2026.01.26
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学校給食とICTで地域をつなぐ昆布ロード交流学習の実践 ― 学校間交流学習による食文化理解と食育の深化 ―(4) 【食と文化・風土】[小学校5・6年生]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイデア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子どもたちの興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第225回目の単元は「学校給食とICTで地域をつなぐ昆布ロード交流学習の実践(4)」です。最終回となる今回は、学校間交流を通して子どもたちにどのような学びの深まりが生まれたのかを振り返ります。

授業情報

テーマ:食と文化・風土

教科:総合・英語・家庭

学年:小学5・6年生

渡嘉敷小から利尻小への贈り物を通した交流学習の展開

 

贈り物開封(利尻小)

利尻小では3月13日に、渡嘉敷小からの贈り物を教室で開封しました。交流学習後のお礼の手紙とともに、乾燥アーサやまぐろの佃煮、まぐろジャーキーなど、北海道では目にすることのない食品が同封されていました。

食品にはそれぞれメッセージカードが添えられており、子どもたちは読みながら「これはなんだろう?」「そうなんだ!」「おもしろいね」と興味津々に観察していました。開封した日は、給食とともに乾燥まぐろを食べました。「食べたことのない味がする」「かつお節に少し似ているかも」といった感想が教室にあふれました。「サラダにも合うんじゃない?」と、給食の副菜であるサラダにトッピングしている子どももいました。

また、渡嘉敷の美しい景色のポストカードや観光パンフレットも同封されていたため、渡嘉敷村に対してより親しみをもった様子がうかがえました。

翌日の給食では、まぐろの佃煮を白飯にのせ、味噌汁にはアーサを加えて食べました。「アーサって、ふのりに似ているね」と、自分たちの身の回りの食材と結びつけながら感想を言い合い、「まぐろの佃煮、ごはんがすすむ!」と白飯をおかわりする子どもも見られました。まぐろの佃煮に利尻昆布が使われていることを伝えると、「利尻と渡嘉敷のコラボだ」と利尻昆布が遠く離れた土地で加工されていることがうれしそうな様子でした。

※参考資料「授業実践概要」表中の(サ)に対応します。

結果と考察

昆布に対する理解と尊重の態度の変容についての分析

 

 

学習アンケートの結果から、利尻小では、「昆布は島にとって大切なものである」「地域にある食べ物は大切だと思う」の2つの項目は、事前・事後ともにほぼ100%でした。このことから、昆布が子どもたちにとって身近な存在であり、利尻島において大切なものだと当初から感じていたことが分かりました。その上で、渡嘉敷小との交流を通じて、伝統の交流が楽しいと感じていること、利尻昆布が遠くの場所で食べられていることを実感していると考えられます。

一方、渡嘉敷小では、昆布の価値が大きく変容していました。琉球王国の料理や年中行事の重箱、沖縄の郷土料理との関連、給食の利尻昆布だしのお吸い物、家庭科で初めて味わった利尻昆布のうま味、小野栄養教諭から学んだだしの取り方を生かした実習での体験が大きくかかわっていると考えられます。

地域のことへの関心と価値意識についての分析

 

 

利尻小では、島のできごとへの関心や自慢できることについて肯定的な評価が上昇した。これは、沖縄で消費される昆布の具体的な姿を学んだことや、自分たちの島だけではなく、遠く離れた地域でも昆布が食べられていることに目を向けたことが影響していると考えられます。、また、沖縄の生活に生かされている昆布の姿に触れることで、利尻の昆布の価値を見つめ直していることがうかがえました。

「あなたの生活と昆布のつながりについて書きましょう」という設問では、「遠い所の人も食べている」という記述が見られ、実際に交流学習をすることで利尻昆布が遠い土地でも食べられている実感をもてたことが分かります。また、「昆布を通して、まだ知らない町の人々にも知ってもらえて仲良くなることができて楽しい」という記述からは、交流学習そのものが楽しさを伴って実現できたことを示しています。

交流学習後の「昆布のよいところを書きましょう」という設問では、「おいしいだしがとれる」「いろいろなものに使われている」「だしがキレイでおいしい」「とても大きい」「ウニも昆布を食べておいしくなった」「ほかの生き物のエサになる」「だしの色が透明だから食材の色がそのまま」「自分の町の自まんにできる」「町の伝統を通して、他の町と仲良くなれる」「昆布集めをして、収入が得られる」といった言葉が確認できました。「ウニもこんぶたべておいしくなった」という記述には、渡嘉敷小との交流活動によってウニという地域の特産物に対する新しい見方を獲得している様子が表れており、それを引き出したのが交流授業での発表であることも確認できます。

渡嘉敷小では、島のできごとへの関心について肯定的な評価が上昇しました。さらに、「どうすれば地域や社会をよりよくできるかについて、考えている」という項目でも大きな変化が見られました。これは、交流学習の内容が印象的であり、今後も継続して交流したいという子どもたちの気持ちを引き出すことができたことが、影響していると考えられます。

 

届いた手紙(利尻小)

また、自分たちの地域のいいものを探す場面で、昆布と同じように海藻、しかも乾燥されていて保存性が高いものとしてアオサ(アーサ)を選んだことも成果の一つといえます。交流後のお礼として地域の特産品を送る場面を設定したことで、子どもたちが、送りたいものを考えて、地域を見つめなおすことになりました。相手を意識した活動であったため、より深い学びにつながったことが明確になりました。

利尻小でも、「昆布のよいところを書きましょう」という記述式アンケートでは、「いろいろなものに使われている」という記述が見られました。このことから、交流学習を通して、沖縄での昆布の食べ方について学んでいることが分かります。「自分の町の自まんにできる」「町の伝統を通して、他の町と仲良くなれる」といった記述からは、交流学習の成果が表れていると考えられます。

郷土料理を伝えるプリント(利尻小)

食べてみて!

利尻に来た時はぜひ食べてみて~!!

おいしい!!

絶品の一品です!

無限に食べれるほどうまいです!

ぜひ作って食べてみてください!

ぼくはいももちにさとうじょうゆをかけて食べるのが好きです。

おかしにもオススメです!

ぼくはつりをたくさんするし好きだからさけを自分でつっても楽しめるし、食としてもたのしめるところがいくら丼のみりょくです。

思い出は自分たちで鮭をつってちゃんちゃん焼きを食べたことです。

郷土料理を伝えるプリント(利尻小)の記述からは、紹介する郷土料理への愛着を感じる言葉が見られました。郷土料理が自分たちの生活に身近であり、関わりの深い存在になっていることが分かります。

昆布を通した他地域の子どもとの交流により、自分たちの地域の良さや独自性に気づき、互いの食文化を理解し、島を大切に思う気持ちが高まっていると判断できます。その際に、昆布の生産と消費地という共通項を足場にできたことは、大きな意味があると考えられます。

ICTを活用した学校間交流学習

ICTを活用することで遠く離れた地域との交流を実現し、それぞれの地域にとっての昆布の価値を見つめ直すことができました。また、伝統的な食文化や地域への理解を高めることもできました。2校間の交流学習では、共通点と相違点があることが交流の意味を明確にし、学習の深まりにつながっていました。食文化は「同じもの」と「違うこと」という交流学習に適した特性を持っていることが実践を通じて明らかになったと言えます。本事例では、昆布という同一の食材を扱いながら、昆布に関わる生活や食文化は地域によって異なっていました。この点から、食文化をテーマとした学校間の交流学習は、子どもたちの学習を深め、伝統的な文化の継承に大きく貢献できると考えられます。

交流授業の前後の学習が重要であることも確認できました。掲示等や通信、事前学習、事後学習を通して、交流学習に子どもが主体的に取り組むことが可能となり、その結果、伝統的な食文化の理解を高めることができました。その際に、栄養教諭を中心にしてSNSグループを活用し、日常的に献立や授業の計画、振り返りを共有することで、協働的な授業づくりを支援することができました。

学校給食を通した食体験

 

まぐろをいただく(利尻小)

渡嘉敷小・利尻小の両校では、意図的に北海道産食材を使った献立を作成しました。北海道の郷土料理の中で知っているものや食べたことのあるものを挙げる場面では、子どもが想起しやすいよう、当日の給食を提供しました。食経験の少ない子どもも、給食を通して郷土料理や特産物を理解している様子が確認でき、給食が地域の食文化の理解や関心に結びついていることが分かりました。また、もずく丼のおいしさを表現した掲示物や動画、メッセージビデオが、子どもたちの食に向き合う姿勢を支援したように、交流で取り上げた郷土料理や特産物が食育を支えていることも確認できました。家庭科の調理実習では、交流学習で学んだ利尻昆布のだしの取り方を実践することで、調理法の手順や、昆布ならではの香り・色・うま味なども実際に確かめながら、遠く離れた北海道で採取される昆布だしの味わいを知ることができました。

本事例のように栄養教諭が関わることで、学校給食に地域の食文化を取り入れた献立を提供することができます。遠く離れた交流校との距離を縮めるために、渡嘉敷では、利尻から届いた利尻昆布を使ってだしをとった給食のすまし汁や、家庭科で調理したみそ汁が大きな役割を果たしていました。

これらの食べる体験が、実感や手ごたえとして学習を深めることに貢献することができたと考えられます。給食が遠く離れた相互の地域同士を結びつける役割を果たし、オンラインでの交流と食べる体験を重ねる交流学習の有効性が、より明確になりました。 

昆布を教材とした学習展開の可能性

水産業や年中行事と歴史のつながり、郷土料理など、学年に応じた展開が可能な昆布のもつ豊かな教材性が、本事例から確認できました。昆布ロードをテーマにした給食は、交流先の地域への実感を引き出す役割を果たしていました。「昆布」と「給食」という共通性が、交流に実感を持たせていると考えられます。今後は、昆布ロードの寄港地をつなぐ交流学習の可能性も見えてきました。

その中で、それぞれの栄養教諭が自校の子どもに昆布や食文化の価値や大切さを語っていることも見逃せません。食文化を継承していくことの大切さを他校の子どもの存在を介して、語っている点も重要です。

残された課題は、この交流学習を年間計画に位置づけ、昆布を通した食文化に関する学びをさらに深めていくことが挙げられます。今回の事例の2校はいずれも小規模校です。離島の環境にある子どもにとって、交流学習は大きな意義を持つといえます。今後は、中規模・大規模校においても、食文化をテーマとした交流学習が成立するか、またそのための手立てはどのようなものがあるかについて検討していく必要があります。

授業者

小野文雅/北海道利尻富士町立利尻小学校
小野彩加/栄養教諭 北海道利尻富士町立利尻小学校
義元得史/沖縄県渡嘉敷小中学校
玉城恵子/栄養教諭 沖縄県渡嘉敷小中学校
藤本勇二/武庫川女子大学

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

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