「教える」と「見守る」のあいだで―アメリカ・モンテッソーリ現場から考える大人の役割
アメリカのモンタナ州ボーズマンという町でモンテッソーリ保育士として働きながら、大学院で学んでいます。
今回は、ボーズマン・モンテッソーリ保育園の教室での大人の役割をご紹介します。
ボーズマン・モンテッソーリ保育士 城所 麻紀子
モンテッソーリ教育における、大人の役割
大人の主な役割は、次のように説明されています。
1.環境を準備する
大人の最初の役割は、子どもが自分で選び、活動できるように教室環境を整えることです。
・棚や教具はすべて子どもの目線と手の届く高さに配置され、身体の小さい2歳児でも自由に選べるよう工夫されています。
・教具や、教具以外の素材も、木、ガラス、陶器など自然素材が中心で、プラスチックはほとんどありません。壊れやすいものもあえて使用し、「丁寧に扱う」、「丁寧に扱わないと壊れる」という経験も大切にしています。
・季節や子どもの興味に合わせて教具や学びを変えます。常に新鮮な発見がある空間を保ちます。
2.子どもたちを観察する
理想的には、大人は教室の片隅で静かに子どもたちを見守るのがよしとされています(現実的には、騒いでしまう子も多く、なかなか実現できないのですが)。
・どの子がどんな活動に夢中になっているのか、どこでつまずいているのかを丁寧に観察します。
・なるべく手を出さず、子どもが自分で解決しようとする姿勢を尊重します。
・必要なときを見極めるため、援助が本当に必要かどうかを注意深く探ります。
3.子どもたちを支援する
子どもが自立して学べるように、最小限の援助を行います。なるべく手を出さないようにするのも、大事な支援の一部です。
・子どもが自分でできることは、できるだけ自分でやらせるよう促します。
・どうしても困っている場合のみ、最小限のヒントやサポートを与えます。
・失敗や試行錯誤も大切な学びの一部として見守り、「自分でできた」「挑戦した」という成功体験を積み重ねられるよう支援します。
4.モデルとなる
大人のふるまい、たたずまいそのものが、子どもたちの学びの材料です。子どもは、とにかくよく真似をします。
・挨拶や言葉遣い、物の扱い方など、日常の所作を丁寧に行います。
・ボーズマン・モンテッソーリの教室内では、周りの子どもたちの邪魔にならないよう、小声で会話をすることが求められます。なので、もちろん、大人もみな、ささやき声で会話をします。
・教具の使い方や片付け方、机を拭く、床を掃くなどの掃除も実演し、子どもが真似できるようにします。
5.信頼関係を構築する
子どもが安心して挑戦できる土台は、信頼関係にあります。
・子どもの話に耳を傾け、気持ちや考えをしっかり受け止めます。
・一人ひとりの個性やペースを尊重します。
・小さな成功や挑戦を一緒に喜び、失敗も大きな学びであることを繰り返し言い続けます。子どもたちが自信を持って行動できるよう支えます。
教室内の大人の配置と役割分担
ボーズマン・モンテッソーリの実際の教室では、次のように大人が配置されます。リードガイド(主任の先生)とアシスタントガイドがチームとなり、子どもたちの成長を支えます。一般的なアメリカや日本の保育園と比べても、その分業の徹底ぶりが際立っていると言われます。
1.主任の先生(リードガイド)
リードガイドの主な役割は、子ども一人ひとりに合わせてモンテッソーリ教具を使い、直接的に教えることです。
・モンテッソーリの5分野(日常生活、感覚、言語、数、文化)にわたり、個別または少人数で教具を提示します。
・子どもの発達段階や興味を観察し、適切なタイミングで新しい活動や教具を紹介します。
・教室全体の秩序や雰囲気を保ち、子どもたちが安心して自立的に活動できる環境をつくります。
・他の大人への指導や、教室運営全体のリーダーシップも担います。
2.アシスタントガイド
アシスタントガイドの一番の役割は、リードガイドが子どもに教えている間、他の子どもがその活動を妨げないように配慮することです。
・教室内の秩序を守り、子どもたちが静かに自分の活動に集中できるようサポートします。
・教具や教室環境の整理整頓、日常的な安全管理、子どもたちの生活面の援助など、実務的なサポートを行います。
・必要に応じて子どもに寄り添い、安心できる雰囲気を保ちますが、基本的にはリードガイドの指示や活動を妨げないように動きます。
保護者の間では、「学校見学の際は主任の先生よりもアシスタントガイドの様子をよく見るのがおすすめ」と言われることがあります。主任の先生は教具を教えることが主な役割で、それ以外の時間、子どもたちは主にアシスタントガイドと過ごすことが多いからです。
私自身も現場で働く中で、まさにその通りだと感じています。教室で子どもたちが自由に活動している時間、アシスタントガイドは子どもたちの身近な存在として、日常の小さな困りごとや喜びに寄り添っています。子どもたちが安心して過ごせる雰囲気をつくるのも、アシスタントガイドの大切な役割です。
大人と子どもの人数比
ボーズマン・モンテッソーリでは、3歳から6歳のクラスの場合、子ども10人に対して最低大人1人が必須です(主任の先生が働き始めた頃は、子ども8人に対して大人1人だったそうです)。
たとえば、32人の子どもがいる場合は、主任の先生1人とアシスタントガイド3人、合計4人の大人が教室を運営します。
一方、日本の認可保育園の配置基準(2024年改正)は、
・3歳児:15人に保育士1人(改正前は20人に1人)
・4・5歳児:25人に保育士1人(改正前は30人に1人)です。
私は、特に改正前の基準を見て、「これはどうやったら、可能なのだろうか?!」と、とても驚いて、主任の先生に報告したのをよく覚えています。
正直、毎日クラスではいろいろなことが起きていて、32人の子どもを4人がかりで見ていても手いっぱいなのに、日本ではこの人数でどうやってクラスをまとめているのか、本当に不思議で仕方がありません。
まとめ
モンテッソーリ保育園の大人たちは、「教える人」と「見守る人」として、それぞれの役割を最大限に発揮しながら、子どもたちの自立と成長を支えています。主任の先生とアシスタントガイド、両方の視点から教室を見てみることで、モンテッソーリ教育の奥深さや現場のリアルな姿がより鮮明に浮かび上がってきます。
現場にはマニュアルがなく、先生一人ひとりのやり方や個性がそのまま教室の雰囲気や日々の過ごし方に反映されます。実際、私自身もアシスタントガイドの役割をオンライン講座などで自主的に学び、現場で試行錯誤しながら子どもたちや同僚と共有してきました。こうした「自分で学び、自分で現場に活かす」姿勢が、モンテッソーリ現場ならではの面白さであり、やりがいでもあると感じています。
クラス運営に正解、不正解はありません。先生たちの個性や工夫が、そのまま子どもたちの日々の経験になっていく―そんな現場の多様性と自由さを、これからも楽しんでいけたらなあと思っています。皆さんの現場では、どんな工夫や学びが生まれているでしょうか。私もまた、これからも学び続けていきたいです。

城所 麻紀子(きどころ まきこ)
ボーズマン・モンテッソーリ保育士、元サンディエゴ日本人向け補習校講師、モンタナ州立大学院家族消費者科学科 修士課程
2020年からアメリカのモンタナ州の人口5万人の町で、モンテッソーリ保育園の保育士をしています。
アメリカといっても、白人約90%、アジア人約2%(最近増えました!)という環境です。
あまり日本人の方に知られていない、アメリカの田舎での教育や生活の様子などを共有できたらいいなあと思っています。
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