2022.10.10
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

身近なテーマで「算数」を考え、楽しさを伝えたい(前編) 愛知教育大学附属名古屋小学校「算数」授業レポート

愛知教育大学附属名古屋小学校で3年1組の担任を務める松田教諭。「算数の面白さ」をテーマに、単元と関連する日常生活の様々な題材を用いて、児童たちが単元のテーマを理解できるように工夫している。「教科書を開いて説明」という従来の形式ではなく、「児童たちが自分の考え・意見を持つ」という主体性を意識した授業を手がけている。2022年9月、松田教諭による算数の授業を取材した。

授業概要

学年:小学校3年生
単元:算数「あまりのある割り算」
授業者:松田 翔伍 教諭
使用教材・教具:電子黒板、ノート、おはじき

導入:クッキー屋さんをイメージしよう

授業本編に入る前、松田先生が学生時代に経験したアルバイトの話からスタート。今日の単元である「あまりのあるわり算」を「クッキー屋さん」をイメージして捉える。

「実はね、先生はケーキ屋さんでアルバイトをしていて、焼き菓子を袋に詰めるお仕事をしていたんだ」と切り出し、大きなスクリーンに焼き菓子の袋が一杯並べてあるお店の写真が映し出された。児童たちは、興味津々だ。

「今日は、たくさんあるお菓子を袋に詰めていくという場面に関連のある問題を一緒に解いていこう」と続ける松田教諭。画像や松田先生の実際のエピソードを利用して、身近なテーマと授業で取り扱う単元がどのように関係しているのか意識づけをしてから授業本題に入っていく。

つかむ:「わり算」の利用を促す

「クッキーを1袋に3つ入れます。□個仕入れたとき、みんなならどのように売るでしょうか」というのが本時の学習問題。すかさず、一人の児童が「□に入る数字は何ですか?」と質問する。

「仕入れる数つまり□に入る数が大事だね、例えば、6個で考えてみようか」と松田教諭。最初は割り切れる数を考えることによって、この問題は、「わり算」であることを児童たちに理解してもらう流れだ。

「さて、6個のクッキーを仕入れたら、何袋できるかな?隣の席の人と意見交換してみよう」

にぎやかな児童たちの声が教室に拡がった。

松田教諭は「どんな式だったら答えを導き出せるかな?」と質問する。その後、一人の児童が指名されたが「1袋3つずつと書いてあるから、6÷2=3?」と解答に行き詰まってしまった。

「いいところに注目したね。つまり、この問題はどうやらわり算を利用して解けそうだと予想できるけど、みんなはどう思うかな?」と、松田教諭は児童の答えではなく、着目点に注目。間違った答えであっても、児童の発表した内容を授業の展開に活かしていた。

松田教諭は、「この単元に限らず、算数の授業であっても、教科書はほとんど開かない」と授業後のインタビューで答えている。画像や教材を活用して児童のイメージを膨らませ、児童たちが自分で考える力を養えるようにしているのだ。

考えをもつ:お店屋さんをイメージして「あまりの数」を考える

松田教諭は、16個の”クッキー”(おはじき)が入った袋をクラス全員に配布した。

「3個ずつ袋に分けてみよう、どうなるかな?」と指示を出す松田教諭。児童たちは袋に入ったおはじきの個数を数えながら、3個ずつ袋に分けていった。

「手が止まってしまう人もいるね。どうしてかな?16÷3と式を書いている人が多かったけれど、ノートに自分の考えを書いて、隣の人と意見交換してみよう」

松田教諭は「わり算」を利用すること、どのように式で表現できるかを考えるよう促す。

「ピッタリ袋に分けるとすれば、どんな数字がよさそう?」と質問を投げかける。児童は口々に「3の段だと、ピッタリ!」と発言した。

「九九の3の段を利用した表現ができそうだね。自分なりに表現してみよう」

その後、「3個ずつ入れると、1つあまる」「6袋に分けたいけれど2つ足りない」という意見がでた。児童たちに課題を投げかけ、児童の考えを引き出しながら、会話するように授業を展開していくのが特徴だ。

考えを高める:「あまり」をどのように活用する?

「クッキーを3個ずつ袋に入れるとすると、5袋できそうだね。でも、1つのクッキーが残ってしまうのだけど、みんなだったら、どうする?」

算数の問題の答えとしては「5袋できて1つあまる」だが、そこで終わらない。単に答えを出すだけではなく、想像力を膨らませて「本当に自分がお店を経営していたら、どのように売るか」を考える。

ここからは「あまり」つまり「残った1つのクッキー」をどのように処理するのかを考えていく。

「店員さんの試食用!」
「他のメニューにサービスで付ける」
「もう2つあればいいのにな」
「違うメニューで売る!」

児童は、自分がお店を持ったことをイメージして自由に意見を出していた。

「違う発想があって面白いね。あまった1個をいろいろ活用できそうだ。隣の人とも意見を交換してみよう」

松田教諭の授業では、自分の意見だけでなく、他の人の意見を聞く時間を積極的に設けている。このように工夫することで、児童たちは「考え方の多様性」「多面的に考える力」を身につけることができるのだ。

「あまりの1個について考えているよね。流行りのSDGs的な考えで、残りの1個を上手に活用できる方法、あるかな?」

全員の「あまり」を合わせて売る

「3年1組焼き菓子店は、みんなで1つの会社だね。先生が各店舗(児童)にクッキーを配ったのだけれど、全部の店舗で1つずつあまったね。どうしようかな?」

ある児童が「みんなのあまったクッキーを合わせればいい!」と発言した。

「なるほど。クラス全員のクッキーを1つにまとめて、もう一回袋に入れるという意見だね。みんな分かったかな?一度、起立して、隣同士で意見を交換してみよう。意見の交換ができた人から座ってね」

今度は、全体の場で考えを共有する時間。児童Aが指名された。

「クラス全員の「あまり」を合計したら30個になる。それを3つずつに分ければ、ピッタリ分けれそう!」

その児童は計算式をはっきり答えることができなかったが、松田教諭は「いい考えだね。式で表すとどうなるかな?補足できる人いる?」と他の児童にフォローを促した。

児童Bが「30人全員のあまりのクッキーの合計30個を3つずつ袋に詰めれば、30÷3=10で10袋できるよ!」と児童Aのフォローをした。

「『あまり』を活用する方法はたくさんあるね。他にも考えがあったかな?後でみんなのノートを見せてもらいますね」と松田教諭の締めの言葉で本時は終了した。

レポート後編では、松田教諭が算数の授業で意識していること、児童の主体性を引き出すための7つの法則、近年、活用がすすめられているGIGA端末の活用方法やアドバイスについてインタビューする。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop