2022.12.19
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「対話」を軸に、表現力・思考力を育てる(後編) 書く力を土台に言語活動の充実を

木更津市立鎌足小学校で3年生の担任を務める山本教諭。前編では、国語の教材「八郎」を題材に、児童同士が対話を通してさまざまな気づきを得る授業の様子を取材した。後編では、対話を重視した授業づくりについて、山本教諭にインタビューした。

自分の考えを固め、他者の意見を尊重する

木更津市立鎌足小学校 山本裕貴教諭

―「対話」を授業に効果的に取り入れているのが印象的でした。「対話」を重視した授業づくりの目的について教えてください。

山本裕貴教諭(以下、山本) 3年生の教科書に文学作品の教材は5つあるのですが、1つ目の「白い花びら」という教材で、「主人公の心情はどんなだろう?」という、いわゆる普通の授業をやってみました。すると、なかなか感想を言語化・文章化することができなかったのです。それはつまり、自分の考えを文章化するレベルに達していないということ。

それに文学作品に対する感想には本来、正解はないはずなのに「オレが正解」と、自分の考えだけに陥ってしまいかねません。そこで残り4つの教材で、自分の考えを表現する力、他者の意見を聞いて考えを深める力を高める目的で「対話」を設定しました。

―今回の授業は「八郎」を題材にした3時間目とお聞きしました。どのように授業を進めたのでしょうか。

山本 「八郎」は同じ作者の「モチモチの木」の発展教材です。

実は、「対話」を取り入れた授業は「モチモチの木」でも行いました。その授業が終わった後に「同じ作者の『八郎』があるけど、同じようにやってみたい?」と聞いたところ、「やってみたいです!」と言ってくれたので、やってみました。

具体的な授業の進め方としては、感想文を書いてもらって、周りの友達と交流します。1時間目で着語読み、そして先生と一緒に教材を読み解いていきます。2時間目で物語の登場人物と結末について感想文を書きます。そして3時間目で感想文をもとに対話をし、出てきた意見をもとに物語の主題、深いところについて問いかけをします。

―「モチモチの木」から「八郎」という流れの中で、授業づくりでどのような工夫をされましたか。

山本 音読をしただけでは3割くらいの児童が物語の全体を掴みきれていません。そこで私たち教師が解説を入れながら読むことで、ほとんどの子どもたちが物語の全体像を掴むことができます。また、いきなり「話し合ってください」とだけ言っても話し合いをするのは難しいでしょう。

話し合いをする前に自分の考えを固める必要がありますから、まず自分の考えを感想文として「書く」。そのうえで話し合うように組み立てました。また「対話」にしても、話し合う目的を明確にするために、「〇〇についてグループで話し合ってください」と言うようにしています。

―「対話」と「会話」の違いをどのように考えていますか。

山本 「会話」は日常で交わされる何でもない話。「対話」は目的を持って話し合うこと。いろいろな解釈がありますが、私はそう捉えています。

また、「対話」には3段階あると考えていまして、一つ目が「人間関係形成的な対話」。隣の人と話すとか、話しやすい空気感を醸成するための対話です。

二つ目が「確認的な対話」。「教科書の〇ページを開けましたか?」というように確認を行います。

その上に位置するのが「生産的対話」です。対話を行うことによって何かを得ることができる、何かを生み出すことができる。この「生産的対話」に至るようにするには、「対話」に対する慣れが必要です。そのため、私の授業ではできるだけ取り入れるようにしています。

子どもたちの文章力を高めるための取組

―自分の考えを文章に表現する力を育成するために、どのような取組をしていますか。

山本 子どもたちが読書感想文に苦手意識を持ってしまうのは、学校で文章の書き方を教えていないからだと考えています。書く力を養う単元は年2~3回しかないのが現状です。つまり、作文を書く機会がほとんどないわけです。読書感想文を家庭学習に丸投げしてしまうのではなく、授業でしっかりと文章の書き方を教える必要があります。

文章を書く前に構成メモシートに何を書くかをブロックに分けて書いてもらいます。そのうえで下書きをして、清書をして…というふうに丁寧に教えていきました。小学校の段階では、先生が何度も書く練習をさせるのが重要だと考えています。

―先生のおっしゃっている3段階目の「生産的対話」の達成度はどのくらいでしょうか。また、達成するためにどのような取組を行っていますか。

山本 達成度は2割くらいですね。例えば「モチモチの木」で言うと、作家論に基づく主題を理解したうえで「オレはこう思うけど、君はどう思う?」ということまで言えてほしいのですが、なかなか難しいですね。

取組としては、まず自分の立場をノートなどに文章で書くことから行っています。自分の考えが固まったうえで、他者との違いを受け入れることが大事ですから。本時も友達が自分と同じ考えだったか、ちがう考えだったかを書くメモシートを配布しています。

―授業を見ていて、児童たち全員を「〇〇さん」と呼んでいるのが印象的でした。

山本 子どもたちには「君たちと先生とでは立場が違う。先生は目上なんだよ」という話をしています。目上だから礼儀正しくしなければいけないのですが、「人間としては対等だから丁寧な言葉遣いをします」と伝えています。子どもを子ども扱いしたくないという気持ちの表れです。

「対話型授業」に外部の人材を取り入れたい

―新学習指導要領になって何か変化はありますか。

山本 ポスターやリーフレットを制作するなど、言語活動に関する指導が増えたと感じています。新学習指導要領では、主体的・対話的で深い学びに到達するために、言語活動の充実が推進されています。それを受けてそのような単元展開が増えたのではないでしょうか。「対話」を軸とした授業づくりも、言語活動の充実を目指しています。

ただ、「発問中心の授業」も大切だと考えています。児童文学は一人でも読むことができるのに、なぜ先生と授業をするのか。それは自分一人では気づけない何かに気づくためだと思います。子どもたちの実態に合わせ、「言語活動型授業」と「発問中心型授業」を使い分けるべきだと考えています。

―今後、構想している新しい取組などはありますか。

山本 「学校外の人材との対話活動」をしたいと考えています。「モチモチの木」では、子どもと教師が3人組で、その前の「ちいちゃんのかげおくり」では、本校の4年生と3人組で対話を行いました。これらの取組は子どもたちから「いろいろな考えに触れるのがおもしろい」「教室以外の人とも対話したい」という願いを実現した形です。単学級なので、多様な意見に触れさせる機会の確保が課題です。

「モチモチの木」が終了し、子どもたちはさらに「学校以外の人と話し合いたい」と言うようになりました。保護者や中学生、市役所との連携なども視野に入れて取り組んでいきたいと考えています。それらを実現することが、子どもたちの国語に対する学力形成、学習意欲の向上を担うと期待しています。

記者の目

対話を重視した授業。グループを変えながら3人組で対話を行うのだが、グループ分けもスムーズに進行していく。自分の意見をしっかりと言葉にし、相手の話にも耳を傾ける。このような授業の進行を楽しみながら学んでいる児童たちの姿が印象的だった。国語という授業を通して対話を学び、「もっとたくさんの人と意見交換をしたい」と、学びに対して前向きな子どもたちの未来が楽しみになった。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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