AI時代の授業づくりで大切にしたい 「遠回り」をつくる仕事
授業では、ときに「すぐ教えない」「待つ」「寄り道を許す」といった、一見遠回りに見える営みがあります。
けれど、その回り道の中でこそ育つ学びもあるのではないか。
AIで近道をつくれる時代だからこそ、教育に残したい「遠回り」について考えます。
兵庫県西宮市立総合教育センター 指導主事 羽渕 弘毅
子どもの言葉を待つ時間から見えてくるもの
授業をしていると、子どもの言葉を待つ時間があります。
以前、外国語の授業で、自分の好きなことを伝え合う活動をしていたときのことです。ある子が言いたいことはあるのに、うまく英語にならず、途中で止まってしまいました。
すぐに教師が言い方を教えれば、その場は進みます。けれど、そのときは少し待ってみました。
すると隣の子がぽつりとヒントを出し、本人がもう一度言い直してみる。少し違う。また言い直す。周りも耳を傾けている。
そして最後に…伝わった。
ほんの短い場面でしたが、今でもよく覚えています。
考えてみると、教師はこうした「遠回り」を日々つくっているのかもしれません。
問いにすぐ答えを返さない。
沈黙を急いで埋めない。
うまくいかなかったら、もう一度考えさせてみる。
説明してしまえば早いことを、あえて急がない。
効率だけで見れば回り道かもしれません。けれど、学びは案外、その回り道の中で深まるように思うのです。
子どもの迷いや言い直しには、考えが育つ寄り道があるのかもしれません。
「待つ」ということも、ただ見守ることではなく、学びを信じる働きかけなのだと思うようになりました。
遠回りは無駄ではない
教師になりたての頃、私は沈黙が怖くて、ついすぐ説明していました。
間が空くと、不安になる。
正解に早く連れていってあげたくなる。
きっと、そう焦ってしまうのは自然なことなのだと思います。
子どもが困っているように見えると、助けたくなる。授業を止めたくないと思う。うまく進めたいと願う。
その気持ちは、教師としてごくまっとうなものでもあります。
だからこそ、「待つ」というのは簡単ではない。
でも、少しずつ、即答しないことにも意味があると感じるようになりました。
子どもが考える余白を残すこと。
すぐ正解に連れていかないこと。
ときには寄り道を許すこと。
それも授業づくりなのだと。
教育には、最短距離では育たないものがあります。
迷いながら考えること。
友達とのずれに気づくこと。
試しながら、自分なりの納得に近づくこと。
教師がつくる遠回りとは、子どもに「考えが育つ寄り道」を経験してもらう時間でもあるように思います。
近道をつくれる時代に、どんな回り道をつくるのか
最近は、AIによって効率を生み出す方法を考えることも増えました。
教材づくりも、情報整理も、以前より速くできることがある。これは大きな可能性だと思います。
けれど、そのとき同時に考えたいのは、何を効率化するかだけではなく、どんな遠回りを残すかという問いです。
むしろ、近道をつくれる時代だからこそ、あえて急がない時間や、試行錯誤する余白をどう設計するかが問われているのかもしれません。
AIで近道をつくれる時代に、どんな回り道をつくるのか。
この問いは、これからの授業づくりにとって、とても大事な問いのように思います。
山を登るとき、まっすぐ頂上へ向かう道ばかりではありません。回り道に見える山道の方が、無理なく登れたり、思いがけない景色に出会えたりすることもある。
学びも、少し似ているのかもしれません。
教師は、子どもを遠回りさせているのではなく、遠回りの中でしか育たないものを信じている。
そう考えると、「遠回り」は教育の弱さではなく、強さなのかもしれません。
子どもが育つのは、一直線の道だけではない。
ときには、考えが育つ寄り道がいる。
近道をつくれる時代だからこそ、どんな回り道を残すのかを考えたい。
そんな問いを持ちながら、今日も少し遠回りのできる授業でありたいと思うのです。

羽渕 弘毅(はぶち こうき)
兵庫県西宮市立総合教育センター 指導主事
専門は英語教育学、学習評価、ICT活用。高等学校や小学校での勤務経験を経て、現職。これまで文部科学省指定の英語教育強化地域拠点事業での公開授業や全国での実践・研究発表を行っている。働きながらの大学院生活(関西大学大学院外国語教育学研究科博士課程前期)を終え、「これからの教育の在り方」を探求中。自称、教育界きってのオリックスファン。
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