AI時代における成果物について~生成AIと教育評価、学びの過程をどう見取るか~
加速度的に進化していく「AI」。
そんなAI時代の評価について考えていきます。
千代田区立九段中等教育学校 廣瀨 紘太郎
はじめに
ここ数年で生成AI(以下、AI)は一気に身近になりました。便利になった反面、「学校ではどう向き合えばいいの?」という戸惑いも耳にします。
私は最近、成果物のあり方や見方を少し変えてみようと思うようになりました。
評価するのは「完成品だけ」でよいのか。
そこに至るまでの過程や、試行錯誤した形跡も、学びにとって大切な学習の成果なのではないか。
もちろん、総括的評価だけでなく形成的評価や診断的評価など、多様な時期、方法で見取ることが大事です。
しかし、実際には総括的評価である成果物を評価していることが多いのではないでしょうか。
取り締まりより、目的からはじめる
読書感想文やレポートを「AI禁止」で管理しようとしても、家庭学習まで厳格に規制するのは難しいです。
また一人一台端末は配備している今、規制はあってもほとんどの生徒がAIを活用できる環境にあります。
では、どうするのがいいでしょうか。私は元来の課題の目的に立ち返ることが大切だと思います。
課題を出す際、「この課題で何を見取りたいのか」「いまの形式は本当に最適か」などを再度考える必要があるのではないでしょうか。
おそらく、我々教員が見取りたいのは清書された文章だけではなく、生徒が成果物を完成するまでの思考過程、既習事項の関連、粘り強さなどと思います。
その見取りたい事象をどのように可視化するのかが成果物のあり方に深く影響していきます。
紙かデジタルか、AIか否か
「紙に戻すべきだ」「とにかくデジタルだ」といった二項対立は、子どもたちの実態から離れてしまいます。
発達段階によって最適は変わるからです。
紙の良さもあれば、デジタルの良さもあります。
AIも同じで、「使う/使わない」の話ではなく、何のために使うのかが肝心です。
むやみに規制すれば、AIで視点を広げていた子の芽まで摘んでしまう一方、目的を欠いた導入はただの「便利さの消費」で終わります。
単に「〇〇時間が〇〇減った」という働き方改革でAIを利用するだけでなく、教育的効果を高める質の高い教育で活用していくことが理想的ではないでしょうか。
副産物と主産物
先日読んだ俵万智さんの本に、心に残る考えがありました。
言語学者の川添愛さんとの対談の中で、川添さんは「書いている過程が楽しいんですよね。作品は大事だけどあくまで副産物で、文章を書いたりすることで自分をよく知ることが一番の宝物、主産物」と語っています。
まとめると作品は大事だけど副産物。
自分の内側を掘り下げる「過程」こそが主産物なのだと言えます。
おわりに 「見えない成果」を見えるように
以上のように理想論を綴ってきましたが、「評価」については一筋縄ではいきません。
実際には評定の問題や見取るための莫大な時間など、問題は山積されます。
もちろん今までの課題・評価方法を全否定する気は全くありませんが、AIの台頭で今までの方法では不都合が生じていることも事実ではないでしょうか。
私も現場で試行錯誤しながら課題と評価について引き続き考えていきます。
参考資料

廣瀨 紘太郎(ひろせ こうたろう)
千代田区立九段中等教育学校
「活動あって学びあり」をモットーに、日々研究を重ねています。特に国語科教育では、アダプテーション(翻案)の手法を取り入れた授業を実践し、生徒の深い学びを目指しています。
教科の枠を超えて、多様な視点からものごとを捉え、表面的なことだけでなく、その背後にある本質に迫ることを大切にしながらよりよい教育のあり方を皆さんとともに探究していきたいです。
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