2026.01.19
  • x
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

火と鉄に向き合い、生活の中の道具をつくる(前編) 和光小学校「鉄のナイフづくり」授業リポート

20251118日、学校法人和光学園 和光小学校の6年生が、工作技術科の授業で「鉄のナイフづくり」に取り組んだ。同校では、図画工作科を「美術」と「工作技術」(それぞれ週2コマ)にわけて実施している。3年生以上が対象の工作技術科では、五寸釘を素材にしたナイフづくりをはじめ、紙、木、土、繊維とさまざまな素材や道具に触れながら、加工の方法や道具の使い方を学ぶ授業が展開されている。

前編では、鉄のナイフづくりの初めの工程である、火を焚いて釘を熱し、打ちのばすまでの様子をリポートする。

授業を拝見

【授業概要】

学年・教科:小学校6年生・工作技術
授業者:植林恭明 教諭
使用教材:五寸釘、一斗缶、金床、ハンマー、やっとこ、木材・新聞紙(燃料用)、火ばさみ、革製軍手、フェイスガード、ドライヤー、延長コード
単元「鉄のナイフづくり」の流れ:

工程 内容
一斗缶の炉で釘を熱し、たたいて平たくのばす。 ★本時
ベルトサンダー(電動やすり)で整形し、砥石で研ぐ。
ナイフの持ち手にひもを巻き、仕上げる。

一斗缶に火を焚く

グラウンドの隅に班ごとに並び、授業が始まった。

火を扱う活動であるため、冒頭では、鉄釘を触るときは革製軍手を、火花を覗くときはフェイスガードを着用することについて、植林教諭からていねいな説明があり、安全管理が欠かせないことが強調された。

作業は、一斗缶に新聞紙や薄い木材を入れ、火を起こすところから始まった。児童たちは新聞紙を軽く丸め、空気が入りやすいように木材を組んでいく。準備が整った班から、植林教諭が順に火をつけていった。

「火、ついてるよ。」
「もっと木材を入れたほうがいいんじゃない?」
「燃えてる! 燃えてる!」

児童たちは、慣れた様子で、火が安定するように新聞紙や木の位置を整えながら、厚い木材を追加したり、うちわで力いっぱいに風を送るなど工夫していた。

鉄のナイフづくりの説明

火が安定し始めたところで、植林教諭から鉄釘の加工に向けた説明が行われた。

まずは釘を十分に熱する必要があるため、大きめの木材をくべて火力を上げていく。その際、つねに酸素を送り込めるよう、ドライヤーの冷風を使う方法が紹介された。一斗缶の下部の穴にドライヤーをセットすると、やっとこで釘をつかみ、一斗缶の側面に開けられた穴から差し込んで台の上に置き、まずは釘の丸い頭部(ナイフの持ち手となる部分)を熱していく。5分ほどしたら取り出し、頭部が平らになるように、ハンマーで打ちつけていく。この工程は二人一組で協力しながら進めることになる。

植林教諭「自分で押さえて打つと、どうしても曲がってしまう。だからやっとこで釘を持つ役と、打つ役を交替しながら進めてほしい。」

釘の頭部を平らにしたら、今度はやっとこで頭部をつかみ、刃になる先端側を熱していく。熱した釘を打つときは、「力を抜いてハンマーを真上から落とすようにたたく」ことが大切だとアドバイスし、まっすぐ仕上がったナイフと、曲がってしまったナイフ、それぞれの例を示した。児童たちは、その説明を真剣な表情で聞き入っていた。

すべての説明が終わると、いよいよ児童たちのナイフづくりが始まった。

オレンジに熱した鉄釘を打つ

各班、火の中に鉄釘を入れて熱し、火力が弱まらないように薪をくべていく。釘を早く取り出そうとする班もあれば、「まだ火が弱いから待って」と慎重に様子をみる班もあり、児童たちはそれぞれの感覚で火と鉄に向き合っていた。

初めは釘が丸く、つかみづらいため、ハンマーで打つと飛んで行ってしまう。頭部をつぶして持ち手ができると、安定してつかみやすくなる。ペアの片方の釘を熱している間に、もう片方の釘の加工を進める。一人がやっとこで支え、もう一人がハンマーを振り下ろす。曲がらないように、「反対側からも打とう」「熱いうちに打たないと」と声をかけ合いながら、元気に作業を進めていく。

それほど熱くなくてものびる素材だが、作業を重ねるうちに、赤く熱されている状態のほうがよくのびることにも気づき、児童たちの声にも変化が出てきた。

「しっかり熱するといい感じになるよ。」
「急いでたたかなくても、ゆっくりでいいんじゃない?」

いつしか、自分たちの班だけでなく、ほかの班にもアドバイスし合う姿も見られた。また、火の熱さに「暑い!」と笑いながら話す姿もあり、熱気と楽しさで満ちていた。

仕上げの工程「焼入れ」

30分ほど交替しながらたたき続けると、早い班の釘は、先端が薄く平らにのび、ナイフの形になっていた。幅の均質性など、植林教諭のチェックに合格すると、最後の工程として、釘をオレンジ色になるまで再度加熱し、水の入った鍋に入れて急冷する「焼入れ」を行う。刃物づくりで硬度を高める工程だが、釘のような軟鉄の場合、ほとんど効果はないとされる。しかし、刃物づくりの工程を体験するという意味で、授業ではこの作業を取り入れている。

錆びないように、タオルで水気を拭きとり、自分のナイフに名前タグをつけて提出した。作業を早く終えた班には、植林教諭が「鉄骨でもつくってみる?」と声をかける。児童たちは「やる!」と即答し、五寸釘の3〜4倍ほどの太さがある鉄骨をじっくり熱していった。完成すればより大きなナイフができあがる。時間をかけて熱し、赤くなった鉄を前に「赤いうちに急いで!」と声をかけられながら、ハンマーを力いっぱい振り下ろす姿はとても力強かった。

  • 焼入れの作業

  • 薄くのびた鉄釘

  • 挑戦課題「鉄骨のナイフづくり」

  • 曲がったナイフを微調整

一方で、作業が思うように進まない班や、釘が曲がってしまった班には、植林教諭が寄り添いながら、「強くたたきすぎず、やさしくね」と声をかけ、ていねいにサポートしていた。

安全管理も徹底され、「うしろに火があるから気をつけてね」「たとえ革手袋をしても、熱いものには触っちゃだめ」といった呼びかけが繰り返された。児童たち自身もクラスメートに「ズボン、気をつけて!」と声をかけ、安全を確認しながら活動していた。

そして、無事に1時間の釘打ちは終わり、児童らは使用したハンマーなどの道具をきれいに整頓して、授業を終えた。

大変な作業を力いっぱいやっている姿から、児童たちのありあまるエネルギーとナイフづくりへの興味がうまく重なったように感じられた。

授業者インタビュー

不必要なつまずきをつくらない授業

学校法人和光学園 和光小学校の植林恭明教諭(工作技術科)

——今日の授業での子どもたちの反応はいかがでしたか。

植林 恭明 教諭(敬称略、以下、植林) ナイフづくりに打ち込む姿を見て、この題材が子どもたちに合っていると感じました。なかなか集中できない子もいますが、まったく手をつけられなかった子はいなかったように思います。

——植林先生が子どもたちに対して、「いいね」「いいじゃん」と何度も褒めていたのはとても印象的でした。

植林 大変な作業だということは、自分でもやってみてわかっているので、まずは子どもたちがそこまでやり遂げたことを認めてあげる必要があります。そのうえで、「ここをもう少しこうすると、もっとよくなるよ」と伝えないと、子どもたちは「なんでこんなに頑張ったのに」と感じてしまうのではないかと思います。

完成させる喜びは、ものづくりにおいて大切です。頑張ったのに最終的に失敗してうまくできなかったまま終わることも、体験自体には価値がありますが、子どもたちにとって残るものは、少し残念な気持ちだと思います。だから、授業では不必要なところでつまずきをつくらないようにしています。

——不必要なつまずきをなくすための工夫には、どのようなものがありますか。

植林 以前は七輪を使ってナイフづくりに取り組んでいましたが、七輪では上から火の中に手を入れる必要があり、子どもたちにとって、危険で、怖さもありました。そこで現在は、一斗缶に横から差し込める穴を開け、横方向から加熱できるように窯を工夫しています。

また、子どもによって得意・不得意があるため、不得意な子には十分な時間をかけてサポートすることを心がけています。一方で、得意な子が手持ちぶさたにならないよう、鉄骨でナイフをつくるという挑戦課題も用意しています。鉄骨は非常に硬く、これまで挑戦した先輩たちが途中で断念したこともあるほど、大変な作業です。それでも得意な子が挑戦している間に、私は不得意な子のフォローに集中できるため、結果として授業全体のバランスを保つことにつながっていると思います。

保護者と教師の理解と、経験の積み重ねが授業を支える

——鉄のナイフづくりは、子どもたちが自分で火を扱うため、安全面などのハードルがありますが、他の学校でもカリキュラムに取り入れることは可能でしょうか。

植林 子どもたちに適切な指導を行えば、できないことはほとんどありません。指導次第で十分に可能ですが、公立の小学校でこの授業を単発で実施しようとするとき、それまでの積み重ねがない場合は少しハードルが高いかもしれません。本校では、「つくりたいと思ったときに、必要な道具を安全に使えるように指導する」という観点から、1年生から生活べんきょうの時間に、ナイフの使い方や刺繍などを学んでいます。

——積み重ねがあって、はじめて授業に取り入れることができるということですね。

植林 いきなり授業に取り入れると「危険ではないか」という心配の声もあると思います。その点は管理職や同僚の教師だけでなく、保護者の理解も得る必要がありますね。

火を使う加工としては、5年生で粘土の焼成も行っています。ナイフづくりよりも、さらに大きな火を焚き、約30分で粘土を焼き上げる授業です。子どもたちは、やわらかい粘土がキラキラと光沢のある陶器になる様子に、とてもおどろきます。石膏でピーマンやゴーヤの型をつくり、そこに粘土を埋めるだけなので、技術的に難しいことはありませんが、釉薬をかけて焼くと美しい陶器になります。

こうした経験を得られる授業を実現するには、実践を重ねながら、保護者はもちろん、職場の教師集団の理解を深めていくことが大切だと感じています。

危険な行為の結果を感覚的に想像する力

——「鉄のナイフづくり」を始めたきっかけを教えてください。

植林 私は2013年から工作技術科を担当していますが、鉄のナイフづくりは、1970、80年代から和光小学校の特色ある取組に位置づけられていました。 昭和の子どもたちは、遊びのなかで金属が変化するようすに触れたり、自分なりのナイフをつくったりする経験を自然にしていたと思います。しかし、現在、町工場が身近にあるわけでもなく、ものづくりの現場そのものが子どもたちの日常から遠い存在になっています。

そのような背景のもと、人類の進化を支えてきた原点的な道具であるナイフを自分の手でつくり出すことには確かな価値がある、という考えが和光小学校にはありました。

——鉄のナイフづくりの授業を続けてきたなかで、子どもたちの受け取り方や反応には、どのような変化がありますか。

植林 危険なものに対する感覚が、うすくなってきているように感じます。たとえば、真っ赤に熱せられた炭は子どもたちも「熱い」とわかります。しかし、そこから少し温度が下がって黒くなった炭を見ると、「もう大丈夫だ」と思って手を伸ばしてしまう。刃は切れると教えられていても、触ってみて「本当に切れるんだ」と驚く。そうした場面を見ると、身近な生活の中で、「火は危ないからダメ」「包丁は危険だから触らないで」と遠ざけてしまうことで、かえって危険なものを危険なものとして認識する力が育ちにくくなっているのではないかと懸念を覚えます。

——危険なものを危険だと認識するためには、経験が必要になってくるのでしょうか。

植林 言葉で「危ないよ」と伝えても、頭で理解できることには限界があると思います。たとえば、熱いものに近づけば「熱い」と感覚でわかりますし、刃物に触れて痛みを感じることで、「これは危険なものだ」と実感できます。やはり、自分の手で触れたり感じたりする経験があってこそ、危険性をしっかりと認識できるのだと感じています。

火には強い魅力があります。子どもたちは火を見るだけで引きつけられます。火の力や美しさに魅了される感覚は、人類が長い歴史の中で育んできたものなのだと思います。だからこそ、危険性を理解しつつも、火と上手につき合い、その力を生かしていくことが大切です。そして、その魅力を子どもたち自身がしっかり受け止められるようにするためには、「つくる楽しさ」を同時に味わうことが欠かせないと感じています。

——「危険」という言葉だけではなく、実体験として知ることが必要なのかもしれないですね。

植林 直接結びつけて語るべきではないとは思いつつも、さまざまなニュースで悲しい事件を耳にするたびに、「それをしたらどうなるのか」という想像力が本当にあったのだろうかと感じることがあります。そうした事例を見ると、やはり危険な行為の結果を感覚的に想像できるような体験を、子ども時代に積んでおくことの大切さをあらためて感じます。

後編では、引き続き、植林教諭にものづくりを通して育てたい力やその評価、専科教員としての役割などについて伺います。

植林 恭明(うえばやし たかあき)

公立小学校で学級担任を5年間務めたのち、2007年に東京都世田谷区の私立・和光小学校に勤務。2013年からは「工作技術科」の専科教員を担当。ものづくりを楽しむことを大切に、「鉄のナイフづくり」や「ポンポン蒸気船」「ザリガニロボット」などの授業を展開する。
大学時代から民族舞踊を専門とし、和光小学校に事務局を置く民族舞踊教育研究会に所属する。民族舞踊を教育現場に取り入れ、教材化する活動にも取り組んでいる。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop