2025.12.20
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学校給食とICTで地域をつなぐ昆布ロード交流学習の実践 ―利尻と渡嘉敷を結ぶオンライン交流と給食の学び― (3) 【食と文化・風土】[小学校5・6年生]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイデア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子どもたちの興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第224回目の単元は「学校給食とICTで地域をつなぐ昆布ロード交流学習の実践(3)」です。オンライン交流や給食の献立を通して、子どもたちが地域の食文化や歴史に触れ、相互理解と地域への愛着を深めました。

授業情報

テーマ:食と文化・風土

教科:総合・英語・家庭

学年:小学5・6年生

オンライン交流授業 

①渡嘉敷小学校の子どもの発表

 

英語で作成した「町紹介」スライド(渡嘉敷小)

渡嘉敷小から沖縄(渡嘉敷村)で昆布はどのように食べられているかについて、PowerPointを使用して発表した。
スライドは、英語の授業で作成した「町紹介」を活用し、食文化、海、年中行事、給食などについて英語で発表した。
村の祭りや、年中行事を紹介しながら沖縄の昆布料理について触れ、給食の献立を紹介することで、日頃から昆布をよく食べていることを伝えた。

②利尻小学校の子どもの発表

 

昆布がどのように採れるのか(利尻小)

利尻小の子どもたちも、PowerPointを用いて利尻昆布について発表した。利尻の昆布がどのように採れるのか、総合的な学習の時間で調べてきた利尻島の名所や利尻昆布によって生まれた特産物について紹介した。あらかじめ昆布についての質問を渡嘉敷小の子どもからもらっていたため、答えられるよう準備をスムーズに行うことができた。
また、「昆布の敵(食害や環境の影響)は何ですか?」など、これまで疑問に感じることがなかった内容の質問もあったため、利尻小の子どもにとっても発見があった。「昆布が関わる行事はありますか?」という質問についても、利尻小の子どもにとっては、昆布が行事に関わることはあまりなく、新鮮に感じているようだった。

③玉城栄養教諭からの説明

 

オンライン交流授業(利尻小)

沖縄では昆布が採れないのに、なぜよく食べられているのかについて子どもに問いかけ、北海道の昆布が沖縄に運ばれた経緯について説明した。
昆布ロードについては、6年社会科で学習する江戸時代の交通に触れながら北前船の話をすることで、教科での既習内容が深まることを意識した。また、琉球王国時代の象徴として首里城を示しながら、琉球料理としての昆布の利用について説明することで、昆布を食する歴史の深さにイメージが持てるようにした。

利尻小では玉城栄養教諭の説明を聞きながら、担任が社会科で学んだ北前船について黒板を使って補足し、自分たちの学習を振り返った。

④小野栄養教諭からの説明

 

昆布だしのとり方(利尻小)

昆布だしのとり方について「洗わない」「水に対しての昆布の量」「時間と温度」の3つのポイントに整理して説明した。利尻小の家庭科では、いりこだしのみ取り扱っていたため、本時で昆布だしの取り方を学ぶことができた。
調理実習で昆布だしをとる際に生かせるよう、水に対する昆布の量については、5年生の算数の学習内容である割合を振り返りながら、自分たちで計算できるように説明した。この学習を受けて、渡嘉敷小の子どもも、小野栄養教諭からの説明にあった3つのポイントを自らメモし、今後の家庭科調理実習で活用したいという態度や、加熱温度に気を付けて色、香り、うま味を味わいたいという意欲を示していた。(ケ)

※(ケ)は参考資料「授業実践概要」表中の(ケ)に対応します。

⑤当日の交流と給食の献立

 

当日の給食献立(渡嘉敷小)

交流授業当日、利尻小では利尻産のわかめを使用した「わかめラーメン」と、道産水産物学校給食提供事業により無償提供を受けた「ほたて貝柱フライ」を提供した。
渡嘉敷小では、北海道産食材を使った給食として「じゃがいもコロッケ」「チーズ」「昆布の和え物」「道産子汁」とした。
地域性を意図して献立を作成したため、「今日の給食はなあに?」と、北海道の特産物についてお互いに交流する場面があった。

北海道の郷土料理を渡嘉敷小の子どもたちに伝えよう!

 

授業板書(利尻小)

交流授業の後に、利尻小では、特別活動で「地域に伝わる料理を知ろう」を行った。北海道の郷土料理の中で知っているものや食べたことのあるものを挙げる場面では、子どもが想起しやすいよう、当日の給食として、隣の離島である礼文島発祥の「ほっけチャンチャン焼き」と、北海道でよく獲れるじゃがいも・人参・玉葱・とうもろこし・枝豆・バターを使用した「どさんこ肉じゃが」を提供した。

郷土料理や特産物を挙げていく際に、当日の給食で食べたものも話題となった。子どもが挙げた郷土料理に加え、三平汁などアイヌ文化に由来する料理を紹介し、郷土料理のよいところを見つけた。総合的な学習の時間でSDGsについて学習していたことから、新鮮でおいしいことや健康によいことだけでなく、環境にもよいことにも結び付けることができた。また、郷土料理を守っていくために何ができるかを考える場面では、自分たちが食べたり作ったりするだけではなく、たくさんの人に知ってもらうことも大切であると気付くことができた。

交流授業後であったため、北海道と沖縄県の気候や採れる食材、文化・歴史の違いについて、より関心や親しみをもちながら学習することができた。この学習を受けて、北海道の郷土料理を知ってもらうための取組のひとつとして、渡嘉敷小の子どもへ郷土料理について調べたものを送ることとなった。翌日の総合的な学習の時間を使い、郷土料理の作り方や材料、その料理の魅力について調べたことをまとめ、冊子にしたものと、郷土料理として名前の挙がった鮭とば、「ホッケくんせいスティック」を同封して渡嘉敷小へ送った。送る相手を意識して、分かりやすく丁寧に書く姿が見られた。(コ)

授業者

小野文雅/北海道利尻富士町立利尻小学校
小野彩加/栄養教諭 北海道利尻富士町立利尻小学校
義元得史/沖縄県渡嘉敷小中学校
玉城恵子/栄養教諭 沖縄県渡嘉敷小中学校
藤本勇二/武庫川女子大学

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

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