2026.01.05
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就学前に経験したい運動遊び 東京都中野区教育委員会 合同研究【運動遊び部会】報告会

東京都中野区では、2005年より「幼児教育・保育から義務教育への円滑な接続」を掲げ、2012年には「中野区就学前教育プログラム」をまとめ、2018年に改訂版を発行するなど、就学前教育・保育の充実・連携推進に取り組んでおり、区内の保育園・幼稚園・認定こども園の保育者を対象に「合同研究」(研究・研修会)も実施している。
昨年に続き、帝京平成大学の鈴木邦明先生を講師に迎え、就学に向けた体力やコミュニケーション力を育む運動遊びを学ぶ「合同研究 運動あそび部会」の第5回(最終回・報告会)を取材した。今年度の研究会に参加した19名の研究生が5つのグループに分かれ、自園で取り組んだ実践やアレンジ事例を模造紙で紹介し、実際に遊びを体験しながら共有する形で、研究生以外の職員へも報告。小学校の体育授業の見学も踏まえ、保育者同士が学びを持ち寄り、遊びの広がりを感じられる会となった。

開会

「体を動かすことは楽しい」と実感できる機会を保障

中野区教育委員会 阿部 巧 指導主事

教育委員会の阿部巧指導主事が、今年度(2025年度)の東京都体力調査の結果から、懸念点を紹介。「1日の運動時間が1時間未満(授業を除く)」という児童が小学校5年生以下、特に低学年で増加している点が明らかとなり、運動不足傾向が強まっている課題が指摘されているという。

中学校入学後には部活動などで運動量がある程度増えるが、小学校1、2年生においては、昨年度と比較して「ほとんど運動をしない」子どもが増加しているという結果も報告されているそうだ。

「運動する習慣のない家庭もあるので、保育園や幼稚園、認定こども園での活動を通して子どもたちが運動に親しみ、『体を動かすことは楽しい』と実感できる機会を保障することの重要性を感じています。本研究は、就学前の段階で、運動の楽しさを子どもたちに伝える意義ある取組として位置付けられるものです。」(阿部氏)

報告と実践

今日の報告会では、報告を聞いた後、その遊びを実際にやってみるため、準備運動を行った。講師の鈴木邦明先生の指示のもと、ペアになり、じゃんけんで負けた人がもう一人の周りを走る、両足を縦や横に開き、負けた方が間を20cmずつ開げていくなどの遊びの要素を取り入れた準備運動が実施された。笑うと腹式呼吸になり、酸素も取り込みやすいそうだ。

①こけこっこチーム

「こけこっこゲーム」は、子どもたちが上半身を前に倒し鶏のような姿勢をつくり、背中に乗せた物を落とさずに運ぶ遊びである。今回はミニコーンと紅白玉を用意し、チームごとに乗せたい物を選んだうえで向かい合う2列に分かれて実施。背中に乗せて相手側まで歩き、到着後は物を次の人に渡して最後尾へ移動し、最後の子どもが先にゴールしたチームが勝ちとなる。

3歳児では背中を使う動きに戸惑いが見られ、自分で背中に乗せるのも難しかった。初めはすぐに落としてしまい、勝負にならなかったが、繰り返すうちに安定して運べるようになった。見ている子どもから自然に「がんばれ!」と声が出るようになったり、友達が落としたら乗せてあげたいという気持ちも出てきた。おままごとが好きな子どもには「お盆で運ぶ」ことを提案すると、意欲も前向きになったと報告された。

<遊びのアレンジ>

  • 3歳児は背中で支える動きが難しいため、カメとして、ハイハイで実施する。
  • 4・5歳児は中腰姿勢で背中に乗せて運び、体幹を意識した動きにつなげる。
  • 乗せる物はミニコーン以外にも、子どもたちと相談して選んでも可能とする。
  • 背中だけでなく、頭・肩など別の部位に乗せて運ぶアレンジも楽しめる。

②かるがもチーム

「かるがも一家のお引越し」は、日本最古の鬼ごっこと言われる「ことろことろ(子捕ろ子捕ろ)」を基にしたアレンジ遊び。幼児には「ことろことろ」のルールが難しいようで反応が薄かったため、かるがもの親子が神田川へ引越すという物語性を加えて再構成。4人1組で、先頭が親がも、後ろに3羽の子がもが連なり、前の人の肩に手を添えて一列をつくる。そこへカラス役が登場し子がもをつかまえようとする。親がもは連なっている子がもを守りながら、カラスを避けてゴールの神田川(青いマットの上)を目指す。

手が離れると負けとわかっていても、初めは親がもが自分だけ逃げてしまっていたが、繰り返し遊ぶ中で、「子どもを守らないといけない」「自分だけでなくチームで勝つ」という意識が次第に育まれていった。見ている子どもたちからも「子がもがそっちに行ってるよ」と声をかける姿が見られ、仲間の動きを理解しながら応援する態度が芽生えていたと報告があった。

<遊びのアレンジ>

  • カラスは親がもに触れられないルールを設定し、親がもがカラスをガードし、子がもを守る形式とする。
  • 2チームに分かれ、それぞれのカラスが相手チームの子がもを狙う対戦形式とする。
  • 年齢的に縦につながる動きが難しい場合は、子がもは1羽だけで実施するなど柔軟に対応する。

③フリスビーチーム

フリスビーチームは、「ドッチビー」を基に手作りフリスビーで的を狙う遊びを紹介。新聞紙を半分に切り、片方を棒状に丸めてから輪にしてテープで止め、もう片方の新聞紙をそれにかぶせて、輪の中に折り込んでフリスビーを作る。紙コップを15個積み上げてピラミッド型にし、その紙コップを目がけて一人ずつフリスビーを投げ、倒れた数を競う。運動遊びとして楽しめるだけでなく、遊ぶ前に自分だけのフリスビーを製作する工程があることで、作る・投げる・狙うという一連の体験ができる遊びである。

4歳児クラスで実施した際、まず「新聞フリスビーを作ること」が大きな楽しみとなり、完成した自分だけの作品を使って遊ぶことに強い喜びを示していた。フリスビーや的に絵を描いたり、投げるのが苦手な子どもも参加しやすい。初めは床にたたきつけてしまい、飛ばなかったので、床を滑らせるのもOKとしたり、逆に机や椅子の上にコップを並べたりした。

だんだん投げ方のコツをつかんだ子どもが、周りの友達に「こうするといいよ」と教える姿も見られ、また、倒れにくいコップの積み方を工夫する子どもも出てきて、学び合う場としても機能していった。フリスビーは動きの予測が難しいため、どこに飛んでいくか分からない面白さも子どもたちに人気であったと報告された。

<遊びのアレンジ>

  • 投げ終わった子どもが紙コップを戻す際、次の人が倒しにくいように積み方を工夫するなど、思考力も養う。
  • フラフープを設置し、そこを通す。高さを変えることで難易度調整も可能とする。
  • 紙コップが小さく難しい場合は、空のペットボトルを的にして倒しやすくする。

④ボール遊びチーム

ボール遊び禁止の公園が増え、ボールに触れる機会は本当に減っており、体力テストのボール投げの結果も底を打ったと言われている。

ボールチームは、逆さにした巧技台を目がけてボールを投げ入れ、玉入れのように時間内に多く入れたチームが勝ちという遊びを紹介。使用するボールは市販のボールではなく、新聞紙・ガムテープ・ビニールテープを使って子ども自身が作る手作りボールとした。自分の投げやすい形を考えながら製作することで、活動への主体性や思考力が高まる点が特徴。チーム対抗戦で行い、どのボールなら入りやすいかを自分なりに試行錯誤しながら挑戦する姿が多く見られた。

まずは部屋にバスケットボールやサッカーボール、ラグビーボールなど、いろいろな種類のボールを置いておき、遊びが広がるきっかけとした。ボーリングのように転がし、コロンコロンと転がる音を楽しんだり、ラグビーボールの行先のわからなさを楽しんだりした。徐々に衝立に当てたり、衝立の向こう側へ入れたりといった投げる、狙って投げる活動を取り入れたところ、自分で目標を遠くしたり、小さくしたり、また投げ方を工夫する姿が見られた。4、5歳児クラスでは勝負に発展した。

運動が苦手な子どもには、新聞紙を使ったボールづくりを提案すると、「自分もやりたい」と意欲を見せ、自分が作ったボールが飛ぶか確かめたいという興味から、自然にゲーム参加へとつながっていった。「もっとボールが飛ぶようにしたい」と考え、ビニールテープの巻き方を変えるなど、試行錯誤しながら工夫する様子が見られた。また、「悔しいからもう一度投げたい」という挑戦する力、またその気持ちを我慢して、1人1投で交替というルールを守り、「並んで待つ」「順番を守る」などの力も育まれていたと報告された。

<遊びのアレンジ>

  • 最初は難易度を下げ、巧技台に向けて選んだボールを投げ入れる基本的な遊びから始める。
  • 衝立をV字に設置してサッカーゴールやバスケットゴールのようなスペースをつくり、そこに向けて投げる遊びに発展させる。
  • ボールの素材・重さ・大きさを変えて作ることで、投げ心地や飛び方の違いを楽しめるようにする。

⑤しっぽ踏みチーム

短い緑と長い黄色、2本のすずらんテープを“しっぽ”に見立てた追いかけっこ遊び。まずは緑の短いしっぽをズボンに挟み、走らず歩きながら手で相手のしっぽを取る「しっぽ取り」を行う。

さらに黄色い長いしっぽで、先端が床に触れるように挟み、テープが浮かないように歩きながらその先端を踏んで抜く「しっぽ踏み」。慣れてきたら難易度を上げ、得点制にして競う形式へ発展させる。スピードよりも相手との間合いや動きを読み取る姿勢が重要となるゲーム。意外と活動量がある。

3歳児クラスでは「しっぽ取り」を実施。しっぽがうまくついているか、互いに見て確認してもらう姿が見られた。しっぽをつける動きは自分でお尻を拭くトレーニングにもつながる。

4歳児クラスでは「しっぽ踏み」に挑戦。初めての遊びに戸惑う姿もあったが、歩いて行うことで動きが安定し、楽しんで参加する様子が多く見られた。走らないとすることで狭い室内でも実施できる。チームごとにしっぽの色を変えて、チーム戦も行った。長いしっぽを踏んで取る動きは新鮮で、「知っている遊びでも工夫次第で面白くなる」と感じる姿が見られ、歩く代わりにスキップするといった工夫もしていたそうだ。

5歳児クラスでは、短いしっぽと長いしっぽを2本ともつけて、手で取る短い方は1点、足で取る長い方は2点、30秒間自分のしっぽが取られなければ1点といった点数制にして、自分のしっぽを取られた後も最後まで楽しめるように工夫した。保育者たちの実践では、最高得点が7点だった。

<遊びのアレンジ>

  • スキップでしっぽ取りを行い、難易度が高い分1本5点の高得点に設定
  • 緑(手で取る)と黄色(足で取る)を同時に挟み、早歩きでしっぽ取りをする形式にする。
  • 緑1点・黄色10点など、色に応じた点差で意欲を高める。

総評

多様な“楽しさ”が生む学びと成長への歩み

帝京平成大学 人文社会学部 児童学科 鈴木 邦明 准教授

「今回の5回の合同研究と5チームの発表を通して、遊び方の工夫が子どもたちの主体性や楽しさにつながることを実感しました。各チームの活動には、子どもが夢中になる『仕掛け』が散りばめられていました。」(鈴木氏)

  • こけこっこチームは、チーム戦にすることで自然と応援が生まれ、今の子どもたちに貴重な体験となっていた。
  • かるがもチームは、伝統遊びを物語化したことで理解しやすく、子どもが参加しやすい形に発展していた。
  • フリスビーチームは、身近な素材から遊びを作り出し、的の工夫も含め発想を広げる遊びだった。
  • ボールチームは、投げる機会を増やす良い構成で、ボール選びの要素も子どもの意欲につながっていた。
  • しっぽ踏みは、長短のしっぽを組み合わせるアレンジがユニークで、動きの量も確保できる楽しい遊びとなった。

総評として伝えられたポイントは2点。まず1つ目は「楽しさとは何か」ということ。楽しさは一つの形に限らず、いろいろな楽しさが用意されているほど子どもは「やってみたい」と感じやすい。また、保育者自身が楽しめているかどうかも大きい。疲れや焦りが強い状態では、子どもに十分な楽しさは伝わりにくい。保育者が余裕を持って笑顔で関われる環境づくりが、子どもの楽しさを支える基盤になる。

もう1つは、子どもに「考える機会」を意図的に増やすこと。

「運動遊びの中でルールを工夫したり、道具の置き方を一緒に考えたりする経験が積み重なると、他の場面でも自分で考えて動く力が育つ。こうした積み重ねが、小学校以降の学びや生活にも良い形でつながっていくと感じています。」(鈴木氏)

記者の目

今回の発表から、「運動遊び」は単なる運動ではなく「子どもの主体性を引き出す仕掛け」そのものだと感じた。保育者が楽しさを探究し続ける姿勢こそ、子どもたちの学びと喜びを大きく広げる原動力になるのだと実感した。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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