2026.02.16
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一人ひとりのペースで学び合う(後編) 全員が安心して努力できる教室

前編では、東京都中野区立白桜小学校2年生の算数授業で、3種類の解法を通してかけ算の概念を学ぶ、自由進度×協働学習の授業を取材した。後編では、授業者の林真未教諭に、授業づくりの考え方や学級経営などについてうかがった。

全員が真剣に考える授業づくり

林 真未 教諭

―今日の授業では「おたすけさん」が大活躍していましたね。

林真未教諭(以下、林) 従来のスタンダードな一斉授業では、問題文を書いて、自分の考えをノートに整理して発表し合ってまとめ、という流れが一般的ですが、理解の早い子は分かっている内容を聞き続け、理解に時間のかかる子は聞いているふりをするだけになりがちです。

このやり方では授業についてきている子は1/3だけで、「自分の考えを書きなさい」と言われた瞬間に思考停止してしまう子が1/3、友達の考えを聞いても板書をただ写すだけになってしまう子が1/3という状態になってしまうと考えました。

そこで、ノートがきれいに整っていることよりも、頭の中に算数の考え方がたくさん増えることを目指し、基本的な説明をした後は、自分の頭を使って考える時間を多く取るやり方を始めました。

―今日の授業で、工夫されたポイントを教えてください。

 引き算を使った解法は子どもたちからなかなか出てこないので、初めからステップ3として「かけ算と引き算」を使う解法があると、提示したことです。

普段勉強が苦手な子にも、学習に対するネガティブなイメージを持たせないことと、先に解けたときは積極的に人を助けようとする気持ちが生まれることを意識しています。今日も一人で黙々と取り組む子は一人もおらず、分からない子は素直に「分からない」と言える雰囲気ができていました。

―今日の子どもたちの様子で印象的だったことはありますか。

 特に印象深かったのは、普段個別支援が必要な子が、今日は一番最初に問題を解けたことです。視覚的な思考や、普段とは異なる思考回路を使う問題がとても得意で、改めてその力を実感しました。

また、自分がわからないと授業妨害してしまうような、普段はクラスメイトにフォローしてもらうことが多い子が、今日は「おたすけさん」として最後まで丁寧に一生懸命教えている姿も素晴らしかったです。今日、Cさんがクリアした後に、私が「Cさんが今日は初のお助けに行くよ!」とクラスに呼びかけると、みんなが「わー!」と温かく迎え入れていました。

―林先生が目指す理想の授業とはどのようなものですか。

 子どもたちが大人になった時に、私のことを覚えていない授業です。「先生のおかげ」ではなく、「自分の力で学んだ」と思えるような教育を目指しています。

学級経営に欠かせない、ユーモアと安心感

―このような温かい雰囲気の学級にするには、学級開きからの積み重ねが必要だと思います。4月からどのようなアプローチをされているのでしょうか。

 年度初めに、子どもたちと「お互いの学ぶ権利を守ること」や「何のために学ぶのか」といった価値観を共有することから始めています。友達がなかなかできない子は、共通の話題がありそうな子とつないだりもします。支援が必要な子の特性や、トラブルに関する情報については、クラス全体で共有することを心がけています。

そして学級経営で絶対に欠かせないのは「ユーモア」です。叱られても、最終的には「激おこぷんぷん丸だよ」のように、ユーモアに転換して”テヘペロ”で終われるという安心感があると、子どもたちは素直に受け入れてくれます。また、ムスッとしている子、例えば、座席をめぐってじゃんけんで負けた子には、「ラッキーだったね。ここでじゃんけん運を使わなかったから、今度別の時に使えるよ」と声をかけます。

2年生はまだとても素直で、先生のことが大好きで、こちらの期待に精一杯こたえようとしてくれます。「できない・わからないのは悪いことではないから、隠さなくていいよ」「勉強が苦手でも、忘れ物をしてもいいけど、やさしくない子は怒るよ」「いじめの傍観者はダメだよ」とストレートに伝えます。人は幸せな気持ちでいる時は他者を攻撃しないので、常に温かい雰囲気をつくることを心がけています。

子どもの成長を共に支える保護者との関係づくり

―20回にわたり、「保護者対応」を「家族支援」と言いかえる提案について連載いただきました。この転換について教えてください。

 実際には9割以上の保護者の方は特別な要求をしてくることはなく、学校に協力的ですが、1人でも理不尽な苦情を言ってくる保護者がいるとメンタル面の負担が大きくなります。学校を困らせる保護者は、保護者自身が困りごとを抱えていることも多いです。大人への支援は学校の仕事ではありませんが、子どものために家族全体を支援する必要があります。

保護者の方を対処すべき相手ではなく、子どもの成長を一緒に支える仲間として捉える考え方が重要です。私は保護者の方とお話しする際、向かい合う関係ではなく、子どもの成長という同じ目標に向かって隣り合って歩くパートナーであることをお伝えしています。

―保護者会や個人面談で特に心がけていることはありますか。

 年度初めに「子どもの視点には誤解もある」「トラブルの芽は早いうちに摘みたいので、小さなことでも連絡して欲しい」と伝えます。

また、「親の心配は子どもに伝わってしまう」という話もします。母親が心配すると、子どもはその心配を敏感に察知し、「自分は心配される存在なのだ」と思い込んでしまいます。その結果、自信を失い、失敗を恐れて挑戦しなくなる悪循環に陥ることがあります。時には根拠がなくても「あなたなら大丈夫」という姿勢で、親がどっしりと構えていることが子どもの成長にとって何より大切だということをお話ししています。

「トークフォークダンス・大人としゃべり場」を開催

―10月に開催された、「トークフォークダンス・大人としゃべり場」のイベントについて教えてください。

 東京都学校教育相談研究会の小学校の校種別研究会と、本校の道徳授業地区公開講座との共催で実施しました。体育館に、二重の円形に椅子を並べ、白桜小学校6年生児童全員と大人の参加者が向かい合って座り、トークテーマに沿って会話をします。フォークダンスのように、1分ごとに相手を変えて交代に話し続けます。

連載記事で紹介した頃からずっとやりたいと思っていて、コロナ禍があり、やっと実現しました。大人の人数が足りないのではないかと心配していましたが、当日たくさん集まったので、人数を揃えるため、逆に、急遽一部の5年生にも参加してもらいました。ファシリテーターをしていて、どんどん空気が温まってくるのを感じましたし、参加者の感想もポジティブなものばかりでした。子どもも親には言えないことを知らない大人には話せたり、大人にとっても、小学校高学年や中学生って意外と素直でいい子なんだと知る機会になり、相互理解・尊重のきっかけづくりとしてお勧めです。

※大人は「都会に住むのと、田舎に住むのとどっちがいい?」「オススメの旅行先」「小学校の一番の思い出」「人生で一番良かった年齢」「子どもの時、勉強しておいて良かったこと」「人生最大のピンチ」「人生をやり直せるなら、やってみたい職業」「初恋の思い出」「自分のこと好き?」「お金を稼ぐって大変?」、子どもは「好きな曜日」「親のことどう思う?」「今好きな人いる?(いない場合は、好きなタイプ)」「オススメのアニメ」「オススメのYouTube」「中学校で頑張りたいこと」「大人になりたい?」 などのテーマで話しました。

学校現場の変化

―近年の学校現場で大きく変わったと感じることはありますか。

 東京都では、エデュケーション・アシスタント(EA)の配置が始まったことが非常に大きな変化です。印刷や掲示物の貼り替えなど細かな仕事を代行してくれることで、私たち教員が子どもと向き合う時間を確保できるようになりました。

一方で新たな課題はSNS関連のトラブルです。放課後に保護者が買い与えたスマホ上で起きたことでも、他に受け皿が無いので、いまだに学校に対応が依頼されます。

また、子どもたちの、手先の器用さを含む運動能力の低下も気になりますが、大人が遊び場や手仕事が必要な場面を奪っておきながら「体力がない」などと批判するのは筋違いです。子どもたちを責める前に、大人こそが「公園で遊んでいるとうるさい」などの声から、子どもの生活環境を守るために行動してほしいと考えています。

メッセージを届けるための挑戦

―今後、林先生ご自身が目指していることや目標はありますか。

 「より多くの人に、もっと幸せに過ごすためのメッセージを届けたい」と思っています。

私の根本にあるのは、子どもと子育てをする人を幸せにしたいという強い願いです。例えば、保護者の方に「心配しすぎると子どもに伝わってしまうので、どっしり構えていてください」といったメッセージや、「学校と家庭が信じ合うことが大切です」ということを伝えたいのですが、一教師として発信できる範囲には限界があります。

なので、有名になりたいと思っています。これは、より多くの人に子どもと保護者の幸せにつながるメッセージを届けるために、発信力を持つ必要があると感じているからです。

記者の目

林先生の授業を取材して印象的だったのは、教室全体に自然に生まれる温かい雰囲気だ。困っている子が素直に「分からない」と言える安心感、助けてくれる友達への感謝の気持ち、そして教える側の子どもたちのやさしさ。これらすべてが、林先生の「子どもを幸せにしたい」という教育哲学から生まれている。
特に印象深かったのは、普段支援を受けることが多い子どもたちも、今度は他の子を助ける側に回る瞬間だった。一人ひとりが持つ可能性を信じ、それぞれの良さを認め合える学級づくりは、林先生が大切にする「ユーモア」と「安心感」から生まれる教育の成果といえる。
45分間という限られた時間の中で、すべての子どもが自分なりのペースで学び、同時に仲間と支え合う姿は、これからの算数教育、そして学級経営の一つのモデルとなる実践である。子どもたちが大人になった時、先生のことは覚えていなくても、「自分の力で頑張った」という自信と、人を思いやる心を持ち続けていることだろう。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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