2025.12.26
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資料を生かした発問と学習活動の工夫による社会科の「調べる活動」の充実

社会科の授業の中核となる「調べる」活動。
この活動を充実させるための手立てについて紹介します。

姫路市立白鷺小中学校 主幹教諭 竹内 哲宏

資料を生かした発問の工夫で学びを深める

社会科における「調べる活動」は、子どもたちが社会のしくみや課題を主体的に理解していくための中心となる学習です。その土台となるのが、多様で質の高い資料の活用です。地図、文書、統計、写真、動画、絵図、そして実物資料や見学、ゲストティーチャーなど、資料の種類は多岐にわたります。「資料は社会科の命」という言葉があるように、質の良い資料を提示することは社会科の授業には必須です。しかし、どれほど質の高い資料であっても、子どもたちに提示しただけでは学びは深まりません。資料に内在する本質を引き出し、学びにつなげるためには教師の「発問」が不可欠です。

発問によって災害が社会に与える影響を考える

 

図1 社会科の発問(筆者作成)

例えば、「災害が起こるとどのような被害が出るでしょう」という問いに対して、【橋が壊れている写真】を提示するとします。まず、「写真から何が読み取れますか」と発問します。すると、子どもたちは「橋や道路が壊れています」と答えます。続いて、「橋や道路が壊れると、どうなりますか」と発問すると、「車が通れません」という答えが返ってきます。
そこで、そのように答えた子どもに「どんな車を想像しましたか」と問いかけます。この問いかけによって、子どもたちはそれぞれ異なる車を想像します。例えば、「乗用車」と答えた子には、さらに「どんなことに困りますか」と問いかけます。すると、「仕事に行けない」「習い事に行けない」「買い物に行けない」など、乗用車を使った日常生活を想起していきます。
別の子どもは「トラック」と答えます。同様に、「製品を運ぶことができない」「材料を運べない」「商品が届かない」といった困りごとが挙げられます。
また、「パトカー」「消防車」「救急車」を想像した子どもからは、「けが人や病人を運べない」「救助に行けない」といった意見が出されます。このように、【橋が壊れている写真】という資料を基に発問を重ねることで、交通網が分断されることによって、「生活や産業に影響が出たり、救助が遅れたりする」といった、災害による社会的な影響を捉えられるようになります。

教育学者の大前暁政は、私たちは自分が知っていることや重要だと考えている物事柄しか認知できないと指摘しています。そして、子どもの認識を飛躍させるためには、「発問」が重要であると述べています(大前2024)。社会科においても、子どもたちが資料から事実を読み取るだけにとどまらず、そこから社会のしくみを考えられるようにするためには、教師による意図的な「発問」が必要となります。(図1)

以上のように、資料を効果的に生かした段階的な発問を行うことで、子どもたちは目に見える事実の理解にとどまらず、その背後にある社会のしくみや影響まで思考を広げることができるようになり、調べる活動が充実します。

主体性を発揮する学習活動の工夫

板書(人々のくらし)

調べる活動は、資料から情報を《収集する段階》と、読み取った情報を《整理・分析する段階》に分けられます。これらの学習活動を充実させることで、子どもたちは主体的に資料と向き合うことができるようになります。学習活動を充実させる方法としては、「資料の選択」「学習形態の選択」「調べる対象の選択」が挙げられます。
「資料の選択」では、教師が一方的に与えた資料だけでなく、教科書や資料集、インターネットなどから、子ども自身が資料を選べるようにします。「学習形態の選択」では、一人で資料に向き合うのか、仲間と協働して資料を読み取るのかを選択できるようにします。「調べる対象の選択」とは、何を調べるかを子どもが選ぶことです。例えば、兵庫県と国際交流のある国について学習する際に、自分の興味・関心のある国を選んで調べるといった活動が考えられます。

また、個人・グループ・全体を往還するように授業をデザインすることも効果的です。ここでは、6年生の歴史学習において、アジア・太平洋戦争下の人々のくらしを学ぶ授業を例に挙げます。(板書参照)  

まず、写真資料を基に国家総動員法について知り、本時のめあてを把握します(全体)。次に、戦争中の人々のくらしについて、「服装」「食べ物」「すまい・生活」という視点から調べます(個人)。その後、どのような生活であったと言えるのかを交流します(グループ)。
さらに、「当時の人々は、戦争に反対[しなかった?][できなかった?][する考えもなかった?]」と問いかけ、人々の戦争に対する認識について考えます(個人)。続いて、当時使用されていた教科書や新聞記事などの資料を提示し、戦争中、人々が精神面においても統制されていたことに気付けるようにします(全体)。最後に、本時の学習を振り返り、まとめを行います(個人)。

このように、学習活動の段階や形態を意図的に構成することで、子どもたちは多面的に資料を読み取り、歴史的事象を自分事として捉えながら、より深い理解へとつなげることができるようになります。

調べる活動を社会科授業の中核にするために

社会科における調べる活動を充実させるためには、質の高い資料の提示と、それを生かす教師の意図的な発問、さらに子どもが主体的に関われる学習活動の構成が不可欠です。こうした工夫の積み重ねが、調べる活動を社会科授業の中核として機能させ、主体的で深い学びの実現につながります。

竹内 哲宏(たけうち てつひろ)

姫路市立白鷺小中学校 主幹教諭


世界遺産姫路城の目の前にある姫路市初の義務教育学校に勤めています。
資質・能力を育成するための授業づくりを中心に発信できればと考えています。

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