2026.02.16
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一人ひとりのペースで学び合う(前編) 東京都中野区立白桜小学校「算数」授業リポート

2025年12月、東京都中野区立白桜小学校2年生の算数の授業を取材した。従来の一斉授業とは異なる、自由進度学習と協働学習を組み合わせた新しいアプローチが展開されていた。45分間なるべく多くの児童が頭を使うやり方を工夫した結果だそうだ。
九九を活用してチョコレートの数を求める"今日のふかい学び"問題の3種類の解き方を一人ひとりのペースで習得し、子どもたち同士が自然に教え合い、自己解決していく姿が印象的だった。

【授業概要】

学年:小学校2年生
教科・単元名: 算数「かけ算(2)」
目標:乗法九九を総合的に活用して、ものの数の求め方を考え、3種類の解法を説明できるようになる。
授業者:林 真未 教諭
使用教材:問題プリント2種、名札(磁石カード)、電子黒板、デジタル教科書(東京書籍)

同じ答え、異なる道筋の学び

本時取り組む問題は「箱の中のチョコレートは、ぜんぶで何個ありますか」というもの。L字型にチョコレートが並んだ図を見ながら、子どもたちは3つの異なる解法で答えを導き出していく。どの解法を使っても答えは24個になるが、そこに至るまでの思考プロセスが大きく異なるのが興味深い点である。

チャイムがなるまでに全員のクリアを目指す。

解法1:かけ算だけを使う方法
チョコレートを移動させて4×6の長方形に整理し直し、4×6=24で求める方法。視覚的な操作を通してかけ算の意味を理解する重要なアプローチとなっている。

解法2:かけ算と足し算を組み合わせる方法
3×2=6(上の2列分)、6×3=18(下の3列分)を足して、6+18=24のように、チョコレートを2つのブロックに分けてそれぞれかけ算で求め、その答えを足し算する方法。分割して考える思考力を養う。

解法3:かけ算と引き算を組み合わせる方法
5×6=30、30-6=24のように、実際には空白の部分も含めてかけ算してから、(食べてしまって)無い分を引く方法。見かけよりも大きな枠組みで考える柔軟性を育む。

この3つの解法を通して、かけ算の本質的な理解を深めることが授業の核となっている。同じ答えに辿り着く複数の道筋を学ぶことで、数の概念や計算の柔軟性を身につける。また、それぞれの解法には異なる数学的思考が含まれており、児童一人ひとりの思考の特性に応じた学習が可能になる。

名札で見える化する学習の進み具合

この授業の特徴の一つは、黒板に貼られた名札を使った進捗管理システムにある。(写真では、名前をマスクして黒いカードになっている。)子どもたちは解法がわかるたびに、自分の名札を次のステップに移動させていく。これにより、一人ひとりの進度が教師にも他の児童にも一目でわかる仕組みになっている。

このシステムの優れた点は、児童が自分の学習状況を客観視できることにある。どの段階でつまずいているかが明確になり、教師も個別支援の必要性を即座に判断できる。また、他の児童の進度も見えることで、「自分もがんばろう」という意欲喚起にもつながっている。

3つすべての解法を理解し、感想を書いた児童は、先生のチェックを受けた後、2枚目の練習問題プリントに取り組むか、困っている友達を手伝う「おたすけさん」になるかを選択できる。この選択肢により、早く終わった児童も有意義に時間を過ごすことができ、同時にクラス全体の学習効果も高まる。待ち時間が生まれがちな従来の一斉授業とは異なり、すべての児童が常に学習に取り組んでいる状態が保たれていた。

「おたすけさん」が動き始める

教室では、児童たちが自分のペースで問題に向き合いながらも、自然な助け合いが生まれていた。「わからないよ〜誰かおたすけさん来て!」とつぶやく児童がいると、近くの児童が「どこがわからないの?」と声をかける光景が随所で見られた。

「おたすけさん」が見つからない場合は先生が指名する。名札システムにより、どの児童がどの段階で困っているか、おたすけさんになれる児童は誰なのかがわかりやすく、支援が必要な場面での声かけがスムーズに行われていた。

授業の後半では、「おたすけさん」の活躍により、教室が活気に満ちた学習空間に変わった。早く理解できた児童が困っている友達のもとへ向かい、「一緒に考えよう」「こうやって考えるといいよ」といった温かい声かけが聞こえてきた。

一方で、「かけ算と引き算がわからない!」「ムリだ!!」という声も上がり、「ムリって声が多すぎる」と笑いながら、駆け寄る児童の姿も見られた。そんなとき、「Aくんもおたすけに行きます!」という先生の声かけで、「こっちのBさんのお助けして!」と、すでに助けていた子が別の子にサポートを依頼する「おたすけさんのおたすけ」の場面も生まれた。

「8×4は、どこから来たの?これは6の段を使うんだよ」というヒントを与えたり、「まず、かけ算だけの解き方はわかった?じゃあ、引き算も合わせるには…?」と段階的に導いたりと、答えを教えるのではなくヒントを上手に与える姿が印象的だった。

発表と共有で学びを深化

全員が1つ目のかけ算だけを使う解法を習得したところで、答え合わせの時間となった。自分の考えを発表したいと予約していた児童や、挙手制で指名された児童が順番に黒板の前に出て、それぞれの解法を説明していく。

お友達の発表に対して、「ぼくもそれでやったー!」「いっしょー!」「式は一緒だけどちがうー!」「これ一番苦戦した!」など、児童たちのイキイキとした反応が教室に響いた。同じ答えでも異なる道筋があることを実感し、数学的な思考の多様性を学んでいる様子がうかがえた。

発表を聞く児童たちも積極的で、同じ答えでも異なる道筋があることを実感し、多様な数学的思考を学んでいる様子がうかがえた。自分の解法と比較しながら聞く姿勢が育っており、数学的な言葉で説明する力の向上にもつながっている。

この協働学習の効果は双方向的である。教える側の児童は自分の理解をより深く定着させることができ、教わる側の児童は同じ目線からの説明により理解しやすくなる。また、複数の解法があることで、異なるアプローチを持つ児童同士が互いの考え方を共有し合う場面も多く見られた。

先生は教室を巡回しながら、個別の質問に答えたり、児童同士の対話をサポートしたりする。一斉指導では見落としがちな一人ひとりの理解状況を丁寧に把握し、必要に応じてヒントを与えたり、別のアプローチを提案したりする姿が印象的だった。

学び合いが育む成長の瞬間

残り5分となり、解法2、3も答え合わせをし、ほぼ全員がクリアできたことを確認した。林先生が、黒板に貼ったプリントに花丸をかく。終わったプリントを提出箱に、まだ途中の2枚目のプリントをおとまり箱に入れて、授業終了となった。

授業後の児童たちの表情は充実感に満ちていた。複数の解法を学んだことで、算数に対する自信と興味が高まった様子が見て取れる。

問題が解けた瞬間の「できたー!」という喜びの声が教室に響き、学習内容の理解だけでなく、協働学習の意義も体感できているようだった。

特に印象的だったのは、当初困っていた児童が、友達からのサポートを受けて問題を解けるようになった瞬間の表情である。理解できた喜びと、友達への感謝の気持ちが混じり合った笑顔は、まさに学び合いの価値を物語っていた。

この授業は、個別最適化された学びと協働的な学びを効果的に組み合わせた実践例として、多くの示唆を与えてくれる。一人ひとりが自分のペースで学び、同時に互いを支え合う学習環境は、これからの算数教育の一つのモデルとなりうるだろう。

後編では、林 真未先生へインタビューする。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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