2022.03.25
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総集編 現場にエールを!日本と米国の学校の良いところBest 5!

前回、英語で"Think outside the box"という表現を紹介しました。箱の外側から考えてみよう、頭を柔らかくし創意工夫を凝らして考えてみよう!という考えを指しますが、未来の「教育」を考えるとき、この既成にとらわれない概念をもって様々な事を比較、違いを認識、そして共有することで多くの新しいことが走り出すのではないかと考えます。

「日本」という箱の外側から「日本」という国を覗いてみると、この国が他国に比べていかに安全で治安が良く、子育てがしやすいかといった肯定的な意見がよく聞こえてきます。そして「食育」や「情操教育」といった日本の教育の素晴らしさは、海外から多くの称賛を得ています。一方、2018年に実施された第三回OECD(経済協力開発機構)の国際教員指導環境調査「TALIS: Teaching and Learning International Survey」においては、なんと!「日本の教員の勤務時間は世界で最も長いが、授業時間は世界の平均より短い!」という、教師を取り巻く労働環境の醜さが世界的に浮き彫りになっています。文部科学省の教員働き方改革へ大きな期待を寄せながら、この問題に社会全体で本気に取り組んでいかなければ、現場の者の負担軽減、バーンアウト低減には繋がりません。更に言えば、この状況に変化がもたらされなければ、人を創る「教師」という専門職を目指す者たちは今後減少するでしょう。

このようなことを踏まえ、最終回は総集編、現場の先生方の皆さま、これから教師を目指す若い方たちにエールを送りたいです。日本と米国の学校の5つの良いところ、相互に取り入れたいことなどを5つに分けて以下に記しながら、Education Quotes 「教育の格言」を紹介していきます。

在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師 下條 綾乃

1.クラスが少人数制!支援クラス、ホームスクーリングやバーチャルスクール等、様々なサービスがある米国の学校

”The philosophy of the school room in one generation will be the philosophy of government in the next."
「一つの世代における学校の教室での思想は、次の世代における政府の思想になる。」Abraham Lincoln アブラハム・リンカーン

日本でも長年議論されている少人数制のクラス構成。少人数制教育の良いところは記したらきりがありません。教師は発表や質問、議論を中心として授業が進められ、子どもたちは周りと触れ合うことによって主体性を自然と身に付けることができます。様々な価値観を共有し、様々な事を経験する事で、子どもたちの表現力やコミュニケーション能力は向上し、教育的効果は、はるかに高いと考えます。
アメリカンスクールでは、1クラスの生徒数は、日本に比べて少人数で構成、低学年(幼稚園から2年生まで)は20人、高学年(3年生から5年生)は25人ほどとなっています。また専門科目クラスにはラージグループとスモールグループがあり、子どもたちはクラスに属しながら、能力や適性に合わせてそれらの専門科目クラスに個別に参加することとなります。
小学校ではラージグループと呼ばれる体育、美術、音楽、語学等の通常専門科目の他に、スモールグループと呼ばれる上級学問プログラムAAPS(旧ギフテッド教育)や算数、リテラシーサポート(読み書きなどをサポートする識字教育)、学習支援などの少人数クラスがあります。
指導支援職員はニーズのある子どもたちをサポートし、学校カウンセラーや心理学者が複数常駐しています。コロナ以前は親は希望すれば教室でボランティアすることができました。ホームスクーリングや、コロナ禍で学校に行くことを避けたいファミリーの為に完全リモートのみのバーチャルスクールもあります。多種多様です。

2.教室や校庭には学びの仕掛けがいっぱい!第2の居場所でもある米国の学校

“I have no special talent. I am only passionately curious.” 
「私には何も特別な才能はない。ただ情熱的に興味があるだけだ。」Albert Einsteinアルバート・アインシュタイン

教室の隅にゆったりできるソファがあり、中央には図書コーナーやゲームコーナーがあり、壁や天井にカラフルな学びの仕掛が沢山飾られている、比較的大きな教室。うちにいるような居心地の良さ、ワクワクした気分で意欲的に取り組める、飾りつけであふれた教室環境は学びを助長させます。
校庭は万が一遊具から落下しても安全なように、グランドにはゴムが入っていて歩くとフカフカします。まるでアミューズメントパーク「夢の国」のような、子どもたちの五感を刺激する仕掛けや工夫が校内屋外あちこちにちりばめられています。
子どもたちは皆、割と自由な恰好や髪型で自分を表現して毎日登下校します。アメリカンスクールでは、外見や容姿の制限は、時として差別、不平等にあたります。しかし、「自由は権利であるが、そこに責任が伴う」という大事なメッセージを忘れてはいけないのも、米国の学校の特徴です。

3.日本に比べて教師の負担が少ない!労働時間の8割が「授業」を占める米国の学校

“Education is our passport to the future, for tomorrow belongs to the people who prepare for it today.” 
「教育こそが未来へのパスポートである。明日という日は今日準備をする人々のものである。」Malcolm X マルコムX

「TALIS」国際教員指導環境調査でも示されているように、米国の教師の労働時間の8割は授業に費やされています。一方で、日本の教員は世界でトップレベルの長時間労働を強いられながら、その「授業」が占める時間は5割にも満たないという驚きの結果を知ることができます。
労働環境が整備された米国の学校では、教師は毎日昼休み時間、授業準備時間(授業以外に準備する時間)があります。教職員の就業時間、子どもたちの学校生活の時間はしっかり定められています。保護者は子どもたちが安全に登下校できるように前後のその時間を管理する義務責任があるので、時間外で起こった出来事に、学校管理者や職員が関与するということはありません。
そして学校には子どもたちの問題行為の指標があり、その指標に基づいて学級担任、カウンセラー、学校管理者の役割分担が明確に決まっています。必要に応じて教室での生徒指導からカウンセラーや心理学者への照会、教室での観察記録及び面接そして学校管理者への橋渡しがあり、その指標をもとに保護者とも面談を行います。
その流れは非常にスムーズで迅速です。クラブ活動や部活動も完全に外部委託であり、希望すれば教員も部活の顧問を有料ですることができ、兼業が許されています。

4.食育、情操教育の活動面で世界的にも評価の高い日本の学校

“Education Breeds confidence. Confidence breeds hope. Hope breeds peace.”
「教育は自信を作り出し、自信は希望を生み出し、そして希望は平和をもたらす。」Confucis 孔子

日本の学校の学校給食の質の高さ、バランスの良さは世界的にもトップレベルです。管理栄養士が立てたバランスの良い献立のもとに赤、緑、黄色に分けられた彩りの良いプレートは食欲をそそります。
更に子どもたち自身が給食指導を行ったり、器に食を盛り、使用した材料の発表などを行っている風景を見ると、日本の学校では既にProject Based Learningの要素がずいぶん前から学校生活の活動一つ一つに見られます。学校活動の中で教師間のCollaboration Teachingが自然と行われています。
米国の給食は好きなものだけを選んで食べることができるので、栄養バランスが偏りがちです。また米国の学校は、清掃員が雇用されていることもあり、日本の学校の「みんなで使う場所をきれいにし、きれいに保つことを心がける」意識が、米国の学校ではあまり芽生えないように思えます。日本の給食や清掃、様々な活動の時間は、こういった側面から米国の教育者の間で、大変評価されています。  

5.安全な国、日本で子どもたちは安心してのびのびと教育が受けられる!日本の学校

“Intelligence plus character - that is the goal of true education.”  
「知性プラス個性、それが真の教育のゴールだ。」Martin Luther King Jr マーチン・ルーサー・キング・ジュニア     

163か国の国を対象にその政治情勢や人権侵害の状況、国内の犯罪数や近隣諸国の関係などの20項目以上の数値を評価、順位を付けた世界平和度指数(Global Peace Index) をみてみると、私達の暮らす日本は、毎年ベスト10に入っています、世界的に治安が安定した国として評価を得ていることも納得です。日本の学校では、ほとんどの子が歩いて登下校します。場所によっては一人で電車やバスを乗り継いで学校に行く日本の子どもたち。世界的に安全な国、社会が構築されている日本で幼いころから自分で行動することが許されている日本の子どもたちは、なんと自立心、分別があるんだと考える米国人は多いようです。
米国には、まずかわいい子には一人で旅をなかなかさせられない、お国事情、治安状況、地域の安全性が深く関係しているとも考えられます。スクールバスが採用されている米国ですが、ある年齢までは、スクールバスを待つ時間も大人が引率しなければならない、一人では出歩かせてはいけないなどといった決まりがあります。そして、日本に比べて子どもの誘拐が多発する米国では大人は決して子どもの手を離しません。スーパーやショッピングモールなどで子どもが自分でトイレに行くといった事は決してありません。日本の治安の良さ、社会が与える安心感や安全さ、そして学校を取り巻く環境は、米国に比べて素晴らしいと考えられているようです。                 

読んでくださった皆さま、この半年間お付き合い下さり誠にありがとうございます。

私達の

”Teaching is the one profession that creates all other professions.”
「教師という職業は他のすべての職業を生み出す唯一の職業です。」Unknown 不明

”Kids don’t remember what you try to teach them.  They remember what you are.”
「子どもたちはあなたが教えようとしたことを忘れるかもしれない。しかしあなたという人間を覚えているものです。」Jim Henson ジム・ヘンソン

誇りを持ち、そして

​​​​​​​“Empower today's students to be tomorrow's leaders"
「今日ここにいる子どもたちが、 明日のリーダーになる為の力を与えよう!」 Our School Purpose 私の勤める学校の目標

これからも共に頑張りましょう!     

下條 綾乃(しもじょう あやの)

在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師
日本語学校や領事館等で日本語を教えた後、米軍基地内の公立アメリカンスクールで日本語日本文化を教えて20年ほどになります。何年経っても毎日驚きと気づきがあり、それらの一部を皆さんと少しでも多くシェアできたら嬉しいです。外国の子供達に自分の話す言葉や習慣、文化を教えることの楽しさ、難しさ、面白さを呟いていきます。

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