外部探究コンテストが教員にもたらす「最高の研修」効果
今年も2月、3月と、探究学習の全国大会が各地で開催され、私も生徒たちとともに会場に足を運んできました。 探究学習が全国の学校で本格的に導入され、多くの先生方が日々の指導や評価に試行錯誤されていることと思います。生徒たちの「やりたい」という思いをどう引き出し、どう伴走していくか。その難しさと同時に、生徒が予想を超えて成長していく姿に立ち会える喜びを感じている方も多いのではないでしょうか。
私自身、2006年頃から総合探究の取り組みに伴走してきました。その中で、外部の探究コンテストは生徒の学びを深めるだけでなく、私たち教員自身の生徒観や教育観を大きくアップデートしてくれる場でもあります。 今回は、生徒を外部コンテストへ送り出すことが、実は教員にとって「最高の研修の場」になり得るという視点から、その効果と魅力についてお話ししたいと思います。
花園中学高等学校 社会科教諭 伏木 陽介
外部コンテストで見えてくる生徒の本当の姿

外部大会の経験は校内の大会運営にも活きます
私が外部コンテストの持つ力に深く気づかされたのは、2018年に生徒とともに「全国高校生マイプロジェクトアワード」の全国Summitに伴走したときのことです。
全国から集まった同世代の高校生たちが、自らのプロジェクトを熱く語り、時に鋭いフィードバックを受け、真剣に議論を交わす。そして泣きながら、その探究活動の中での辛さや、葛藤も時には吐露する。その熱気あふれる会場で、私は自校や全国の子どもたちの生の姿を目の当たりにしました。
学校という見慣れた環境、教室という安全な枠組みの中にいるだけでは、生徒のそういった側面はなかなか見えにくいものでした。しかし、全国大会という他流試合の舞台に立つと、生徒たちは普段見せない表情や葛藤を表現してくれます。また、学校では見せない対人関係での姿にも心を動かされました。
極度の緊張、他者の発表に圧倒される焦り、自分の思いが伝わったときの喜び、そして思うようにいかなかったときの悔しさ。そうした感情の機微も含め、生徒が全身で学びに向かう姿を観ることは、教員にとって何よりの刺激となります。
「この生徒には、こんなにも熱い思いがあったのか」「こんなにも深く考え、葛藤していたのか」。そうした発見は、私たちが無意識のうちに持っていた「生徒は教員が導かなければならない」という特に教科指導などでも多く見られてきた生徒観を打ち破り、「生徒は自ら学び、他者と交わりながら成長していく力を持っている」という信頼へと書き換えてくれます。
学校内にいるだけではつかみにくい、この新しい視点を手に入れられることこそが、教員にとっても外部コンテストに伴走する最大の価値だと考えています。
外部の探究コンテストは生徒の変容のきっかけとなるばかりではなく、教師自体の教師観を揺さぶる、素晴らしいきっかけを与えてくれる場だと感じています。
全国の教員同士の「越境」と価値観の交流
外部コンテストがもたらすもう一つの大きな魅力は、全国から集まる教員同士の交流です。
学校という組織は、どうしてもその学校独自の文化や歴史、長年培われてきた当たり前の価値観(それはそれで大切です)に染まりがちです。しかし、コンテストの場で他校の先生方と対話すると、自校の文化とは全く異なるアプローチや価値観に触れることができます。
「そんな指導の仕方があったのか」「その視点は私たちには欠けていた」「うちの学校にはそのような文化はなかった」といった気づきは、日々の業務に追われる中や同じ学校の同僚との関係性の中では得難いものです。探究学習や教育の今に真剣に向き合い、悩み、挑戦している全国の教員の皆さんとの交流は、日常のルーティンワークとは全く違う感覚を呼び覚まし、明日からの教育活動に向かう強いモチベーションを与えてくれます。
また、探究プログラムの面でも大きな収穫があります。他校の優れた探究事例や、そのプロセスでの苦労話に触れることは、相対的に自校のプログラムの強みや課題を知る絶好のきっかけとなります。他校という鏡に映すことで、自分たちの現在地を客観的に把握することができるのです。
外部コンテストの評価基準を意識したカリキュラムの逆算

毎年作成する研究紀要作成の際にも、外部コンテストの知見を活かしています。
余談になりますが、外部コンテストへの参加を重ねていくと、学校内の授業づくりにも良い影響が還元されていきます。
探究の大会をある程度学校で厳選し、その傾向や評価の観点を分析していくと、それに合わせた指導カリキュラムや成果物の作成プロセスを、学校の正規の授業の中に組み込んでいくことも検討材料となってきます。
本校でも、先述の「全国高校生マイプロジェクトアワード」をはじめ、「高校生国際シンポジウム」や「自由すぎる研究EXPO」といった外部コンテストへの参加を意識し、そこで求められる定番の要素(問いの立て方の深さ、社会との接点、振り返りの質など)を日々の指導やポスター・論文といった成果物作成の工夫に落とし込んでいます。
コンテストの基準を目標として設定することで、生徒にとっても目指すべき水準が明確になり、探究活動全体の質が底上げされるという実践的なメリットを感じています。また、成果物を各大会の様式に準拠させることで、外部コンテストの出品がシームレスに展開できるように工夫することも大切です。
探究活動の「磁場」が生み出す越境の連鎖
私は現在、オンラインでの「東西探究交流会」という取り組みも主宰しています。これは、地域を越えて探究に関わる人々がつながる場であり、多くの大学生や学校の先生方の交流が生まれています。
外部コンテストの会場であれ、オンラインの交流会であれ、教育に熱意を持つ人々が集まる場所には、特有の熱を帯びた「磁場」が形成されます。このような磁場が全国の多くの場で生まれることで、教員も生徒も、学校という枠組みを越えて「越境」することの垣根が下がっていく。それこそが、私がこうした活動を通じて目指している目的の一つです。
探究学習は、生徒が社会という未知の領域へ越境していくプロセスです。ならば、伴走する私たち教員自身もまた、学校の外へと越境し、新しい風を教室に持ち帰る必要があるのではないでしょうか。
外部コンテストは、そのための最も身近で、最も刺激的な扉です。ぜひ越境のきっかけの一つとして、足を運んでみましょう。
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伏木 陽介(ふせぎ ようすけ)
花園中学高等学校 社会科教諭/中高一貫(ディスカバリー)コース統括・ICT担当、東西探究交流会代表
長年にわたり、探究学習のプログラム策定や実践に携わってきました。
学校や授業の改革には何が必要かを考え、現場でのチーム作りや実践を重ねております。
また、大学などの「学術知」を中高の教科指導とどう結びつけるかを追求し、共通テストの分析やICTとの接続等の教材開発に取り組んでおります。
こうした経験を活かし、未来の学びの創造に貢献したいと考えています。
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