2022.10.10
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身近なテーマで「算数」を考え、楽しさを伝えたい(後編) 児童の主体性を引きだす授業づくり

愛知教育大学附属名古屋小学校で3年1組の担任を務める松田教諭。前編では身近なテーマを題材に、児童が日常生活と結びつけて主体的に学習できる算数の授業の様子を取材した。後編では、子どもたちの主体性を引き出すための授業づくりのポイントなどについて、松田教諭にインタビューした。

主体性を引き出す

愛知教育大学附属名古屋小学校 松田翔伍教諭

―「あまりのあるわり算」の単元でつまずきやすい点について、教えてください。

松田翔伍教諭(以下、松田) 大きく2つあります。1つ目は、思考の手順が多いという点です。「割り切れるわり算」は九九を思い浮かべると簡単にできるのですが、「あまりのあるわり算」は九九だけでなく、割られる数と割る数を考えて、引き算・足し算をしないといけません。

2つ目はあまりの処理の仕方です。あまりのあるわり算の計算に慣れてくると、計算の結果と計算の示すイメージが結びつかず、つまずいてしまう児童もいます。

「あまりの処理」を自分なりに考えて乗り越えていくことが重要なポイントではないかと思います。

―「あまりの処理」をとても具体的に扱っていたのが印象的でした。今回の授業ではどのような点を工夫されましたか?

松田 私が授業で意識しているのは「算数学習を通して主体的に学習に取り組む態度を育てる」という点です。主体的に学習に取り組む姿勢というのは大きく7つに分けられると考えているのですが、その中に「日常に活かそうとする」という姿勢があります。今回の単元でいえば、「あまりの処理」をどのように日常生活に活かせるのか児童に考えてほしくて、時間を多めにとりました。

子どもたちもたくさん意見を出してくれましたが、「〇〇あまり〇」という基本的な表現方法を教えつつ、他の表現方法や活用方法がたくさんあるということ強調できるように工夫しました。「あまりの処理」って日常生活のさまざまな場面で出てきますよね。それを子どもたちが具体的にイメージできるように授業を展開しました。

―授業の最後に出た「みんなの『あまり』を合わせる」という意見が斬新でしたね。

松田 実は、私も予想外だったんですよ(笑)少人数のグループごとに「あまり」を合わせるという考えは事前に想定していたのですが、クラス全員というのは想定外でした。時々、子どもたちの発想に驚かされることもあります。

失敗の中に価値がある

―この単元に限らず、クラス全員の子どもが考える楽しさを味わえる算数の授業づくりのポイントは何かありますか?

松田 私は「失敗の中に価値がある」ということを子どもたちに伝えたいと思っています。

算数は、正解・不正解がはっきりしてしまう教科です。挙手して発言をしても、誤答だったり、つまずいてしまったりする部分があります。でも、「正解を導くために必要な考え方」が含まれている場合が意外とあるんですよ。問題が変われば、効率のよい解き方になることもあります。

なので、教師が積極的に児童の失敗を取り上げて、それを次の学習に活かすようにするという流れを繰り返すことが大切だと思います。

一方で、大人であっても自分の失敗を他人にオープンにすることには抵抗を感じますよね。子どもたちも同じです。失敗を恐れない心を育てたいと思っていますが、子どもが失敗を怖がる気持ちを受け入れて、その気持ちに共感する必要があるなとも思います。実際、やってみると難しいですね。ずっと継続していくと、”フォロワー”が育ってきました。

―クラスの中の”フォロワー”って面白いですね。

松田 ある児童が間違った回答をした、解き方を間違えたなどの失敗をクラス全体に共有したとき、「〇〇さんの考えはこんなときに利用できるよ」などフォローしたり補足したりする子どもたちが増えてきたように感じます。

例えば、今日の授業でも、一人の児童が回答に詰まってしまったとき、隣の席の子がフォローしている姿がありました。「失敗することを心配せず、何でも自分の意見を言える雰囲気」の土台が重要だと思っていて、その土台の上に、「算数が面白い」「算数は楽しい」と感じる子どもが育つと考えています。

数学の楽しさを伝える

―問いを引き出すために開発した面白い問題と子どもの反応の具体例をいくつか教えてください。

松田 子どもたちが問題の中に「同じ点、共通点」を発見できると、算数が面白いと感じてくれます。

例えば、「3桁の筆算の練習」という単元では「1~6の数字を1つずつ使って、答えが一番大きくなるように式を組み立てよう」という問題を出しました。この問題の答えは「654-123=531」となります。

今度は「2~7の数字を使って答えが一番大きくなるように式を組み立てよう」という問題を出しました。前述の問題と同じで、「大きい数字から並べた3桁から小さい数字を並べた3桁の組み合わせを引く」という考え方で、答えも同じになります。

子どもたちは試行錯誤しながらも、2つの問題の共通点に気付きます。すると、もっと別の問題が作れないかと考えて、自分でカードを並べ替えて計算結果を出していました。「問題を自分で考えて、それを解く」という流れです。自然と筆算の練習もできますし、子どもたちが楽しんでできたかなと思います。

ここまでは私の想定内だったのですが、子どもたちの発想力は面白いですね。例えば、「1~8の数字カードを全部使って筆算の式を完成させる」とか「答えが全部111になるような筆算の式を作る」と考えた児童もいますよ。一度好奇心が芽生えると、子どもたち自身でどんどん先に進めるようになります。

新しい学習スタイルに順応する

―新学習指導要領になって何か変化はありますか。

松田 「関心・意欲・態度」という評価項目だったのですが「主体的に学習に取り組む姿勢」という表現に変更されました。

私自身、子どもたちの評価の仕方を変えました。ちゃんと子どもたちを評価するために、できるだけリアリティのある課題を出すように工夫するようになりました。

私は学習指導要領に示されている数学的活動を7つの姿勢に分類して、単元ごとに評価項目を決めています。評価するポイントと目標とする姿が一致するので、評価しやすいと思っています。

数学的活動に主体的に取り組む7つの姿勢
  1. 問い続ける姿
  2. 数学のよさに気付く姿
  3. 多様な考え・方法で考える姿
  4. 多面的・批判的に考える姿
  5. 日常に活かそうとする姿
  6. 学習に活かそうとする姿
  7. 数学を楽しもうとする姿

―教育実践研究サークル「群青」のメンバーとしても活動されていますね。詳しく教えていただけますか?

松田 「群青」は愛知県を拠点にしている勉強会グループで、月に一度、Zoomで集まって研究成果の発表や意見交換をしたり、著名な先生を招いた講演会を開催したりしています。小学校の先生が多いですが、中学校で教鞭をとる先生も参加していますよ。

このグループの特徴は「多様性」です。算数・社会科・学級経営など専門分野が異なるメンバーが参加して、自由に意見を言い合います。また、「研究と実践」を大切にしています。例えば、昨年度は「クラスの中で多様性を認め合う」というテーマで、メンバーそれぞれが取り組みました。

いろいろな先生の意見を聞くことで、自分の授業に役立てられるヒントが見つかるのが最大のメリットかなと思っています。メンバーは10名程度ですが、私のTwitterに連絡をくだされば、講演会などに参加してもらうことも可能です。

思いやりの心を育てたい

―算数学習を通して、どのような子どもたちになってほしいと思っていますか?

松田 「思いやりの心を育てたい」と思っています。算数の知識はみんなで作っていくものだという授業観を持っています。できるだけ多くの意見を出し合いながら、多くの人が納得できる答えを探していく、もちろん、斬新な意見や間違った意見も上手く取り入れて、その良さを見つけていくという授業をしたいと思っています。根底には「他者の考えに寄り添える思いやりの心」が必要です。

―今日の授業でも隣同士でフォローしあっていましたね。

松田 そういう姿を見られるのは嬉しいですね。徐々に「思いやりの心」が育っていると思います。クラス全員に同じ学力があるわけではないし、同じ考えでもありません。批判するのではなくフォローして、意見を取り入れてクラス全員で学んでいく姿勢が自然と育っていくようなクラスを目指して頑張っていきます。

記者の目

従来の算数の授業のイメージは、「教科書を開いて問題を解く」という流れを繰り返していたという印象がある。しかし、今回拝見した松田先生の授業で印象的だったのは「課題を日常生活に当てはめる」という点が強調されていたことだ。

児童たちは「あまり」をどのように処理できるのかを自分なりに考えていた。答えに行き詰まってしまう児童や誤答する児童もいたが、失敗したと思わせる雰囲気は感じられない。むしろ、それを活かそうと先生が誘導していたことで、「失敗の中に価値がある」という考えが子どもたちに伝わっているように感じた授業だった。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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