バックパッカーをしながら『日本の防災』について考えた
私が20代の頃,各国をバックパッカーをしていた時の話です。
治安があまり安定しない国を旅していた時,ある町の小さなバーで隣に居合わせた現地の方(Aさん)と仲良くなりました。話も盛り上がり,話題はそれぞれの出身国の話になりました。
すると,
「日本に住んでいて不安じゃないのか?オレは日本に住んでいるお前(私のこと)が心配だぞ!」
とAさんは言い出しました。
私は,治安の安定しないこの国の方がだいぶ心配だというニュアンスのことを返答すると,
「そうじゃないんだ。例えば,財布なら取られないように自分で努力したり,工夫したりできるだろ?それに気をつけなければいけないストリートも限られている。でも,日本みたいにいつどこで何が起こるか分からない自然災害が,あれほど多かったら,自分では防ぎきれないんじゃないのか?」
私は,ここで『日本の防災』について授業を通じて子どもたちと再考していきたい,と強く感じました。
特に,ここのお話に出させて頂いたような新興国では,『防災』に当てる国費の優先順位はかなり低い位置にあると言えます。
これらの経験や考察を職業柄生かすことのできる単元が,小学校第5学年社会科『環境とわたしたちのくらし(自然災害を防ぐ)』でした。
防災リュックの中に入れるものは?
毎回,この単元になると授業に取り入れる学習活動があります。
それが,この小見出しにもある
『防災リュック(非常用持ち出し袋)の中に入れるものは?』
を考えさせる学習活動です。
子どもたちは,事前にもっている知識や災害の状況(ここでは地震と仮定)を想定しながら,様々なものを取り上げ,考えていきます。
「非常食」に「水」,「ライト」や「ラジオ」,「着替えの服」といった一般的に知識として得ているであろうものから,「大きなビニール袋」(これは,敷物・雨合羽・水を汲む・傷の止血などの活用ができるのではないだろうか?という思考を深化させた子どもたちの意見が多く出たことが特徴として挙げられます)や「思い出の写真を焼き増しして入れておく」(被災地の映像で,自宅に思い出の写真を取りに行っている方々の様子を見たことがあるから。というのがこの理由でした)などの意見が出ました。
この学習活動の後,実際に被災された方々が必要とされたものをいくつか提示し,自分たちの考えと比較しながら,さらにその思考を深めていきました。
例えば,子どもたちの中からは出てこなかったもので,実際に被災された方々が在って良かったというものの一つに「履物(スリッパなど)」が挙げられます。この学びから,子どもたちは,被災した場所が自宅の場合,玄関からの避難しか考えていなかった避難経路という視野が複数に広がりました。
子どもたちが『自分ごと』として考えることができる社会科の中の『防災教育』
子どもたちにとって災害は,一般的になかなか身近な事象とは言えません。
身近ではない事象を子どもたちに『自分ごと』として考えさせることは,特に小学校段階では,容易なことではありません。
社会科では,『自助』『共助』『公助』という防災の視点から,その社会的視野の広がりに注目させながら単元を展開していくと良いのではないかと考えています。
具体的な事例で置き換えるならば,『自助』で防災リュックの中身を考え,『共助』で地域の避難訓練等のネットワークついて考え,『公助』で避難所設置等の自治体ベースの取組について知るといった形です。
前述したように,これからも,子どもたちと『防災』を結びつけていくこと,関わりづけていける手段やツールにスポットを当てた教材研究や授業づくりを行っていきたいと考えています。
さて,次回は,2月24日(水)の更新になります。第18期も残り2回の更新となりました。まだまだ未熟な教育実践ですが,今後ともご意見・ご感想等,何卒よろしくお願い致します。
中村 祐哉(なかむら ゆうや)
広島県公立小学校 教諭
「社会科教育」「国際教育」「ESD」をメインテーマに,日々授業実践と研究に取り組んでおります。拙い教育実践ではありますが,共に学ばせていただければ幸いです。
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