「自分たち事」化して不祥事のリスクを減らす(前編) 「児童生徒との不適切な関係のリスクを考えよう」研修リポート

全国の教育現場では教員による不祥事が後を絶たず、2025年は教員グループによる児童盗撮のニュースが注目を集めた。現場では服務研修も行われているが、事例だけを取り上げた研修では不祥事が「他人事」として捉えられていると指摘されてきた。そこで鹿児島県教育委員会は鹿児島大学大学院教育学研究科髙瀬研究室と静岡大学教育学部塩田研究室と共同で「リスクへの自覚を促す教員研修教材」シリーズを開発。今回は2025年12月24日に姶良(あいら)市立帖佐(ちょうさ)中学校で行われた、シリーズ第3弾「児童生徒との不適切な関係のリスクを考えよう」を用いた研修の様子をリポートする。
【プログラム】
work1:児童生徒に「自分のSNS等のID」を教えちゃうときって、どんなとき?
work2:職場で次の行動を同僚がしていたとき、あなたならどう感じる?
work3:児童生徒の相談に乗っていたのに、好意を伝えられたら、どうする?
work4:児童生徒と不適切な関係になってしまった背景を想像してみよう
はじめに
自分のライフキャリアについて考える

鹿児島県にある姶良市立帖佐中学校の職員室。2学期の終業式後に行われた研修は、2025年9月に公開されたシリーズ第3弾「児童生徒との不適切な関係のリスク」を取り上げた。通常は校長や研修担当が講師となって研修を行うが、今回は、教材開発者の鹿児島大学大学院教育学研究科 髙瀬和也助教が来校。
髙瀬先生は、自己紹介の後、まずはシリーズ第1弾「飲酒運転のリスク」のwork1にあるライフキャリアについての質問「もし自由に3日間過ごせるとすれば、どのように楽しく過ごし、どんなことにチャレンジするか」を提示。2分ほど個別に考えた後、近隣の席の教員4~5名ずつで意見交換を行った。
その後、髙瀬先生が高校生の余暇の過ごし方ランキングを紹介、さらに教員の余暇ランキングを予想させた。結果は1位が動画鑑賞でこれは高校生と同じだった。髙瀬先生が余暇について注目した訳は、ドナルド・E・スーパー提唱の「ライフキャリア・レインボー」という理論において、人間がさまざまな役割を演じながら生きていく中で「余暇を楽しむ人」も一つの役割として位置づけられており、余暇の充実がリスクに対する新しいアプローチになると考えたためだという。
しかし、ライフキャリアの中では病気、事故、怪我、子供の進学といった金銭面、不祥事による懲戒処分などさまざまなリスクが考えられる。これからのライフキャリアを楽しく過ごし、充実した余暇を損なわないためにも、リスクを「自分事」として捉える時間にしてほしいと今回の研修の趣旨を説明した。
work1
児童生徒に「自分のSNS等のID」を教えちゃうときって、どんなとき?
研修の趣旨を理解したところでワークシートを使用した実践がスタート。「児童生徒との不適切な関係」とは簡単にいうと、「教師・生徒の境界線」を超えてしまうことだが、その「入口」として児童生徒に自分のSNSのID等の連絡先を「教えてしまうかもしれない」としたら、どういった条件が揃うときかという質問だ。シートには20のシチュエーションが並び、自分にも起こりうる選択肢にチェックを入れ、個別に考察。その後、近隣の教員同士で議論した。

髙瀬先生によれば不適切な関係にいきなり発展するわけではなく、長期的なスパンで進行し、条件、環境、経緯が全て揃ったときに不祥事リスクの入口(連絡先を渡す程度)に立ってしまうのではないかと解説した。
work2
職場で次の行動を同僚がしていたとき、あなたならどう感じる?
work2では教員と児童生徒との関係性を「外の立場から見たとき」にどう感じるかについて質問。職場において同僚が児童生徒をあだ名や呼び捨てで呼んでいる、「髪切った? 」と声をかけるなど6つの行動が提示され、「特に何も思わない」「ちょっとだけ違和感を覚える」「なんか嫌な感じする」の3段階で各自がどう感じるかをシートにチェックをすることで確認し、その後、近隣の教員同士で議論をした。

髙瀬先生は「絶対にダメだと言い切れないような行動、絶妙に微妙なシチュエーションを列挙してみた」とし、自分は「このくらいはいいのではないか」と思っても、他の立場から見れば「異変」のように見えてしまうことがあること、児童生徒との適切な関係のライン(定義)は、人によって異なるからこそ教員同士で議論し、「この学年ではここまで」「児童生徒との関係性によってはここまではOK」といった共通見解を見つけることが、不適切な関係の未然防止において非常に重要だと解説した。
work3
児童生徒の相談に乗っていたのに、好意を伝えられたら、どうする?
work3では児童生徒の相談に乗っていたら、好意を伝えられた場合についての質問だ。「なるべく児童生徒を傷つけないような、上手な対処方法」を個別に考察したのち、教員同士で対処方法を議論した。髙瀬先生は「断る」「拒否する」のは簡単だが、ストレートに伝えるのが難しい状況はあり得る。不適切な関係に限らず、人間関係において「直球で言いにくいこと」に対してどう振る舞うべきか、こういう研修を機に日頃から教員同士で議論しておくことはとても大切だと解説した。
work4
児童生徒と不適切な関係になってしまった背景を想像してみよう
この研修の最後となるwork4ではこれまでの議論を踏まえ、児童生徒と不適切な関係になってしまった「背景」を想像する出題。
「A教諭は、勤務する学校の児童生徒と、禁止されているSNSを使った私的なやり取りをしてしまった。その中には性的なメッセージを含む不適切なやり取りもあった」という結果だけが提示され、そこに至った背景にはどういうストーリー、状況、環境、経緯があったかを各自が想像し、議論を重ねた。
まとめと質疑応答

work4の教員同士の議論終了後、髙瀬先生が今回の研修のまとめを行った。
- 条件、環境、経緯が全て揃うと不祥事リスクの「入口」に立ってしまうのではないか。
- 「断る」「拒否する」ことを、実際の児童生徒との関係性の中でどのように実現していくかというリアルな議論が大事である。
- 充実した余暇やライフキャリアを損なわないためにも、リスクについて再考してもらいたい。
また、質疑応答では以下のような質問が挙がった。
質問1―work4で「背景を想像しよう」という課題があったが、実際にはどのような背景があるのか、実例があれば教えてほしい。
― work1の各選択肢は、実際に起きた事例や発生した経緯を元に作成しており、work4の事例についてもその一部が反映されている。work1に挙げたような内容が主な背景になると考えて差し支えない。
質問2―work3の生徒から好意を寄せられたときの上手な断り方の具体例を教えてほしい。
― 何かしら「嘘も交えた言い訳」を用意しておくことは重要だと考える。例えば独身であっても「実は結婚間近なのです」と装うような、作り話でもあらかじめ準備しておくことが大事。「昔は教え子と結婚することも普通にあった」という話も聞くので、これといった正解がない問題ではあるが、万が一に備えて自分なりの回答を一つ持っておくといいのではないか。
後編では、髙瀬先生と、田島正晴校長へのインタビューをお届けする。
※教材はこちらからダウンロードできます。
取材・文・写真:学びの場.com編集部
※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)
この記事に関連するおススメ記事
「教育リポート」の最新記事













授業実践リポート
食育と授業
教育リサーチ



この記事をクリップ
クリップした記事
ご意見・ご要望


