2023.12.18
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一斉指導から、個別最適な学びへ。自分に合う方法で学力の定着を目指す(前編) 取手市立取手西小学校「算数」授業リポート

小学校2年生の算数の山場である「九九(かけ算)」。誰しもが「ニニンガシ、ニサンガロク...」と呪文のように唱え、暗記した記憶があるのではないだろうか。一方で近年では、やみくもに暗唱させるのではなく、九九の仕組みを説明させたり、1人1台端末を活用して、自分に合った練習方法を選べるようにしたりと、独自の指導を行う教育現場も少なくない。

今回は、SDGs活動でさまざまな賞を受賞するなど先進的な教育に取り組む、茨城県取手市立取手西小学校での実践を取材した。前編では「かけ算九九づくり」の授業の様子を紹介する。

授業を拝見

【授業概要】

学年:小学校2年生
教科・単元:算数「かけ算九九づくり」
単元の目標:乗数が1増えると9増えるという性質を活用して、9の段の九九を構成する知識や技能を養う。
授業者:大塚 萌南 教諭
使用教材・教具:大型ディスプレイ、教師用タブレット端末、児童用タブレット端末、ワークシート

「9のだんの九九には、どんなきまりがあるのだろう。」

児童はこれまでかけ算の意味や表し方を学習し、2の段から8の段までの九九を構成してきた。本時は9の段を学ぶ。

冒頭では前時の振り返りが行われた。

大塚教諭「九九にはどんな決まりがあるでしょうか?」

多くの児童が手を挙げ、「1×8でも、8×1でも答えは同じ」「8の段は、かける数が1増えると、答えは8増える」という解答が寄せられた。知識をしっかり習得できていることが伺える。

続いて本時の学習課題である「9の段の九九には、どんな決まりがあるのか」の確認へ。「9を足していく」「2×9や3×9という式を使う」といった見通しを立てさせることが目的だ。

児童に意欲を持って取り組んでもらうために、親しみやすい例題が示された。教室前方のディスプレイにはクリスマスツリーの飾りが9個入った箱が表示されている。

大塚教諭「もうすぐクリスマスですね。みんなのお家ではツリーを飾りますか?先生のお家には飾りが9個入った箱が1つあります。また親戚のお家にも同じ箱が1つあります。それでは飾りは全部で何個あるでしょうか?」

ほとんどの児童が挙手。「18個!」と答える子もいれば、「9×2で18です」と式から答える子も。

大塚教諭「9のまとまりが2つあるので9+9で18ですね。それでは箱をもっと増やすと、飾りは全部でいくつになるのでしょうか。今日は9のまとまりを『かけ算』で考えていきたいと思います。」

次に、ワークシートに見通しを書く時間が数分間与えられ、意見が発表された。

大塚教諭「9の段の決まりを見つけた人はいますか?」

「かける数が1増えると答えが9増えます。」
「1×9でも9×1 でも答えは同じです。」

続いて、一人ひとりで9の段を構成していく時間が8分設けられた。ノートに書く方法と、デジタルアレイ図の2つから選択する形式としたが、多くの児童が後者を選んだ。

大塚教諭「お友達の考えを聞きたいので、書いている人は鉛筆を置いて、タブレットを使っている人は一度閉じましょう。まずノートに書いた人で決まりは見つけられた人はいますか? 前に映して、説明してください。」

「9×1と9×2、9×3…の答えを比べると、10の位は1、2、3、4、5と増えていくことがわかりました。」
「かける数が1増えると 答えが9ずつ増えます。」
「先生、決まりをもう一個見つけました!9×9=81の1の位と10の位を逆にすると、18になるから9X2になると思います。」

続いて大塚教諭が黒板に9×1=9と9×2=18、9×3=27…と9の段の九九を構成。

大塚教諭「9の段の答えを見ると、9×1=9と9×2=18、9×3=27、9×4=36と1の位は1ずつ減っていきます。一方で、10の位は1、2、3、4、5と1ずつ増えていきます。」

その後「9の段の九九にはかける数が1増えると、答えが9増える」を板書。全員で声を出して読み上げ、ワークシートに書き込んだ。

「多重知能理論」をもとに、九九の暗記・練習方法を複数用意

次に、9の段の練習時間が10分与えられた。

6の段からは、児童が自分に合ったスタイルで九九を学べるよう、練習方法を複数用意している。これはアメリカの心理学者、ハワード・ガードナー氏が唱えた「多重知能理論」に基づいている。児童は自分の好きなやり方で練習を行い、一人ひとりに応じた学力の定着を目指していく。

タブレットをリズミカルにタップする児童、九九の歌を聴きながら一緒に歌い始める児童、色鉛筆でぬりえを楽しむ児童など、多様な姿が見られた。

「多重知能理論」8つの知能 九九の練習問題
言語・語学知能 話をする、文章を書くなど、言葉を使って表現する能力 eライブラリ文章問題、絵本
論理・数学的知能 計算や分析などに必要な論理的思考力 ククハチジュウイチ
視覚・空間的知能 空間のなかで物事をイメージ・認識・表現できる能力 九九もよう、ぬりえ九九、デジタルアレイ図
音楽・リズム知能 音・リズム・メロディなどを認識し表現する能力、感受性 九九のうた
身体・運動感覚知能 身体を使った表現力 九九すもう
対人的知能 他人の感情や考えを理解できる力、コミュニケーション能力 九九かるた、九九ビンゴ
内省的知能 よい面・悪い面も含めて、自分を正確に理解できる力
博物的知能 自然や環境に関心が高く、観察・発見・分類できる能力、自然と共存する力

大塚教諭「今日はみんなで9の段の九九の決まりを考えました。わかったことや面白かったことを教えてくれる人はいますか?」

「答えの1の位と10の位の数を足すといつも9になるという、9の段の秘密を自分で見つけられて楽しかったです。」
「九九の歌を聞けたのがよかったです。」

大塚教諭「練習方法がいろいろあると、自分に合ったやり方で楽しく九九を学べますね。今日で9の段まで決まりがわかったので、次回の授業で九九を一緒に覚えていきたいと思います。」

授業者の振り返り

―「かけ算九九づくり」の授業で工夫した点を教えてください。

大塚教諭 「クイチガク、クニジュウハチ」とひたすら暗唱するだけでは、どうしてもつまずきがちです。そのため九九の成り立ちからしっかり学べるように、6の段から暗唱以外の学習方法を取り入れました。また学習意欲を高めるために、身近な例を出すことも心がけている点です。

―多重知能理論を取り入れたきっかけを教えてください。また実践したことで、子どもたちにはどのような反応がありましたか。

大塚教諭 大学で多重知能理論を勉強したことがあり、かねてより授業で活用してみたいと考えていました。今日の授業に関しては、子どもたちのほとんどがWebアプリ「ククハチジュウイチ」を選ぶと思っていたのですが、蓋を開けてみたら分散されたのが意外な点でしたね。

また、いろいろ試しながら、自分に合ったやり方を見つけていくという児童も目立ちました。「昨日まで『ククハチジュウイチ』を使っていたけれど、歌の方がよかった!」という子もいました。好きな方法を選べることで、興味を持って学びに取り組めるのではないかと感じています。「九九かるた」や「九九ビンゴ」はこれまでの授業で選ぶ子どもがいなかったのですが、友達と話しながらの方が覚えやすい子もいるのではないかとは思っています。

―「ぬりえ九九」を選ぶ児童も目立ちましたね。

大塚教諭 「ぬりえ九九」は支援が必要な児童も遊び感覚で取り組める教材として開発されたもので、かけ算の答えの数字の場所を塗りつぶしていくと動物や家などの絵が現れます。自分のペースで進めたい児童にとってはいい練習のひとつになっていると思います。

後編では、大塚教諭と石塚康英校長へのインタビューを紹介する。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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