火と鉄に向き合い、生活の中の道具をつくる(後編) ものづくりを通して、自分の生活を豊かにし、社会や文化も学ぶ

前編では、学校法人和光学園 和光小学校で2025年11月18日に行われた工作技術科の授業「鉄のナイフづくり」をリポートした。後編では授業者の植林恭明教諭に、ものづくりを通して育てたい力やその評価、専科教員としての役割などについて伺った。
職人や農家、複数の教科と連携した授業
——工作技術科の4年間(3年生から6年生)のカリキュラムづくりについて教えてください。
植林 恭明 教諭(敬称略 以下、植林) 視点としては、まず「使えるものをつくる」ということを軸にしています。その中で、鉄を加工するには熱が必要であることなど、体験を通して科学的な認識を育てることも意識しています。
先人が獲得してきた技術を追体験することで、世の中にあるものの見方も広がります。たとえば、椅子は当たり前にあるものですが、そのつくりには工夫やこだわりがあるのだと発見することもあります。さらに、100円ショップで売っているバターナイフなど、安価な製品を見て「自分でつくるとこんなに手間がかかるのに、どうして100円で売ることができるんだろう?」と考えることで、社会や物の価値に対する目を育てることも意識しています。
もちろん発達段階によって多少の意識はありますが、「これができたから次の段階へ」というような加工スキルの厳密な系統性はあまり考えていません。その代わり、できるだけ多様な素材や道具を使うように授業を構成しています。
漆職人との木の器づくり
——職人さんを学校へ招いたり、工房へ見学に行くこともあると聞いています。
植林 工作技術科では、職人さんとの出会いを大切にしています。大阪府堺市から包丁づくりの職人さんに来ていただいたこともあります。ここ数年は青梅市から漆職人さんに来ていただいています。漆はかぶれの心配があるため学校では使えませんが、その職人さんは木を彫る工程から制作する方なので、子どもたちは木地づくりの体験をすることができました。
大切なのは、子どもたちが遊びや趣味として楽しんでいるものづくりの延長線上に、職人として技を深めている人がいることを知ることです。6年生は中学校に進学し、3年後には社会に出ることができる年齢になります。だからこそ、仕事の意味について考える貴重な機会にもなります。
今の子どもたちは、「仕事=お金を儲けること」というイメージを持ちがちです。しかし私は、職人が自分の仕事にどんなこだわりを持ち、どんな思想で取り組んでいるのかに触れてほしいと思っています。そのため、ものづくりの授業では、職人の方にこだわりや考え方を語ってもらう時間を設けています。

稲刈りで出た稲わらを使ってつくるしめ縄
——そのほかには、これまでどのような活動に取り組んでこられたのでしょうか。
植林 5年生では、社会科の授業で田んぼをお借りし、春から秋まで稲作体験に取り組んでいます。日々のお手入れは農家の方にお願いしていますが、子どもたちは田植えや稲刈りを体験し、授業では脱穀や精米も行います。
その際に出た稲わらについても、農家の方がごみではなく、素材としてさまざまなものづくりに活用していることを伝えています。その一環として、稲わらを使ったしめ縄飾りづくりの体験も行っています。——他にも他教科と連携したものづくりをされていますか。
植林 他教科との連携も意識しています。たとえば、5年生では「ポンポン蒸気船」をつくる授業があります。アルミ管の中の水を熱して沸騰させ、その蒸気を動力にして船を浮かべて走らせる活動で、理科で学ぶ三態変化を踏まえたうえで「学んだことを形にする」体験につながっています。「ザリガニロボット」の単元では、電気の配線を使って前後左右に操作できる簡単なラジコンをつくります。これも理科で学ぶ電気や回路の学習の延長です。総合学習では、3年生が蚕を飼育し、その糸を使ってランプシェードをつくる活動*も行っています。このように、複数の教科と連携しながら授業を構成することを大切にしています。
作品に注いだ時間と思いが形として残ること
糸のこを使ってつくった木箱
——授業はアーティスティックな方向に進むのかと思っていましたが、実学的な要素もきちんと組み込まれているのですね。
植林 その点は悩ましい部分でもあり、同時に研究課題でもあると感じています。工作技術科では、生活の中で使えたり、遊べたりするものをつくることを最も大切にしてカリキュラムを組んでいます。しかし一方で、みんなが画一的に同じものをつくるだけでは、子どもたちの「自分のつくりたいものをつくる」という意欲を十分に満たすことはできません。
そこで、子どもたちがもつアーティスティックな感性や自分なりのこだわり、表現したいことを、どのようにカリキュラムの中に取り入れるか、その余地をどう広げていくかは、常に悩みながら考えている課題です。
——現時点で、子どもたちの感性を広げるために工夫していることはありますか。
植林 5年生の木箱をつくる授業の主な課題は、寸法を測り、のこぎりで切ることですが、それだけでは子どもたちにとって面白さが十分ではないと感じています。そこで、箱の蓋を二重にして、上蓋の天板に糸のこで切り込みを入れて模様をつくり、下蓋の色を見せるといった工夫をしています。ちょっと遊びの要素を取り入れることで、子どもたちが意欲的になり、自分だけの作品をつくる感覚を得られるようにしています。
——ちょっとした工夫でも、子どもたちは十分に楽しむことができますね。
植林 その作品が誇れるものになると、子どもたちは大きな達成感を得ます。そして、工作の良さは、作ったものが形として残ることにあります。子どもたちがその作品に注いだ時間や思いが形として残ることで、将来、中学生や高校生になったときも、「あのとき小学生でこんなに時間をかけたんだ」という自己肯定感の礎になるのではないかと思っています。
制作のプロセスや、その作業の楽しさ自体にも価値がありますが、同時に、打ち込んできたものが形として残り、ずっと自分の手元に置いておける作品をつくることも大切だと考えています。授業時間に制約があっても、この視点は大事にしていきたいです。
自分の手で物をつくり、直し、生活を豊かにする
——今後、カリキュラムの改善を考えていることはありますか。
植林 すべての題材において、ブラッシュアップは必要だと考えています。私立学校は、公立学校に比べて他校との交流の機会が少ないです。それぞれの学校に建学の精神があり、独自のカリキュラムを編成しているため、閉鎖的になりやすい側面があります。そのため、自分から積極的にアンテナを張り、他校の実践を見学したり、他の先生に自分の授業を見てもらって意見をもらったりすることが重要です。
——最近、変更したことはありますか。
植林 以前はペーパーナイフを作る授業を行っていましたが、ペーパーナイフは生活の中ではあまり身近でなく、子どもたちがかっこいいと言ってつくるものの、実際に使う機会はほとんどありませんでした。そこで、バターナイフに変更しました。刃の鋭さを追求する必要はないものの、家庭で使い、家族にも使ってもらえる点で実用性が高いと考えたためです。
一方、4年生ではお皿作りから、普段の生活で使う機会が少ない花びんづくりに変更しました。学校で用意した100円ショップの造花2種を、自分で作った花びんに生け、高さや色の組み合わせを工夫して完成させます。完成した作品は家に持ち帰り、普段触れることのない花を生けるという文化を家庭に持ち帰る体験になります。このように、子どもたちの生活や実態を踏まえ、必要で楽しめる内容に工夫を加えています。
3年生のクラフトバンドでかご編む授業では、以前は茶色のバンドだけで作っていましたが、カラフルなバンドを用意したところ、配色を楽しむようになり、「お母さんの分も作りたい!」と創作意欲が刺激されたようです。
クラフトバンドでつくったカゴ
——生活の中で使う道具をつくることには、どのような思いがこめられているのでしょうか。
植林 物をつくることと自分の生活が結びついていくという経験は、大人になっていく過程でも大切だと思います。簡単に言えば、壊れたものを直すのか買うのかといった判断と同じで、自分で手を使って物を生み出したり直したり、大事にしたりする感覚を身につけてほしいという思いがあります。
私が特に感動した工作のエピソードがあります。ある児童が家の雪平鍋の蓋が割れたため、休み時間に自分でつくってお母さんに渡したのです。その児童からは何も相談も受けていませんでしたが、自由に使ってよいコーナーの木を削って取っ手の形に整え、ドライバーでネジを閉めてつくっていたようです。
お母さんに「先生、先日はありがとうございました」と言われて初めて、そのことを知りました。子どもたちを器用にする目的で工作の授業をしているのではありません。器用になるのはあくまで結果です。それよりも大切なのは、「自分で物を直そう」「作ろう」「自分の生活を豊かにしよう」と考えることです。何でも買って済ませるのではなく、自分の手でもできるという感覚を身につけてほしいと思っています。
休み時間にも開放されたカウンセリングの場
工作技術室
——工作技術科の専科教員だからこそできることについて、お考えをお聞かせください。
植林 たとえば、鉄のナイフづくりの授業を学級担任が行う場合、全教科の授業を担当をしながら同時に準備を進めるのは非常に負担が大きいでしょう。その点、専科教員は毎年の積み重ねの中で授業を深めていくことができます。
工作技術科の授業に限らず、学校全体の機能という観点でも専科の存在は重要です。学級担任と比べると専科の存在は少し見えにくい部分がありますが、3年生から6年生までの子どもたちの成長を追うことができ、その変化やようすを把握できます。また、教室に入りにくい子やトラブルの兆しがある子も、専科の教室という別の空間で自然と様子が見えることがあります。その情報を担任にフィードバックすることで、子どもたちへの支援につなげることができると考えています。
ものづくりの授業は、子どもたちにとって取り組みやすい学びの場でもあります。そのため、学校に来づらくなった子どもが技術の時間だけでも参加できるような環境をつくり、学校への足がかりにすることも可能です。このように、学級担任と専科教員がそれぞれの役割を果たし、子どもたちが過ごしやすい環境を整えることで、学校全体が安定して運営されていくのだと思います。
——子どもたちにとって、自分の教室や家庭に加えて、専科の教室がサードプレイスになると思いますか。
植林 休み時間に技術室を開放しているのも、その取組のひとつですね。昼食後、1時間ほど休み時間となる「ロング昼休み」の曜日もあるので、車輪を持ってきて、ぬいぐるみを乗せて運ぶ台車を作るなど、大きなものを作る子もいます。ものづくりが大好きで毎日のように訪れる子どもたちもいますが、一方で、何か作るというわけではなく、自分の居場所を求めて来る子や、友達とおしゃべりをして帰っていくだけの子もいます。そういう意味では、技術室が一種のカウンセリングの場のような役割も果たしているのかもしれません。
目に見える「到達度評価」と数値化できない評価
——工作技術科ではどのような評価をされていますか。
植林 カットのきれいさ・丁寧さやデザイン性などの評価はしていません。公立教員時代、評価は一番辛い仕事でした。子どもの評価を客観的な指標で行おうとすると、テストなどで測ることになりますが、それは子どもの発達や人格形成を目的とした授業とは、ねらいが異なります。
子どもたちにとって、先生からの評価は非常に大きな意味を持ちます。評価によって大きく喜ぶこともあれば、大きく傷つくこともあるため、非常に重要な問題と捉えています。本校では「到達度評価」が徹底されているので助かっています。
——和光小学校では、どのような評価基準をもっているのでしょうか。
植林 「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点ではなく、たとえば算数では、「2桁割る1桁の計算ができる」「3桁割る2桁の計算ができる」といった、目に見える形で評価されます。これは子ども自身にも分かりやすく、つまずいている点が明確になるため、フォローアップもしやすくなります。工作でも同様に、作品を完成させられたか、のこぎりを使えたか、釘を打てたかといった、だれが見てもわかる評価を伝えています。
しかしそれ以上に、作品の価値や素晴らしさは数値化できるものではありません。だからこそ、「あなたのここはすごいよ」「こういうところに驚いたよ」と、子どもに直接語りかけることこそ、本当の意味で価値のある評価だと思っています。こうした評価の仕組みがある学校で教えられることは、本当にありがたいと感じています。
素材や作品だけではなく、その背景にある社会や文化も理解する
——民族舞踊教育研究会(民舞研)の事務局が和光小学校にあり、植林先生も参加されていると伺いました。民舞研では、具体的にどのような活動をされているのでしょうか。
植林 アイヌ古式舞踊や沖縄のエイサー、青森の荒馬(あらま)など、日本各地に伝わる郷土芸能、特に民衆や農民の踊りを学校の教育現場で取り入れ、教材化する取組を行っています。公立学校では主に運動会の演目としてソーラン節やエイサーが行われることが多いです。郷土芸能は長い年月をかけて伝承されてきたため、体にとって無駄のない動きで構成されているほか、文化的価値も高いのが特徴です。そのため、「なぜこの踊りがその地域で行われているのか」といった学習内容にもつなげることができます。実際に現地を取材して学んだことを授業に取り入れることもあります。
和光小学校では、毎年秋に開催される「いちょうまつり」で、全学年の子どもたちが踊りを披露しています。
——植林先生は、学生時代に民族舞踊を研究されていたそうですね。
植林 大学の卒論も民舞の分野でまとめたため、技術の授業を担当する前は、郷土芸能が自分にとって最も専門的な分野でした。振り返ると、自分の原点は、インターネットのない時代に和太鼓のバチを自分で削ってつくっていた経験にあります。建材屋で端材をもらい、「これは何の木だろう」「この木は硬いな」と自分で感じながらかんなをかけてバチをつくったことが、今の仕事の基盤になっていると思います。
岩手県三陸沿岸の民舞「中野七頭舞(ななづまい)」には、大学の卒論時代から現在まで地元と関わり続けており、3.11の被害後には復興支援活動にも参加しました。その踊りは今も学校で披露したり囃したりする機会があり、学校以外でも「七頭舞の公演に出る?」と声をかけられて一緒に参加することもあります。
——植林先生にとって、「漆との出会い」も非常に大きな経験だったと伺っています。
植林 漆そのものだけでなく、漆と職人さん、さらにその背景も含めた出会いですね。漆という素材を通して、人々が漆をどのように扱ってきたのか、市場における流通状況、外国からの輸入や職人不足などの社会的課題など、さまざまな背景が見えたんです。その漆を入り口に、多くの人や社会の状況を知ることで、私自身の視野も広がりました。
郷土芸能も同様です。継承者の問題や地域の過疎化など、多くの課題の中で存在しており、漆の学びと同じように、さまざまな要素がつながる大切な出会いがあります。これは、粘土や鉄などを扱うものづくりにも共通しています。素材や作品そのものにとどまらず、その背景にある社会や文化を理解することが非常に大切であり、それを子どもたちにも伝えていきたいと考えています。
——ありがとうございました。
※2月28日(土)、3月1日(日)に開催される「美術と技術の作品展」で、どなたでも児童たちの作品を見ることができます。(要事前申込。学校ホームページをご覧ください。)
記者の目
授業では、児童たちが火と鉄という危険をともなう素材に向き合いながら、互いに声をかけ合い、工夫してナイフづくりに取り組む姿が印象的だった。慎重に熱したくぎを打ち、くぎが曲がっても調整しながら、楽しそうに作業を続ける姿からは、ものづくりへの興味と集中力が自然に引き出されていることが伝わってきた。このような学びは、安全や手順を配慮した授業の積み重ねと、児童一人ひとりの理解に応じた指導があって初めて可能になると感じた。
関連記事(サイト内)
関連記事(未来へいこーよ)
植林 恭明(うえばやし たかあき)
公立小学校で学級担任を5年間務めたのち、2007年に東京都世田谷区の私立・和光小学校に勤務。2013年からは「工作技術科」の専科教員を担当。ものづくりを楽しむことを大切に、「鉄のナイフづくり」や「ポンポン蒸気船」「ザリガニロボット」などの授業を展開する。
大学時代から民族舞踊を専門とし、和光小学校に事務局を置く民族舞踊教育研究会に所属する。民族舞踊を教育現場に取り入れ、教材化する活動にも取り組んでいる。
取材・文・写真:学びの場.com編集部
※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)
この記事に関連するおススメ記事
「教育リポート」の最新記事













教育イベントリポート
食育と授業
教育リサーチ



この記事をクリップ
クリップした記事
ご意見・ご要望


