なぜ今、「自走する学習者」が求められるのか?〜次期学習指導要領の論点整理と現場の接点〜(第1回)
「生徒の主体性を育てたい」という理想と、「決められたカリキュラムを時間内に終えなければならない」という現実。この狭間で、日々奮闘されている先生方は多いのではないでしょうか。
令和7年に公表された次期学習指導要領の改訂に向けた「論点整理」を巡る議論では、予測困難な時代を生き抜くために、一人ひとりの「好き」や「得意」を原動力とした学びの変革が重要視されています。個性を伸ばし、自ら人生を舵取りする「自走力」の育成もこれから強調される論点となりそうです。
しかし、私たち教員の目の前には現実が横たわっています。特に進学校においては、カリキュラムの網羅という義務感と、生徒の主体性を育むための余白の創出との間で、多くの先生方が深いジレンマにさいなまれているのではないでしょうか。
今まで筆者も、このジレンマに直面する先生方を多く目にし、そして自分自身が抱える課題としても対案を考え続けています。本稿では、教え込みから伴走へのマインドセットの転換について考えながら、生徒を学びの主人公へと誘うためのエンジンのかけ方について、共に考えていきたいと思います。
花園中学高等学校 社会科教諭 伏木 陽介
大学教員が語る「自走できない大学生」

「自分流の学び」に向けて(筆者の社会授業風景より)
いつも感じていることがあります。真面目に授業を受け、ノートをしっかりとまとめ、提出物を欠かさない。そんな誠実な歩みを進める生徒たちが、もし「自分で問いを見つける楽しさ」に出会えたら、学びはもっと可能性のあるものになるのではないか。
与えられた課題に真摯に向き合える彼らだからこそ、その先にある「次はこれを知りたい」「さらに深掘りしたい」「授業で説明されたが批判的に捉え直してみたい」というような、自分自身の問いが生まれたとき、その伸びしろは計り知れないものになるのでは。
文部科学省の「令和7年度(2025)全国学力・学習状況調査」の報告書によれば、主体的に学びを工夫していると回答した児童・生徒(小中)は8割前後になり、回答内容においては年々、肯定的なデータが出そろっています。
また、自分で問いを立て、解決に向けて情報を集めたり考えたりする学習について、肯定的な回答をしている生徒ほど平均正答率が高い傾向が継続しています。しかし、現場にはこの「8割」が授業以外の学びに展開している実感を感じているかといえば、なかなかそう言えない部分もあるのではないでしょうか。また、小中学校に対して、高校課程における同様の学習傾向が十分に担保されているとは必ずしも言えません。現に先述の論点整理においても「現在の学校教育の中で主体的に学びに向き合えていない子供も多くなっている」といった現状認識があります。
また、依然として不安な要素もあります。私事ながら、大学教員を務める友人に「最近の大学生の姿勢はどう?」と聞くと、決まって次のような返事が返ってきます。
「出席率は異常に高い。板書もよく取るし、質問もする。しかし自分の研究についてどのように考えているか聞くと、主体的に学び取ろうという姿勢が見えにくい学生も多い。自分で興味関心のある研究論文を探したり、自分流の学びをしてほしいんだけど、そうなってないね」
この統計への実感や話題提供が示唆しているのは、生徒たちの学びをより良くしていく上での課題です。すなわち、子どもたち自身が「学び」を柔軟に捉え、「教わる」といった価値を相対化し、「学びを生み出す」態度を育んでいく必要があるのではないだろうか。私たち教員は、これらの示唆から従来の指導観や生徒観にとらわれることなく、これまでの教え込む指導を相対化し、マインドセットを大きく変容させていく必要があります。
教えることの限界と「自走力」の必要性
例えば、これまでの教育における一つの目標として、定められたカリキュラムをいかに効率よく、漏れなく生徒に伝達するかというものがありました。特に進学校であればあるほど、大学入試という現実が控え、網羅的に教え込むことが学力担保の絶対条件であるといった義務感が存在します。学校へ向けられる期待や、従来の進学実績を踏まえた目標も、重くのしかかります。
しかし、一方で、現場の教員は気づいています。社会の変化が激しく、予測困難な時代において、教員が与えた知識を正確に再現させる能力だけでは、もはや十分な武器とは言えません。現場では、新しい学びの創出と、眼前において期待される目標のジレンマに苦慮しています。
今、生徒たちに本当に必要なのは、自らの興味・関心に基づき、課題を見つけ、解決に向けて主体的に行動する力、すなわち「自走力」です。学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」が唱えられて久しく、次期学習指導要領を見据えた議論の中でも、この主体性は、もはや単なるスローガンではなく、教育の成否を分ける最重要の鍵として位置づけられようとしています。このような教育の転回の中で、教師はこれらを日々の教育活動の中でいかに具現化するかも問われています。
主体性を獲得した生徒は我々の授業に留まらず学習を推進する。その想定、理想を現場の先生方は理解しています。
この理想と現実の間で、一つの仮説を立ててみます。実はその網羅性自体も、生徒が「自走」し始めれば、教員がすべてを背負わなくても達成できるのではないか、という仮説です。 探究活動を伴走する過程でも見られたシーンですが、生徒自身のものとなった学びは私たちの手を離れていきます。
しかし一方で、「さあ、自走的に学びなさい」と号令をかけたところで、学習の仕方がわからない生徒が突然走り出すわけではありません。彼らには、自走するためのエンジンのかけ方を実感させる必要があります。それは、単なる教科の知識伝達ではなく、学習に向かう姿勢そのものを育んでいくアプローチです。
「起爆剤」としての教育プログラムと教員の役割

「教科書の先にある世界」の面白さを伝える授業の創造へ(筆者作成の授業スライドより)
生徒が自走し始めるためには、何らかの起爆剤が必要です。それは例えば、自分の将来の目標やキャリアについて深く考える機会であったり、世の中のリアルな課題に触れる経験であったりします。
学校という枠組みの中で、生徒が自らの進路目標を主体的に設定し、学習の意義を見出すための意図的なプログラムを仕掛けることも、これからの学習活動の一つの方策となるのかと思います。例えばそれは、従来のホームルーム活動や総合的な探究の時間の枠ばかりに依存することなく、持続的、包括的に生徒のエンジンを探し、スイッチを押すための不断の取り組みだと思います。
このとき、教員に求められるマインドセットは、知識の伝達者から「伴走者(ファシリテーター)」への転換です。探究学習などではよく聞かれるワードですが、教科学習においても大切なマインドセットです。生徒がどこでつまずいているのか、何に興味を持っているのかを普段の授業・学校生活で注意深く観察し、適切なタイミングで問いを投げかけ、思考を促す。時には、生徒の興味関心を広げるために、アカデミックな教材を提示し、「教科書の先にある世界」の面白さを伝えることも重要です。
また、生徒の自走を促す上では、家庭学習の習慣化も欠かせない要素です。「何を勉強すればよいかわからない」という生徒に対して、自律的に家庭学習の内容を決められるよう段階的に指導していくことも、教員の重要な役割の一つです。先述の論点整理の中にも「家庭学習の内容を自律的に決められるような段階的指導」の必要性が言及されました。学習の形骸化を防ぎ、生徒が主体的に学びを設計できるよう、丁寧な伴走が求められます。
生徒を学びの主人公にしていくために

「本物の知」と接続する授業づくりへ(大学知と中高教育現場をつなぐ)
「自走する学習者」を育てることは、決して容易な道のりではありません。前述のように、教育には社会からの多面的な要請が存在します。特に高校課程では、日頃の教育活動が進路実現にどうつながるかを生徒や保護者が強く意識するため、主体性を重んじる指導が一見すると放任と誤解されたり、入試に直結しない授業が無意味と速断されたりすることもあります。
また、大人たちが自身の受けてきた授業や成功体験を前提に現在の学校教育に期待を寄せることもあり、教員はこれらさまざまな価値観に配慮しなければなりません。しかし教員側にも、子どもたちの将来や、彼らが築く社会を見据え、意識的にこれまでの指導スタイルを手放す勇気と、新たなアプローチを模索する姿勢が必要です。
次回は、生徒の自走力をさらに高める模索の一事例として、教室という枠を飛び出し、「本物の知」や「社会」と接続することの環境と意義について考えてみたいと思います。外部との連携や対話が、生徒の学びにどのような化学反応をもたらすのか。これからの教員はもちろん、広い意味では社会が持つべき「開かれたマインドセット」について深掘りしていきます。

伏木 陽介(ふせぎ ようすけ)
花園中学高等学校 社会科教諭/中高一貫(ディスカバリー)コース統括・ICT担当、東西探究交流会代表
長年にわたり、探究学習のプログラム策定や実践に携わってきました。
学校や授業の改革には何が必要かを考え、現場でのチーム作りや実践を重ねております。
また、大学などの「学術知」を中高の教科指導とどう結びつけるかを追求し、共通テストの分析やICTとの接続等の教材開発に取り組んでおります。
こうした経験を活かし、未来の学びの創造に貢献したいと考えています。
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