2022.01.17
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導入後半年で、9割以上の教員が1人1台端末をほぼ毎日活用(前編) 船橋市立葛飾小学校 校内授業研究会リポート

1892年に開校し、来年度130周年を迎える船橋市立葛飾小学校。全校児童数1,103名、35学級の大規模校だ。2013年度から船橋市教育委員会より10年間の「国際理解教育」の研究指定を受けており、9年目となる2021年度は、研究主題を「国際性豊かな児童の育成」とし、そのために必要な力の1つ:情報活用能力の育成に注力している。
1217日(金)に放送大学の中川一史教授を招いて実施された、校内授業研究会を取材した。今年度3回目となる今回は、教職3~10年目の3名の教諭が研究授業を行った。前編では3年生、1年生の算数の授業・事後研究会・講評をリポートする。

「国際性豊かな児童の育成」〜国際理解教育から国際教育へ〜

首都圏へのアクセスも良く、日本語教室もあるため、各学級1~2名の外国人児童が在籍する。1980年代から文部科学省の帰国子女・外国人児童生徒教育の研究校にもたびたび指定されてきた。他国や異文化を“理解”するだけでなく、“主体的に行動する”児童の育成を目指して、下記の3つの力の育成を図っている。

【他者理解・共生力】他者を受け入れ共に生きる態度・能力
【自己理解・相互尊敬力】自己を確立して相互理解を深める態度・能力
【情報活用能力】考えを表現して議論し、最適な結論を出して行動する態度・能力

研究授業① 3年算数

「辺の長さに目を向けて、なかま分けしよう。」

単元名:三角形
情報活用活用プロセス:3整理・分析
授業者:長田 晶人教諭

冒頭では前時に4種の色棒(赤6cm、黄8cm、青10cm、緑12cm)を使って作成した三角形の写真を確認。その後、教科書にもある9つの三角形を示し、教員が「おにぎりに似ている」「滑り台にできそう」などの見た人によって異なる観点をあえて提案し、どのような観点で仲間分けできそうかを考えさせた。誰でも同様の分け方ができる分け方にすべきと確認し、棒の色(辺の長さ)に着目した仲間分けをまず個別に実施。アプリ「ロイロノート」上で各三角形の画像をドラッグして、箱に入れながら分類し、分類名も付ける。グループ名を音声入力している子供もいた。

その後、3人1組で話し合った。自分の考えを相手に伝えるだけでなく、相手の考えをよく聞いて、意見を述べたり、相手の考えを自分の考えに取り入れたりするように指導している。紙で行うと、相手に見せようとして、三角形の紙片が床に散らばってしまうといったことが起きがちだが、タブレット端末を使うと、話し合いに集中できる。

グループで話し合った後に、全体に発表。子供たちが付けたグループ名:「みんな同じcm」「同じ形で、同じ色」「完全三角」などは「正三角形」、「赤が多い」「2つ長さが等しい」などは「二等辺三角形」と呼ぶと説明すると、「名前があるんだ」と驚きの声が上がる。「ロイロノート」のフラッシュカードでいろいろな三角形の写真を示して定義を確認。「もっとやりたい!」という声があがる。

まとめとして、 前時に自分が撮影した10枚の三角形の写真の中から、「二等辺三角形」「正三角形」を選択し、ロイロノート上で提出し、個人で理解できているか確認する。10枚の中にない場合は、先ほどの9種類の中から提出する。電子黒板上で自分が提出したものと他の人のを見比べて、違うなと思ったら、提出し直す。

次時は、色分けされない3辺とも黒い三角形について調べようと予告した。

事後研究会

事後研究会では、参観した校内の教員が集まり、ピンクの付箋に授業の良かった点、水色の付箋に課題点をメモして模造紙に貼って分類し、授業中の発言の文字起こしも見ながら、ディスカッションする。次のような意見が出た。

<良かった点>
・全員がロイロノートで提出することで、発言が苦手な児童が取り残されないことが魅力に感じた。間違っても「×」を付けられる前に、自分で直せていい。
・授業の入りとしては辺の「色」ではなく、「長さ」に着目できていた。
・三角形の仲間分けが上手にできない友達へのフォローができる児童が目立った。

<課題点>
・端末を使いながらのグループでの話し合いは、机の向きを変えないと画面を見せるのが難しいように思った。
・「直角」と角度に注目した児童が、本時ではただの「三角形」と分類されることに納得できていなかった。
・画像だと、大きい三角形も小さい三角形も同じ大きさになってしまう。

全体会・中川一史教授からの講評

算数として押さえるべき要素はしっかり押さえられていました。図形をグルーピングした際に、タイトルを付けていたのが非常に良いです。タイトルがなければ「ここで集められているのは一体何者?」と感じる子供は多いので、情報活用能力向上のためには理想的と言えます。グルーピング時のタイトル付けは算数に限らず継続してほしいですね。また、画面をタッチして物を動かす端末の機能を上手に活用されていたのも良かったです。操作がシンプルなので、子供も試行錯誤しながら取り組みやすいと言えるでしょう。

一方で、9つの三角形を分類する際、シートに予め枠を4つ設定されていたのが気になりました。枠があることによって、子供にヒントを与えてしまいかねません。時には足かせになってしまう可能性もあるので、枠作りについては今後よく考えるべきかと感じます。

授業② 1年算数

「28円の出しかたをかんがえよう。」

単元名:大きい数
情報活用プロセス:3整理・分析
授業者:山﨑 友士教諭

これまで10 までの数の概念を学習しており、さらに20までの数を “10 といくつ”という捉え方で学んでいる。なお、お釣りという概念はまだ習っていない。

冒頭では1 円玉、5 円玉、10 円玉の掲示物が黒板に提示された。硬貨には様々な種類があることを視覚的に確認させる。続いて、買い物で28円のガムを買うシーンを想定し、黒板にわざと29枚の1円玉を貼ってから、「他の出し方を考えてみよう」と問いかけ、ロイロノートを用いて28円の出し方を考えさせた。ロイロノート上の財布に入っている10 円玉、5円玉、1円玉を指でドラッグしてマスに入れながら28円の組み合わせを考えていく。1つのパターンを考えた後には、次のシートに行き、他の出し方も考える。

その後、自分が作成した組み合わせを隣同士で見せ合い、異なる組み合わせに驚きの反応を見せる児童も多かった。黒板に5種類の出し方が貼り出された。算数の教科書のまとめは、「お金の出し方はいろいろある」までだが、情報活用能力育成として、続いて「どの出し方が一番良いか」を考えさせる。

山崎教諭より28円を出す際には「10円玉2枚、5円玉1枚、1円玉3枚」という出し方が説明され、“枚数が少ないとなぜ良いのか”という問いが児童に投げかけられた。児童からは「枚数が少ないと早く出せる」「お財布から簡単に出せる」「間違えず、正確に出せる」という意見が出た。山﨑教諭が最初に提示した出し方に戻り、枚数が多いので間違って29枚出してしまったことに気付かせた。枚数を少なく出すことは、算数の“はかせ”(はやい、かんたん、せいかく)の観点に合致することを確認した。

まとめではタブレット端末はしまい、紙のプリントで52円のグミを買う場合の、一番枚数が少ない最適なお金の出し方を考えさせた。

事後研究会

参観した教員からは次のような意見が出た。

<良かった点>
・プリントとロイロノートの使い分けが上手になされていた。
・ロイロノートでお金をお財布から出していく手立てが良かった。
・買い物という身近な例を挙げたことで、算数の「はかせ」につながった。

<課題点>
・発表者、聞き手についての指導がもう少し必要に思えた。
・タブレット端末の操作に慣れておらず、具体物が必要な児童も何人かいた。
・硬貨は大きい順に出すことを伝えた方が良かったのではないか。
・5種類しかできないように硬貨の枚数を絞っていたが、算数としては12種類の組み合わせがあることを体験させても良かったのではないか。
・「買い物に行ったことがない」という発言を拾えていなかった。
・最適解を考える場面で、もう一度ペアで話し合っても良かったのではないか。
・「レジの人の立場からも、出された金額を確認しやすい」というのは、1年生には難しいので、買う人の立場だけで考えても良かったのではないか。

全体会・中川一史教授からの講評

ロイロノートのシートが5枚用意されていたのが良かったです。これにより子供たちは複数の出し方を容易に比べることができます。また、3年生の算数同様に、お財布から硬貨を出し入れする際、端末を指でタップして動かすという機能を上手に活用されていた印象です。児童の中には紙や具体物を使用した学びが向いている子もいると思いますが、とにかく今は、端末を使って慣れていくことが重要な時期。使いこなすことで今後の可能性もぐっと広がるでしょう。

一方で、授業の締めくくりで黒板に「お金の出し方は色々ある」と書かれていましたが、これでは“多様性への理解”で終わってしまいます。指導案に沿うのであれば「お金の出し方は色々あるが、少ないと早く出せる」というのが本来のまとめとして理想的と言えるでしょう。

後編では4年生の理科の授業・事後研究会・講評、授業者と秋元大輔校長へのインタビューをリポートする。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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