2022.12.19
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「対話」を軸に、表現力・思考力を育てる(前編) 木更津市立鎌足小学校「国語」授業レポート

首都圏からアクアラインを使っておよそ1時間、自然に囲まれた場所に建つ千葉県木更津市立鎌足小学校で3年生の担任を務める山本裕貴教諭。物語を「読み」、感想を「書き」、友達と「対話」することで、児童たちが「自分の考えや意見を持ち、相手との違いを理解する」ということを意識した授業を手がけている。202211月、山本先生による国語の授業を取材した。

●授業概要

学年:小学校3年生(15名)
教科・単元:国語 斎藤隆介「八郎」(「モチモチの木」の発展教材)
授業者:山本 裕貴 教諭
使用教材・教具:黒板、ノート、メモシート、付箋(ファンレター用)

「八郎」の感想を伝え合って、対話をしよう

本授業は、「八郎」を使った授業の3時間目。1時間目に物語を読み概要を捉え、2時間目に感想文を書いていた。本時は自分が書いた感想文をクラスメイトと読み合い、対話を行うことで、自分の考えを深めていくことをねらいとしている。

「今日の学習目標は何でしょう?」という山本先生の問いかけに、児童たちは自分の考えを口々に言う。クラス全体の目標は「友達の感想文を聞いて、よいところをたくさん見つけよう」と設定された。

3人組をつくり、児童たちは自分が書いた感想文を順に読み上げる。児童たちは友達が書いた感想文を真剣に聞く。3人が読み終わったら5分程度フリートークを行い、さらに「ファンレター」と呼ぶ花型の付箋に、見つけたよいところを書いて友達に渡す。

グループを変えてもう1セット行ってから、元のグループに戻る。

自分の意見と友達の意見の違いを感じる

山本先生の「違うグループの中でこういう話をして、こういう意見があったと対話してください」という声に合わせて、児童たちは5分程度さまざまな意見を言い合う。対話が終わりメモシートに、対話して気づいたことや思ったことを書く。

全員が書き終わるのを見計らって山本先生が言う。
「八郎を読んで自分はこう思ったけど、対話してこう変わった、という意見をお願いします」

「命を落としても人の役に立ちたいという優しさ、八郎は優しいと他の人が言っていた」
「最初、八郎は怖い男だと思っていたけど、友達の感想を聞いて優しい男だと思うようになった」といった意見が出る。

そして山本先生が「本当の優しさと単なる優しさはどう違うんだろう?グループで話し合ってみてください」と発問し、対話を促す。児童たちは「本当の優しさ」について真剣に考え始めているように見えた。

本当の優しさって、なんだろう?

グループで話し合った内容を発表する。
「本当の優しさは人を助けること」

その意見に対して「納得できるかグループで話し合ってください」と、さらなる対話を促す。

「あなたはどんな意見ですか?」と先生に指された児童が「ふつうは命をかけて人を守ったりしない。だから八郎は勇気がある。それが本当の優しさにつながっている」という意見を言う。

その意見を受けて「自分だったら命をかけて人を守れることができますか?グループで話し合ってください」とさらなる対話を促す。

児童たちの間ではさまざまな意見が出る。
「ボクだったら守れない」
「気持ちはわかる」
「命は捨てられないけど、八郎みたいに山を海に投げ入れるくらいのことはして人を守ろうとはする」
「命は捨てられないけど守る」などなど。

中には「前は守れないと思ってたけど、守ろうとするに変えた」と、友達の意見に刺激を受ける児童もいた様子。

自分の考えを深めていく

「八郎」という教材が児童たちをどのように導くのか、山本先生の問いかけや友達の意見に児童たちは、必死で自分の考えをまとめようとしている。

「守りたいという人が比較的たくさんいるけど、自分の命を捨ててまで人を守れるという人はどれくらいいますか?」という山本先生の問いかけに、児童たちは一瞬考え込む。

それでも「自分は(命を捨ててでも)守れる」と挙手をして答える児童がいる。
「命をかけて人々を助けたけど、自分が死んでも後悔はしない」
この児童の答えを、山本先生はさらに深めようとする。

「八郎は死んじゃったわけだけど、後悔しながら死んだのかな?満足しながら死んだのかな?」
その問いかけに対し、グループ内でさらに対話を行う。

児童の意見に対し、さらなる問いかけを行うことで、児童たちも対話のコツをつかみグループ内での対話も徐々に熱を帯びてくる。「後悔しながら死んだ」と答える児童はおらず、全員が「八郎は満足して死んでいった」と答えていた。

教材「八郎」が導いた人の幸せとは?

児童たちの対話が終わり、いよいよ授業も終盤。

「今日の授業はそろそろ終わるので、先生の意見は言わなくていいよね?」といたずらっぽく微笑む山本先生。すると児童たちは「聞きたい!」「話して!」と口々に言う。

そこで山本先生は黒板に『利他』と書く。
「『利他』とは人の役に立つこと。先生は『八郎』を読んで「幸せとは人の役に立つこと」ということを伝えようとしていたのではないか、と考えています」。児童たちの反応はさまざま。

「八郎はなぜ大きくなろうとしたんだっけ?」
「分かりません」
「最初は八郎自身も分からなかったんだよね。でも、「分かった!」って言うんだよね。八郎が気づいたのは、自分が大きくなったのは人の役に立つため、ということだと思う」と説明すると、児童たちは理解したようにすっきりとした表情に変わった。

「八郎は人の役に立ちたかった。君たちも同じじゃないかな、と思います。人の役に立てるときに幸せを感じるのではないでしょうか?」
山本先生の意見に数人の児童が挙手をする。

「幸せには優しさが必要で、優しさには勇気が必要」という意見が出て、この日最後のグループでの対話を行う。
最後の意見と先生の意見に対し、児童たちは「同感!」と口々に言う。

「対話って面白いですよね。またこういう学習をしたいですか?」という山本先生の問いかけに「はい!」と元気に答える児童たち。ちょうどそのとき、授業の終了を知らせるチャイムが鳴った。

後編では、山本教諭に対話を促す授業の取組についてインタビューした内容をお届けする。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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