子どもの変容
前回は、3年生の実践を書かせていただきました。今回は4年生の実践です。「自然災害から人々を守る活動」ということで地域の防災の単元です。実はこの単元は、第8時の内容を過去に一度連載で扱っています。その時は「社会科の授業づくり~選択単元を有効活用する~」として、選択単元ではなかなか扱うことが少ないガス事業体の取り組みを防災と組み合わせたことを紹介いたしました。今回は、1時間の授業というより、単元全体の学習のこと、単元前と単元後の子どもの変容のことについて書かせていただきます。
大阪市立野田小学校 教頭 石元 周作
学ぶべき内容
防災についての内容は、今回の学習指導要領から本格的に導入されました。毎年、様々な自然災害が発生している現在、防災については子どもに限らず、大人でも、どの世代でも学ぶべき内容だと思います。
学習指導要領では、4年生は「県内などで発生した自然災害を取り上げ、地域の関係機関や人々による自然災害への対処や備えを通して地域社会について理解すること」、5年生は「国土において発生する様々な自然災害を取り上げて、自然災害と国土の自然条件との関係を通して国土の地理的環境を理解すること」とねらいが明確に区別されています。ですから、今回の単元では「大阪府の防災」についてになります。しかし、社会科を学習する3年生でも例えば「地域の防災」として、6年生では、政治の学習や防災の歴史などでも扱うことができるのではないかと考えています。
しかし、日本の防災教育については紙田(2021)が述べるように「『自助』『共助』を重視する防災政策を所与のものとし、それを実現できる個人の資質・能力をいかに育成できるのかを問題とする「社会化」の市民性教育に偏っている」という批判もありますが、4年生ですからまずは「自助」「共助」「公助」といった仕組みや関係機関の取り組みの理解からスタートと考え単元を構成しました。
単元計画
4年生が日常で使用している副読本の展開を参考に、以下のように単元を計画しました。扱う自然災害は、地震は必須ですが、大阪の場合は海に近いので、長年悩まされ続けてきた「風水害」も取り上げることが特徴的です。時間と問いで示します。
第1時 大阪府は自然災害にそなえてだれがどのようなことをしているのだろう。(学習問題)
第2時 地震や津波・高潮はどうやって起こるのだろう。
第3時 大阪府では、これまでに風水害でどのようなひ害があったのだろう。
第4時 水害に対して大阪府や大阪市は何をしているのだろう①。
第5時 風水害に備えて大阪府や大阪市は何をしているのだろう②。
第6時 地震や津波に対して大阪府や大阪市は何をしているのだろう。
第7時 地震や津波に備えて地域の人は何をしているのだろう。
第8時 地震や津波に備えてガス事業体は何をしているのだろう。
第9時 自然災害に備えて自分たちができることは何だろう。
第10時 自助・共助・公助で一番大切なものはどれだろう。
第2時~第4時、第6時が、自然災害に対する「対処」、第5時、第7時~第9時が自然災害に対する「備え」の学習です。授業者がその違いを明確に理解しておくことが必要だと思います。
第10時
単元で学んできたことをもとに、第10時に「自助・共助・公助で一番大切なものはどれだろう」という問いで学習しました。子どもの価値判断を問う、よくやられている実践だと思います。
先生 :みなさんはどう考えますか。どれが一番大切だと思いますか。まずは自助派の人から
子ども:やっぱり自助だと思います。まずは自分の身を守ることをしないと人も助けられないし、そうしないと共助もできないことになるからです。
子ども:子どものころから自助をやっていたら大人になっても大丈夫だし、普段から意識して備えていたら亡くなる人もいなくなると思います。
先生 :では共助派の人、お願いします。
子ども:地域で協力したほうがはやく助かることができます。
子ども:地域の人といると安心だし、近所の人と一緒に避難所にいくことができます。
先生 :なるほど・・では公助派の人、お願いします。
子ども:そもそも公助にしかできないことがあります。建物の修繕や改築など自助では難しいこともたくさんでてきます。
子ども:防潮扉や水門なども公助でしかできません。
先生 :ではここからフリーでどうぞ。
子ども:阪神淡路大震災のときに一番助かったのは自助だという資料がありましたやはり自助が一番大切だと思います。
子ども:自助というけれど家族もいるし、自分だけというわけにはいかないと思います。やっぱり協力がいるし、共助の考え方が必要だと思います。
子ども:自分がまずは助かってから、自分が避難できてから公助にいけると思います。
子ども:自助も確かに大事ですが、高齢者の人とか妊娠している人とかはどうするんですか。自助では難しい人もいると思います……。
自助派の子どもが一番多いのですが、最後の子のように災害弱者の視点をもつことは重要だと思います。3クラスで実践したのですが、2クラスでその視点が出てきました。いわゆる多角的思考ですが、社会科の良さだと思います。
怖さ度の変容
単元の一番最後に、学習前と学習後の自然災害に対する自分の怖さ度(恐怖度?)を明記しました。これは思いつきに近い感じだったのですが、子どもの変容を見取ることができて効果的でした。私の予測では、自然災害の学習を通して、その怖さが増し、自分事として捉え、備えの意識を高めるようになるだろうと思っていたのですが、結果はバラバラでした。つまり、子どもが学習前にもっていたイメージや概念によって違うということです。
学習前に自然災害を他人事のように思っていた子どもは怖さ度が増し、逆に「自然災害は怖い」と思っていた子どもは「対処」や「備え」の現状を学んで怖さ度が減少する傾向が見られました。このように変容が見られるということは、学習した意味があると考えることもできると思います。むしろ何も変容がなかった子どもがいることが自分の実践の反省材料になりました。
参考資料
- 紙田路子(2023)「市民的資質・能力を育成する防災教育の在り方―小学校第6学年社会科単元「水害から考える地域の防災」の設計を通してー」社会系教科教育研究,第33号,pp.1-10
石元 周作(いしもと しゅうさく)
大阪市立野田小学校 教頭
ファシリテーションを生かした学級づくりと社会科教育に力を入れて実践してきました。
最近は、書籍からの学びをどう生かせるかや組織開発に興味があります。
統一性がない感じですが、子どもの成長のために日々精進したいと考えています。
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