授業実践をマネするときに見落としやすい盲点
長期休業に入ると、講演会や研究会に参加される方も多いのではないでしょうか。
そこで出会った素晴らしい知見を「明日からの授業でさっそく使おう」と思うのは、教員としてとても自然なことです。しかし、学んだことをそのまま自分の教室に持ち込むことには、ちょっとした盲点があります。
今回は、私自身の失敗談とともに考えていきます。
千代田区立九段中等教育学校 廣瀨 紘太郎
公開授業の実践をまねして失敗した経験
教員になって3年目の夏、近隣の指導教諭の授業を参観する機会がありました。綿密に計画された授業の中で生徒たちの声が見事に引き出され、教室全体で知を創り上げていく様子は本当に素晴らしく、圧倒されました。
協議会の最後には、「ぜひ手ぶらで帰らず、使ってくださいね」と、すぐに使える言語活動例や教材プリントまで配布していただき、私は深く感動したのを覚えています。
「これなら自分のクラスでもできるはず!」と、さっそく教わった活動や教材を授業で実践してみました。しかし、結果はどうもうまくいきません。生徒たちの反応もイマイチで、空回りしてしまったのです。
今振り返ると、うまくいかなかった理由は明確でした。私は「文脈依存性」という大事な視点を無視していたのです。
文脈依存性ってなんだろう?
最近、鈴木宏昭氏の著書『私たちはどう学んでいるのか―創発から見る認知の変化』を読みました。
この本の中で鈴木氏は、人間の知性は特定の文脈と結びついて現れたり隠れたりする「揺らぐもの」だと述べています。また、文脈依存性を「同じ構造を持つ課題に対して、その課題が現れる文脈が異なると、まったく違った反応が出てきてしまうこと」と定義しています。
これを現場の体験に照らし合わせると、「他の教室でうまくいった方法が、自分の教室でも同じように作用するとは限らない」ということです。同じ教材を使っているのに、クラスによってまったく違う盛り上がり方をしたり、反応が変わったりする経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
生徒同士の人間関係、学級の雰囲気、これまでの学習の積み重ねなど、そうした見えにくい文脈が違えば、結果が変わるのは当然のことだったのです。
「あの先生だからできる」を乗り越える
素晴らしい実践や先進的な実践を見たとき、私たちはつい「あの学校(先生)だからできるんだ」「うちの生徒には無理」と諦めてしまいがちです。
逆に「そのまま真似すればうまくいく」と飛びついてしまうこともあります。しかし、一見正反対に見えるこの2つの反応は、どちらも「目の前の文脈を見落としている」という意味で、同じなのかもしれません。
本当に大切なのは、表面的な手法をそのまま模倣することではありません。その実践がどんな目的で、どんな文脈の上に成り立っていたのかという背景を、丁寧に読み解くことではないでしょうか。
授業実践の模倣から、自分の教室の翻訳」へ
他者の素晴らしい実践に出会ったとき、私たちがすべきなのは「模倣」ではなく「翻訳」なのだと思います。
ここでの翻訳とは元の実践を単に直訳するのではなく、自分の文脈に合うようにアレンジしていくということです。
「これを自分のクラスでどう生かすか?」と考えることから一歩進んで「自分のクラスの今の文脈に合わせるなら、このアイデアをどう翻訳しようか」と考えてみるのはどうでしょうか。
文脈依存性を知るということは、「人の真似をしても意味がない」と投げ出すことではありません。
むしろ、持ち帰ったアイデアを目の前の生徒たちに合わせて、悩みながら作り直すこと。それこそが、教員としての「専門性」そのものではないでしょうか。

廣瀨 紘太郎(ひろせ こうたろう)
千代田区立九段中等教育学校
「活動あって学びあり」をモットーに、日々研究・実践を重ねています。
教科の枠を超えて、多様な視点からものごとを捉え、表面的なことだけでなく、その背後にある文脈を大切にしながらよりよい教育のあり方を皆さんとともに探究していきたいです。
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