2023.09.18
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公式の先にあるもの。円の面積の授業における探究学習(後編) 学習形態の個別最適化

今年度、高知大学教育学部附属小学校では「学びに没頭する子どもを育てる授業づくり〜協働的な学びと個別最適な学びを視点として〜」という研究テーマを掲げている。後編では、森寛暁教諭へのインタビューを通して算数部の取組や授業での工夫、ICTの活用方法などを伺った。

楽しく算数する子ども

高知大学教育学部附属小学校 森 寛暁 教諭

―今年度の高知大学教育学部附属小学校の研究テーマは「学びに没頭する子どもを育てる授業づくり〜協働的な学びと個別最適な学びを視点として〜」(1年目)ということですが、算数部ではどのように取り組まれていますか。

森教諭 算数部は設立以来、「楽しく算数する子ども」という主題を掲げています。それぞれの年の研究主題に合わせて視点が変化していますが、その主題はずっと変わっていません。その中で大切にしているのが、子どもの思いや問いです。

「なんでだろう」「分からない」「困っている」といった子どもの思いを拾い上げ、それを教室のみんなで解決していくこと。交通整理をしないといけない場面では積極的に介入しますが、基本的には子ども同士で協力し、解決していくことを理想としています。教員は、その瞬間をいかにデザインするかというところに注力しています。

―そうした研究テーマは、今日の授業においてはどのような部分に反映されていましたか。

森教諭 「子どもたちがカードを引き、並べ替えを行っていく」という、子どもたちが主体的に考えて動くことに主軸を置いた授業構成にしています。パズルを用いて円の面積を求める公式を紐解き、異なる求め方・新たな公式を導き出しました。これは、子どもたちがすでに身につけている知識を応用したものです。

とはいえ、1問目のパズルではまだ混乱していた子どももいたと思います。2問目に取り組む際には、難易度が変化していても、1問目のパズルがモデルとなって活動の見通しがついていたことで、抵抗なく取り組めたのではないかと考えています。

中には、「カードを引く」という行為や「あたりが入っている」という仕掛けに面白さを感じている子どももいます。それ自体は算数の面白さと直結していませんが、そこが入り口となって算数の面白さに結びつく可能性もあると考えています。

また、授業後半では自信なさそうに手を挙げたり下げたりしている子どもを指名し、みんなの前で解いてもらいました。前半では手を挙げられなかったけれど、授業が進むにつれて気持ちが変化してきた子を見逃さないという点も意識していました。

なんで【半径×半径×円周率】で円の面積が求められるの?

―6年生「円の面積」の単元で、つまずきやすい点について教えてください。

森教諭 子どもたちがつまずきやすいというよりも、「円の面積」は【半径×半径×円周率】しか学ばないということが起こりうる単元だということを教員は認識しなければならないと思っています。円の面積は、一つの公式でしか求められないと理解してしまうのは、勿体なさすぎます。

―具体的にはどのような工夫をされましたか。

森教諭 まず、【半径×半径×円周率】という公式から円の面積が求められるというのは、図としてイメージしづらくないでしょうか。私自身、子どもの時には「なんでそれで円の面積が求められるの?」と思っていました。

一方、割合という円積率から入って、どんな円でも、面積は円に外接する正方形の78.5%なのだということは視覚から理解しやすいのではないかと考えました。これが理解できると、正答の近似値がイメージできるため、【半径×半径×円周率】で明らかな計算間違いをしてしまったとしても自分で気づくことができます。

本単元の1時目の授業では、この円積率という考え方を理解してもらうために、正方形の中にある三角形や台形の面積は、正方形の何%になるのかということを勉強することからスタートしました。そこから円の面積や円の分割を経て、円周率を使って円の面積を求めることができるというところまで到達しました。

円の面積の求め方は【半径×半径×円周率】だけではない。そこから算数の面白さに気づいてくれればいいなと思っています。

―子どもたちの、新しい取組への反応はいかがでしたか。

森教諭 後半の発展的な部分に関しては、どうなるか少し不安でした。ですが、特に混乱はなく、目をキラキラさせている子どもたちの姿を見ることができたので、よかったかなと思っています。

【半径×半径×円周率】という公式はほとんどの子が知っています。そこに対して、「円の面積は別の方法でも求めることができるのではないか」という問いを投げかけることで「え?そうじゃない方式もあるんだ」と子どもたちが知的好奇心を持って取り組んでくれたのは嬉しかったです。

探究学習で個別最適な学びを

―本単元では、今後、探究学習の時間を3時間設定しているということですが、どのような学習活動を行う予定ですか。

森教諭 今後は習熟も含めた探究学習を大きく二つ考えています。

まず一つ目が、これまで習った図形を捉え直すということです。例えば、三角形であれば「底辺×高さ÷2」、平行四辺形では「底辺×高さ」という公式も、円積率のような視点で捉え直すことができないか、ということをもう一度考えます。これは、これまで習ったことを、新しい視点で捉え直す取組です。

そして、もう一つが発展です。発展的に、本当に自分の調べたいことを追究していく活動です。

―算数の授業で探究学習を取り入れたのはいつからですか。

森教諭 この取組は去年度からです。「個別最適」という研究テーマが入りましたので、単元の最後に1〜2時間の探究学習に取り組んでいます。この時間は、子どもが自分で取り組む時間です。発展的なことに挑戦したい子どもには、学年の壁を越えてどんどん取り組んでもらいます。これは一斉指導では実現が難しい取組です。

また、勉強にしんどさを感じていたり、学力的に目標に到達できていなかったりする子も、探究に取り組む雰囲気の中で友達に教えてもらいながら、自分もできたという感覚を経験することができていると感じています。

学びやすさを保証する

―森先生はブログに「ICTの活用によって、発達の最近接領域が拡張される」と書かれていますが、どのようにICTを活用されていますか。

森教諭  ICTを普段使いし、いかに接触回数を増やすかという点が重要だと考えています。例えば、授業においてはもちろんのこと、学級経営においてもICTを活用して、アンケート機能を使って普段は言葉にしにくい意見を引き出したり、クラスの意見を集約したりしています。

一方で、算数の図形領域においては操作活動が大切なので、安易にICTを活用すべきではないという考えも持っています。ICTを活用することで、教えやすく、授業準備にかける時間も短縮できます。しかし、算数において然るべき学年で量感を習得することは大切です。5gの重さはどのくらいなのか、1㎤の大きさはどのくらいなのかなどを体得していくことの大切さも、同時に考えなければなりません。

そのため、ICTとの接触頻度は学年や教科、学習内容によって異なるということを前提として、子どもたちの学びにICTを積極的に取り入れています。

―ブログに「教師の教えやすさから脱却し、子どもの学びやすさへと転換していく勇気と行動が求められます」と書かれていますが、どのようなことを意識していますか。

森教諭 子どもが学習でつまずくポイントは千差万別で、それを踏まえてさまざまな学習形態の可能性を探る必要があるのではないかと思います。

今日の授業は一斉授業に近かったですが、普段は自由に1人で勉強してもいいし、近くの友達と勉強してもいいし、仲良い友達と勉強してもいいしという風に、ある程度自分たちで決めて動く時間を設けています。どうしても1人では考えにくいという子どももいます。友達のヒントをもとに考えたいという子の学びやすさを保証することを意識しています。

また、iPadを活用した学習もそうです。先日、学習者用デジタル教科書を実験的にiPadに入れてみたところ、算数が苦手な子が急に算数が好きになりました。理由を聞くと、定規、コンパス、赤鉛筆など学習用具を持ち変える必要がないからという返答がありました。学習用具の不慣れさが算数の苦手とつながっているという事実は、目から鱗でした。

つまずくポイントはそれぞれです。インクルーシブ教育の観点からも、子どもたちにさまざまな選択肢を与えることの大切さを再認識しました。

教師の仕事

―森先生は31歳の時に教員を志したとのことですが、どういったきっかけがあったのでしょう?

森教諭 31歳までは、自分たちで立ち上げた音楽レーベルを運営していました。また、それだけでは食べていけないのでバーテンダーとしても働き、自分の好きな音楽活動を続けていました。どちらもうまく進まず、行き詰まってしまった2011年。東日本大震災が起こります。このことがきっかけとなり、自分の生き方を考え直しました。自分のためだけに生きてきたこれまでの人生から、誰かのために生きたいと思うようになりました。そうして、考えた末に小学校の教員になろうと決意し、10年以上暮らした大阪を離れ、高知へと帰ってきました。

―講師の時代と合わせると約10年の教師生活になりますが、どのような日々でしたでしょうか。

森教諭 正直なところ、教師の仕事は99%がしんどいことで占められていると思うこともあります。ですが、残りの1%に教師という職業でしか味わえない幸せを感じられる瞬間があります。私はその1%に魅了されて、今でも教師を続けているのだと思います。

現在所属している算数部や6年団などは、しんどい時や辛い時に助け合えるチームです。それでも、心が折れそうになる瞬間はやってきます。そんな時に助けてくれるのが、生き生きとした子どもたちの笑顔なのです。あぁ、がんばってきてよかった。またがんばろうと思わせてくれる不思議な力を持っています。教師は、子どもたちの成長の場面に立ち会い、人間の営みを感じられる尊い仕事だと感じています。

記者の目

算数という教科において、探究活動に取り組んでいることに驚かされた。「算数は答えが一つ」であり、その計算プロセスにおいても画一的なイメージを抱いていたが、気づいていないだけで実は選択肢がいくつもあったのだ。この視点を身につけることができれば、算数以外の教科にも応用することができ、より探究的な視点を持って学習に取り組めるのではないかと感じた。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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