映像と英語で世界に届けよう ふくしまの子どもの未来
福島県いわき市泉ヶ丘の放課後児童クラブ「アトリエハウス児童クラブ」の子どもたちが半年間にわたって取り組んできた、東日本大震災について、英語で世界に発信するプロジェクトの様子を紹介する。
英語とWebでつながった、いわきとチェンマイの子どもたち
2025年12月27日、一連のプロジェクトの集大成として、タイ・チェンマイにある孤児院「バーンロムサイ」とオンライン交流を実施。バーンロムサイの方ではカメラを動かして、施設内を案内してくれた。村の子どもたちも使えるコンピュータールームには寄付された10台のパソコンが並ぶ、菜園のアボガドやドラゴンフルーツの木…子どもたちが笑顔で手招きしながら楽しそうにカメラを先導していた。
アトリエハウス児童クラブ側では、制作したインタビュー動画を見せながら、英語で解説した。
アトリエハウスの児童(以下、福島):Hello there! We are Japanese elementary school students. After school, we go to Atelier House while our parents have to work. At Atelier House, we do our homework, play games, and learn English. Today, we want to tell you what happened in our town fourteen years ago.
続いて、両国の子どもたちによる質疑応答が行われた。
バーンロムサイの児童(以下、タイ):Now, is there an earthquake?
福島:There are still earthquakes in Japan.
タイ:How did you feel?
福島:It’s scary.
タイ:Even now, is there Tsunami?
福島:In Iwaki, there is no Tsunami, but sometimes in other places in Japan.
緊張しながらも笑顔で応じる両国の子どもたち。震災のことから、福島の桃の味まで質問は多岐にわたり、お互いへの興味を素直に質問し合った。お互いにそれほど英語に自信があるわけではない。それでも、真剣に相手の回答に耳を傾ける姿からは、相手への敬意が感じられた。流暢に英語を話せることよりも、ずっと大切なコミュニケーションスキルが身についていることが見て取れた。
「チャレンジ!子どもがふみだす体験活動応援事業」
プロジェクトのきっかけは、福島県教育委員会による「チャレンジ!子どもがふみだす体験活動応援事業」だった。英語を学ぶだけではなく、人格形成や視野を広げる機会を提供したいと思っていたところで、この事業は子どもたちにチャンスを与えてくれた。
構想をまとめるにあたり、学びや知り得た情報は発信しないと意味がないので、どうしようかと思案しているところに、導入していた英語教材「小学校英語SWITCH ON!」の縁で、フラックワークスの伊藤様より、学びとSDGsを掛け合わせた「まなび、デジタル、SDGsプロジェクト」の国際交流・社会貢献プログラムの案をいただいた。タイも地震のある国であり、そこに暮らすバーンロムサイの同年代の子どもたちも、同じ英語教材で学んでいるため、英語を共通言語として交流することでお互いに学びになる。こうして、最適なピースがつながって、今回のプロジェクトは動き始めた。
プロジェクトの歩み
2025年8月…映像について学ぶ→取材の下準備→いわき震災伝承みらい館訪問→取材
2025年9月~11月…まなび、デジタル、SDGsプロジェクトととともに、英語で伝える練習を続ける。
2025年12月…バーンロムサイの設立された社会的背景を学ぶ→タイのバーンロムサイの子どもたちとの交流
東日本大震災後のいわきに生れた子どもたち
プロジェクトの中心メンバーとして候補に上がったのは、好奇心旺盛なインターナショナルクラスのメンバーだった。概要を聞いた子どもたちは、迷うことなく「やる!」と話しに乗った。3・4・5年生の10名のメンバーからなるチームは、幼いながらに与えられた機会を自分のものとすることを直感的に意識しているようだった。しかし、彼らは全員が東日本大震災を知らない子どもたちである。最初は、震災で起こったことの深刻さを理解しないまま、今回、映像指導と制作サポートを担ってくれたUNITED PRODUCTIONSの持ってきた本物の撮影機材に目を輝かせていた。
前を歩いている大人の存在に気付く
子どもたりの表情・空気が変わったのは、薄磯にあるいわき震災伝承みらい館を訪れ、高田悟 館長のサポートを得て、パネルから情報を取得し、永山宏恵市議会議長、大峯英之市議会前議長、いわき語り部の会の石塚洋悦先生、地元の老舗鮮魚店「おのざき」の小野崎幸雄会長といった震災当時、自らも被災しながら緊急対応と復興に尽力した大人たちの生のストーリーをインタビューしてからだった。
どうしてそうなったのか→どうすればよかったか→自分ならどうするか→これからどうしたらいいか
8歳~10歳の子どもたちにとって、いわき市の体験した複合災害というテーマは複雑で容易に咀嚼できるものではなかったが、地震が津波を引き起こし、原子力発電所の事故につながり、そして目に見えない放射能汚染が長期にわたり心身と生活に長期的な被害をもたらしたことを時系列で知り、相互に絡み合う問題を理解していった。
その中で、「自分ならどうするか」「今後、自分はどうしたいか」を考えるきっかけとなった。特に映像になることを想定して進めたため、ここでも、今を過去に置き換え、未来に出来上がる映像を考えながら今の行動を計算する体験を通して、前もって考え、見通しを持って行動するスキルを、必要に迫られて実践することとなった。
行動するためには、自分以外の誰かの力が必要になる。一緒に目的を遂行するためには、コミュニケーション能力(=人間関係形成能力)や、その人を動かすために映像を通して効果的に伝えるなどの課題解決能力が必要になる。子どもたちの活動は、大人が意図していたよりも自然に、キャリア教育に結び付いていった。
英語学習が苗木支援に?学びがつなぐ社会貢献
今回、プロジェクトメンバーだけではなく、アトリエハウス児童クラブの全員を巻き込むイベントとなったのが、SWITCH ON!で英語を学ぶと、学んだ時間に応じて、タイのバーンロムサイの子供菜園に苗木が贈られるプログラムだった。
子どもたちは、バーンロムサイが提供してくれた動画で、孤児院の背景も学習した。HIVという病気により親を失い、母子感染した自らも薬を飲みながら発症を抑えている子どもたちが、HIVへの偏見により同年代の子どもたちから避けられているという。二重三重の困難の中で生きている子どもたちがいるということを真剣に受け止めていた。また、バーンロムサイが彼らをサポートし、村の他の子どもたちの偏見も少しずつ解消できるように働きかけてきた大人がいること、バーンロムサイの子どもたちが将来、仕事を得て自らの力で生きていくために英語を勉強していることを知った。
このプログラムがあったため、アトリエハウス児童クラブの全員が、世の中には孤児のための生活施設があるという現実や、遠いタイにいる子どもたちも母国語ではない英語を学んでいることを知り、英語を学ぶことは学校の勉強だからではなく、誰かとコミュニケーションをとるために必要であることに気づくきっかけとなった。
難航した英語プレゼンテーションの練習
震災について説明する語彙は、子どもたちが日本語でも最近習ったばかりの使い慣れない言葉だった。Rumor?Nuclear?Earth…qu…ake? 思うように発音できず何度も繰り返して、園長からインターナショナルクラスの先生も参加して練習を繰り返した。文章として話せるようになるまでには2か月かかった。
プロジェクトを通して成長していく子どもたち
自ら「やる!」と手を上げた子どもたちで構成されたプロジェクトメンバーだったが、それでも最初は友達の陰に隠れたり、大きな声で話すことを躊躇したり、全力でやっている自分自身に笑ってしまったりした。半年を経て、子どもたちは体験したことに自信をもち、積極的に自分の意見を述べ、そして、真剣に取り組むことを恥ずかしがらなくなった。
福島で生まれた子どもたちは、生まれたときから東日本大震災を背景にもつ。その彼らが、いわき市がいかに震災を乗り越えたかを学ぶことで、自分の中にも困難を乗り越える枠組みを獲得し、復興の経験を糧に変えていった。
子どもたちの可能性を広げる環境を提供する
いわき市も、福島県も、日本も超えて世界に向けて情報発信をしたことは、現代を生きる子どもたちにとっては、“普通”のことである。生まれたときからインターネットの中にあり、タブレットで場所を選ばず世界と繋がっていく。英語という共通言語を獲得すれば、その範囲は広がっていく。
その子どもたちに大人側ができることは、子どもたちが自分の世界を広げていくためのスキルや感性を育む機会を用意することである。アトリエハウス児童クラブでは、今後も、環境を提供していきたい。
完成した映像は、英語の字幕付きで、いわき震災伝承みらい館に寄贈される。当時の被災した子どもたちが卒業式の日に残した黒板も保存されている館内で、震災から14年後、今の子どもたちが制作した映像は、震災の記憶が、確かにみらいに伝承されてきたことを伝えてくれるのではないだろうか。
子どもたちの感想
- タイの子どもたちとの交流では、緊張もあったけど、相手の明るさで緊張も消えた。
- プロジェクトをとおして震災について学べた。震災を知ることで、助かる命も増えると思う。
- 同じようなことが起きたときには、今回学んだことを思い出す。そして、同じことが起きている場所には、今回学んだことを伝えたい。
- 英語がたくさん学べた。映像で伝えることを知った。これからの人生に活かしていきたい。
団体等紹介
アトリエハウス児童クラブ
いわき市泉ヶ丘の放課後児童クラブ。一般的な学童機能にプラスして英語指導やダンスや絵画などのプログラムを提供している。30年の運営経験の蓄積を活かし、インターナショナルクラスを2025年度からスタート。
バーンロムサイ(BAN ROM SAI)
BanRomSaiとは北タイのチェンマイに1999年に設立された孤児院。タイ語で「ガジュマルの木の下の家」という意味になり、日差しや雨風から守ってくれるガジュマルの木のように子どもたちを守る家になりたいと思い始めた施設だそうだ。寄付金に頼らない運営を目指し、オリジナルブランド「banromsai」とホテル事業「resort hoshihana」を通し、身近な形で支援に繋がるよう活動している。
小学校英語 SWITCH ON!
大阪府と(株)mpi松香フォニックスが共同開発した英語教材「DREAM」と同一ソースを活用し、府外で展開するために開発された英語教材。学校向けは(株)内田洋行から発売している。
株式会社UNITED PRODUCTIONS(ユナイテッドプロダクションズ)
バラエティ・ドラマ・映画・CMなどの映像制作を中心に、SNS編集や人材派遣も手がける総合コンテンツプロダクション。
まなび、デジタル、SDGsプロジェクト(フラックワークス株式会社)
日本の子どもたちに学ぶ目標を提供し、子どもたちの学習活動を通じて、環境に恵まれない人たちを応援するプロジェクト。さまざまなパートナーと一緒にSDGsの目標へコミットします。課題に対する学びから支援まで、一気通貫する学習機会をデジタルの力で実現している。
いわき震災伝承みらい館
いわき市の震災の経験を可視化し、復興の歩みを共有する施設。地震・津波・原発事故という複合災害の経験を「記録」として残し、「記憶」として伝えることを通じて、防災意識や危機意識を高めることを目指す。
文・写真:アトリエハウス児童クラブ
※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)
この記事に関連するおススメ記事
「教育リポート」の最新記事













授業実践リポート
食育と授業
教育リサーチ



この記事をクリップ
クリップした記事
ご意見・ご要望



