社会科目と参議院議員選挙、そして「戦後80年」
小・中・高と、我々(特に社会科の)教員は、「教科書の内容」だけでなく、生きた日常としての選挙や戦争のことを、どれくらい伝えられているでしょうか。
神奈川県立伊勢原高等学校 教諭 朝倉 由真
参議院選挙と社会科目
7月20日は、参議院議員選挙の執行日でしたね。勤務校では、2学年の生徒を対象に、模擬投票を実施しました。
事前指導に十分な時間を割けなかったのが反省点なのですが、こちらが提供した選挙公報をしっかり検討して投票に臨んだ生徒、投票までの流れやどういう記載をしたら無効票となってしまうかを実感できた生徒、とりあえずやってみるけど「まぁなんとなくかな~」という生徒、お借りした本物の投票箱に感動する生徒と、さまざまな様子を見ることができました。
個人的には、彼らの反応は、実社会の大人たちの縮図のようだと感じました。今回の模擬投票が、未来の政治参加の土台となることを願っています。
選挙のしくみについては、公民科目の学習カリキュラムに含まれます。しかし、生徒の理解度はあまり高くなく、または長期記憶として根付きづらいというのが、これまでの私の教員経験での実感であり反省です。
さらに、今回の選挙前後のSNSでのさまざまな発信を見てていると、世間一般において、比例代表やドント方式の当落のしくみについての認知度が低いのかな……と感じました。私は社会科授業にも責任の一端があると強く感じています。
一方で、教育基本法において、政治教育については次のように定められています。
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1.良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない。
2.法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。
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要は、偏りがなければ、実在の具体的な政党や政治家、政策を授業で取り扱うことも可能なのです。
とはいえ、政治活動は禁じられているにせよ、授業を担当する教員にも個人的な政治信条や考えはあり、さらに同じ科目を複数の教員で分担していますから、あまり具体的なものになると、公平性を担保しつつ、足並みを揃えて扱うことはなかなかな手腕を要する困難さがある……というのも現実です。
生徒や家庭にもそれぞれの政治信条・考えがありますし、デリケートなところに「そこまで踏みこまなくても」という教員の心情は、私もとてもよく分かります。
しかしながら、我が国の投票率の低さや、「政治や選挙のことは難しくてよく分からない、しかし、人にも聞きづらい」という多くの人の心理状態は、民主主義という社会制度にとって非常によくないことのはずです。
民主主義も万能ではないし、実は簡単に暴走しかねない危険性もはらんでいます。第二次世界大戦の勃発で、国際社会も日本社会もそのことに手ひどく痛い思いをしたはずなのです。
政治や選挙がもっと開かれた話題となり、日常の中でみんなで(気軽に、時に真剣に)考えていく姿勢が一般的になるほうが良いのでは、というのが私の考えです。
未知ゆえの恥ずかしさを感じることなく、しっかり理解をし、政治参加の練習ができる場はどこか、を考えると、やはり高校の地歴公民科の授業は最大の機会であると思います。
政策の検討、政治家(国会議員)の動向を気にかけること、それらを分析すること、投票先をどう決めるべきかを考えること。授業時数をそれなりに割いたとしても、生徒が行動体験を経て成人後の「本番」に臨めるように。そして、体験によって長期記憶に残る可能性を高めるために、調査活動や討論活動、模擬投票といった授業の実施から逃げない教員でありたい。授業実施のHow toを伝達発信していけるようになろう、と改めて決意した参院選でした。
戦後80年と令和の子どもたち
勤務校では、修学旅行で沖縄に行きます。社会科教員として、事前学習として戦争・平和教育を担当しています。
日頃接している中で、戦争を描いた作品にふれてきた生徒がかなり少数派になったなぁと感じています。さらに、「なぜ日中戦争・太平洋戦争に至ったのか」「戦争の経過はどのようなものだったか」「兵士たちは何を経験したか」「戦後、日本が主権を回復し経済復興に至るまでに、どのような出来事があり、どういった人々が、何を考えて動いていたのか」「一般大衆の生活が戦前、戦中、戦後と、どのようなものであったのか」。
そうしたことをまるで知らない、または、興味がない、という生徒が多数派であるのが、現在の実情です。
終戦からの年月が長くなるにつれ、等身大に捉える生徒の数(大人も、ですよね)は減るのだな、という危機感を抱いています。体験者の声を聴く機会はどうしても減る一方ですし、学校の先生たちにもどんどん余裕がなくなり、戦争教育の手間をかけられていないのかな、とも感じています。
小学校・中学校の先生方、いかがでしょうか。
また、家族でテレビを囲んで視聴するという機会が少なくなったのも、影響として小さくないかも、と感じています。
大衆が戦争の惨禍を忘れたとき、平和は危機に陥ります。人類は古今東西、その状態から再び戦争をするという過ちを繰り返してきました。
戦前の社会状況から、戦禍で自身の身に起こりうること、勝利や敗北がそれぞれ何をもたらすのかなど、等身大に理解し、考えられるような授業を実践したいと思います。
ご家庭や地域でも、ぜひ子どもたちへ様々な手段で伝え、考える場を設けていただけたらと、切実に願っています。

朝倉 由真(あさくら ゆま)
神奈川県立伊勢原高等学校 教諭
神奈川で高校教員として働き始めて10年ほどになります。教壇に立ち始めた頃、地歴科の大先輩に、「10年授業をして、納得できる授業なんてそのうち2~3あるかだ」と教わり、驚きましたが、まさにそうだなぁと実感している日々です。史学科を出ているわけではありませんが、専門は世界史です。
生徒がそれぞれに生きやすい社会をつくりたい、自分の力でのびのびと生きていく力を身につけてもらいたい、少しでも世界平和に貢献したい、と思って教員を務めています。
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