。他教科の授業時間をこれ以上削るのも難しいため、朝の時間や中休みなどを利用して、モジュール学習でも英語を学ぼうというのだ。例えば15分のモジュール学習を3回行ったら、15分×3回=45分で、授業1時間分とカウントするのである。須藤氏によると、
「この教材は、大阪府教育庁と株式会社mpi松香フォニックスが共同で開発した小学校英語学習プログラム(『DREAM』)がベースになっており、すでに大阪府内の小学校で1年以上使われています。実際にモジュール学習でこの教材を使った先生方から強く要望されたのが、1回の授業が必ず15分以内で終了すること、でした。朝の時間や中休みを利用して学ぶ場合、時間がオーバーしては次の授業に響いてしまいますからね。そこで授業指導案の検討を重ね、1回が必ず10~15分に収まる用に設計しました」
とのこと。モジュール学習だけでなく、45分授業の中で、この教材を使ってもいい。「1回15分」とハッキリしているから、一つの活動として授業にも組み込みやすいはずだ。

内田洋行の教育用コンテンツ配信サービス「EduMall(エデュモール)」にも対応。端末ごとにインストールせずとも、ネットワーク経由で利用するのも可能だ

内田洋行の教育用コンテンツ配信サービス「EduMall(エデュモール)」にも対応。端末ごとにインストールせずとも、ネットワーク経由で利用するのも可能だ

では、教材の中身はどうなっているのだろうか。須藤氏は、
「『英語に慣れ親しむ』が目標だった従来の外国語活動と違い、英語科では、『聞く』『読む』『話す』『書く』の4技能の基礎を学ぶことになります。この教材は、4技能がバランスよく身につくように設計されています」
と説明してくれた。子どもの英語力に合わせて、6段階のグレードから選べるようになっているのも親切だ。
「基本的にはグレード1から初め、1年間で1グレードを学習し、翌年はグレードを一つ上げる、という使い方を想定しています。他の教科と同様に、『積み上げていく学び』ができるように配慮しました」
 とのこと。1グレードにつき105回分の授業指導案と、各活動の学びの目標やねらいを記した「学びのガイドライン」が付属している。

すでに『DREAM』を使っている大阪府内の学校からは、「子ども達の英語力が確実に上がっている」との声だけでなく、「先生の英語力も上がった。英語が苦手だったけど、自信がついた」という喜びの声も、多数寄せられているという。

小学校の英語教育が次のステージに進もうとしている今こそ、その新時代に対応した教材を使い、新時代で求められる英語力を子ども達に身に付けさせよう!

写真:言美 歩/取材・文:長井 寛

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