2025.06.11
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毎年違う卒園式―先生の個性が光るアメリカ・モンテッソーリ園より

アメリカのモンタナ州ボーズマンという町でモンテッソーリ保育士として働きながら、大学院で学んでいます。
今回は、6月の卒園式の準備を通じ、保育園での様子をご紹介します。

ボーズマン・モンテッソーリ保育士 城所 麻紀子

現場を支えるシンプルな原則

ボーズマン・モンテッソーリでは、驚くほどシンプルなルールのもとで日々が営まれており、過ごし方や行事の準備も、先生の裁量によって大きく異なります。
今年は6月25日に卒園式を予定しており、卒園する3人の子どもたちはガウンを着ることになりました(私が知る限り、初めてです)。今まさに、その準備が進められています。

モンテッソーリ保育園には、行事を含め、指導や運営について細かなマニュアルはありません。先生方が意識しているのは、「3Dを避ける」というシンプルな原則です。3Dとは、Danger(危険なこと)、Disturb(他の子の学びの邪魔)、Disrupt(クラスの秩序を乱す)の3つを指します。これらに当てはまる行動をしないことが、教室での最大の原則です。

この「3Dを避ける」ことは、子どもたち自身が日々意識して取り組むべき基本的なルールでもあります。先生は、その原則を繰り返し伝えたり、子どもの様子に応じてサポートします。
また、教室内では「仕事(ワーク)」の時間、外では「遊び(プレイ)」の時間と明確に分かれています。時には外でも、「雪かき」「落ち葉掃き」などの仕事が優先されることもあります。子どもたちもこの原則を繰り返し伝えられているため、よく理解しています。

こうした原則を組み合わせると、例えば教室(仕事をする場)で大声を出す子どもがいれば、「今は仕事の時間だから、他の子の集中を妨げてしまうよ」と伝えることもあります。また、状況や子どもの様子に応じて、別のワークを提案したり、外に誘い出したりすることもあります。先生はこの大きな原則をもとに、その都度自分で判断し、子どもたちに対応しています。

ちなみに、モンテッソーリの教室で最大のタブーは無秩序(カオス)であり、普通の声で話すことすら推奨されません。地声が大きい子どもには、ささやき声を意識するよう指導します。

アメリカ流の行事―卒園式の準備から本番まで

このような運営方針は、卒園式の準備にも表れます。園としての決まったやり方はなく、主任の先生のやり方によって、内容が大きく変わります。
私が最初に経験した年は、主任の先生が行事をあまり重視されない方で、特別な準備もありませんでした。歌の先生が熱心に歌を教えていたので、卒園式はほぼ子どもたちの歌だけというシンプルなものでした。
一方、2年目は行事を重視する主任の先生で、歌の練習も歌の先生の指導だけではなく、主任の先生が自ら歌の練習を何度も繰り返しました。席順や動きも細かく決めて、直前の一週間は毎日リハーサルをしました。

このように、先生によって指導や準備の仕方が全く異なることに、最初は驚きましたが、今では「これがアメリカ式、少なくともボーズマン・モンテッソーリ式なのだな」と理解しています。

現場の柔軟さが育む力

この現場の柔軟さは、アメリカの教育全体にも通じています。たとえば、アメリカには国全体で統一された教科書がなく、モンタナ州でも教科書の選定は学区レベルで行われます。州が定める学習指導基準や学区の方針に沿いながらも、実際にどの教材を使うかは学区ごとに決められています。こうした、現場の裁量が重視される文化や仕組みが、保育園の運営や行事にも色濃く反映されているのだと思います。

最初は、職場の柔軟性と先生に与えられる裁量の大きさに戸惑いましたが、今では、教室内での独自の発想や判断が活きる場面が数多くあることに気づきました。それと同時に、先生同士の教室外での定例会議、その他非公式的なコミュニケーション、価値観の共有がどれだけ大事であるかにも気づかされました。同じ教室にいても、普段は互いに話す時間はほとんどなく、いい意味で、“空気を読む力”が重要になります。

ふと思うのは、子どもたちが成長した後の現実も、必ずしもマニュアル通りではないということです。例えば、将来社会に出たときには、上司や同僚、顧客やビジネスパートナーによってやり方や価値観が異なる環境で、自分で考えて判断し、柔軟に対応する力が求められます。このような先生ごとの違いや裁量に幼いうちから触れることは、生きる力を育むのに役立つかもしれません。

城所 麻紀子(きどころ まきこ)

ボーズマン・モンテッソーリ保育士、元サンディエゴ日本人向け補習校講師、モンタナ州立大学院家族消費者科学科 修士課程


2020年からアメリカのモンタナ州の人口5万人の町で、モンテッソーリ保育園の保育士をしています。
アメリカといっても、白人約90%、アジア人約2%(最近増えました!)という環境です。
あまり日本人の方に知られていない、アメリカの田舎での教育や生活の様子などを共有できたらいいなあと思っています。

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